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西淀川大気汚染公害裁判

学校内調査資料

教職員      

西淀川区内の教職員は、教育研究会西淀川区社会科研究部として副読本を作成したり、教職員組合を通じて大気汚染公害が教育現場や児童・生徒・教職員たちに与えるさまざまな影響の調査や、公害学習の指導方法の研究、公害児童のサマーキャンプなどを取り組みました。
児童に対する保健指導、クラブ活動での公害調査、公害学習の実践例、児童・教職員に対するアンケート調査などについての資料が残されています。

◆『公害地域における学校保健について』
(大阪市教職員組合西大阪支部福小学校分会 三島里恵、1970年)

大阪市立福小学校の養護教諭が作成した資料です。大気汚染の実態として、西淀川区の亜硫酸ガスの経年変化、福小学校における亜硫酸ガス濃度などのデータが記載されています。また、児童の状況として、自覚症状のアンケート結果、ぜんそく様症状を訴える児童数、福小学校のぜんそく児童の欠席状況のデータが記載されています。福小学校は、区内でも最も大気汚染度が高い地域にあり、多くの児童がぜんそくに苦しんでいることが分かります。

◆『日教組第27次・日高組第24次 教育研究全国集会報告集 第23分科会 公害と教育』
(大阪市教職員組合 西口勲、萱村善彦、1977年)

大阪市立歌島中学校理科クラブによる公害調査と、ぜん息児童を対象にしたサマーキャンプの取り組みが報告されています。
理科クラブの調査では、校区の31地点で手作りの測量計を使い、二酸化窒素濃度を調べました。その結果、28地点で当時の環境基準値を超えていることが分かりました。
サマーキャンプのねらいは、集団生活を通して病気に負けない意欲的な心を育むこと、空気がきれいな場所で丈夫な体づくりを行うことなどでした。

◆「西淀川区における公害の現状と教育と住民運動」
 (大阪市教職員組合西大阪支部 小川和治、同北大阪支部 浜田耕助大阪教職員組合
 『大阪の公害と教育』、1974年1月)

西淀川区の大気汚染公害の現状、教育現場での取り組み、住民運動について、現役教員が図表やグラフを示しながら分析し、文章でまとめた考察です。執筆者の一人である浜田耕助氏は、「西淀川公害患者と家族の会」初代会長、西淀川大気汚染公害訴訟原告団初代団長を務めました。
公害の現状として、「西淀川区いおう酸化物濃度線図」「西淀川区公害被害者救済法認定患者分布図」などが示され、西淀川区が国の基準値を上回って高濃度に汚染され、多くの公害患者が発生していることが分かります。また、中学校理科と社会科で、公害学習が取り組まれていることが紹介されています。さらに、「西淀川公害患者と家族の会」など地域住民による公害反対運動の活動が紹介されています。

◆『市教組教研 西大阪支部教研 公害と教育分科会』
(大阪市立淀中学校教諭 小川和治、1974年11月)

大阪市教職員組合では、教育研究のテーマとして「公害と教育」に取り組みました。これは、1974年11月2日、姫島小学校で開かれた研究集会で配布された資料で、「西大阪支部の大気汚染濃度測定調査報告を中心に公害の実態をつかむ」ことが目的とされ、西淀川区、福島区、此花区の小中学校で測定された窒素酸化物濃度と硫黄酸化物濃度の結果などが掲載されています。

◆『西大阪における公害と教育と住民運動’71年度大教組教育研究集会~公害・過密と教育~』
(大阪市教職員組合西大阪支部 小川和治、1971年11月)

1971年度大阪市教職員組合研究集会で配布された資料で、西淀川区の公害と公害病の現状、教育現場での公害学習の実践、住民運動の取り組みが、文章や図表、グラフ、新聞記事のコピーなどで紹介されています。
公害学習の実践例として掲載されている中学校理科・社会科での授業プラン、また、文化祭での展示プランは、当時の公害学習のようすを伝える貴重な資料です。

◆『公害白書』(大阪市教職員組合西大阪支部福小学校分会、1970年10月)

大阪市立福小学校の教員が、独自に作成した同校の「公害白書」です。教員と6年生の児童に、健康状態、労働時間や学校設備の実情や要望、空気清浄機・扇風機の効果等についてアンケートを取り、その結果を表や文章でまとめています。健康状態については、教員のほぼ全員が、「目いたむ、めやに出る」「咳よくでる」「鼻つまる」「のどいたむ、はしかい」「頭がいたむ」「かぜひきやすい」など、公害によると思われる症状を訴えています。学校設備については、手洗い場、水道の回転式蛇口、換気扇を増やしてほしいなどの要望が出されています。空気清浄機・扇風機については、あまり効果を感じないと答えている職員・児童が多くいます。職員からは、職員や児童の健康を守るための具体策として、勤務後に通院・治療できるよう授業の持ち時間を減らしてほしい、のどが痛く声が出にくいため学級児童数を30人以下に減らしてほしい、冷房を設置してほしい、などの要求が出されています。大気汚染公害の真っ只中にある教育現場の実情を物語る資料です。

◆『第5回西淀川喘息児サマーキャンプのまとめ』

大気汚染公害によって、西淀川の多くの子どもたちがぜん息に苦しみました。そこで、西淀川公害患者と家族の会、大阪市教職員組合西大阪支部、淀川勤労者厚生協会(西淀病院ほか5診療所)は、「西淀川喘息児サマーキャンプ実行委員会」を作り、日頃さまざまな行動制限を受けているぜん息児童に、体力向上や意欲的な生活態度を身につけさせるため、サマーキャンプを実施しました。 1979年7月に行われた5回目のサマーキャンプの実施要項、結果及び総括、運営体制、参加者の感想などを、図表やグラフ、文章でまとめたものです。 キャンプにはぜん息児童14名・スタッフ23名(医師、看護婦、物理療法士、医大生、看護学生、教員など)が参加し、5泊6日の行程で、水泳や体操、陸上トレーニング、呼吸訓練などが行われました。資料からは、子どもたちの健康回復のために、患者会や地域医療や教育現場の人たちが協力してキャンプに取り組んだこと、また、キャンプで得た成果を分析し、今後の治療に活かそうと努めたようすを知ることができます。

◆『わたしたちの西淀川 改訂版』(大阪市小学校教育研究会西淀川区社会科研究部、1973年3月)

西淀川区の小学校3年生社会科の副読本です。まえがきでは、「わたしたちの町をがくしゅうすることは、こうがい、交通じこ、さいがいからわたしたちのいのちとくらしをまもり、安全で住みよい西淀川区をつくりあげていく第一歩です」と述べています。公害については、「空気のよごれから、こうがい病にかかった人の数は日本一」であること、西淀川保健所の「こうがいパトロール」の取り組み、空気の汚れを「西淀川区内の小学校、中学校、病院・区役所・高等学校のおく上や、学校のなかなど、十一かしょ」で調べていることなどが、図表やグラフ、写真、文章で記載されています。

◆『空気清浄機及び暖房器使用中の教室内の環境調査』(作成者不詳、1972年2月)

西淀川区内の小中学校では、煤煙や悪臭、騒音を防ぐため、教室の窓を閉めていました。そんな学習環境を少しでも改善するため、空気清浄機や扇風機、暖房器具が設置されました。この資料は、各小中学校で、空気清浄機と暖房器具を使用した際の教室内の二酸化硫黄濃度、二酸化炭素濃度、騒音、湿度、温度などを測定した結果の一覧表です。空気清浄機と暖房器具使用中の二酸化硫黄濃度は0.05ppm、二酸化炭素濃度は1500ppm以下が望ましいとされていますが、いくつかの小中学校ではその値を超えており、大気汚染が教育環境に与えた影響の大きさが分かります。

◆『区内大気汚染の現状と校園における被害の実情について』
(大阪市立姫里小学校 沢田敏昭、1972年頃)

西淀川区内の大気汚染の現状と、小学校の児童たちへの影響を、図表やグラフ、文章でまとめた資料です。西淀川区内の硫黄酸化物濃度、浮遊粉じん濃度、亜硫酸ガス濃度、公害被害者認定数の他、区内各小学校下別の公害被害者認定数、区内全小学校で精密検診の結果ぜん息と判定された児童数などが掲載されています。
小学校では、毎日のうがいや体力づくりのための体操、肝油の服用など、児童の健康回復に努めていました。資料では、1970年度・71年度には、児童の発育状態が前年度までに比べて改善が見られることに触れ、「区民あげて、このもんだいを考え、学校としても努力してきた事がみのってきているものと思われる」と述べています。

◆『分科会 保健と体育 運動機能検査について』(大阪市立姫島小学校  田喜代美、年未詳)

文部省は、1975年度から健康診断の項目に運動機能検査を追加することにしました。検査の内容は、閉眼片足立ち(平衡感覚)、連続片足とび(下半身の支配能力)、腕曲げけんすい(上体の筋力支配能力)です。このような検査が導入されたのは、「最近児童生徒の体格の向上に必ずしも体力の伸びが伴わない傾向」が見られることから、「体力に関する検査をすべての児童生徒について実施し、健康を総合的に判断する」ためでした。
しかし、この資料は、現役教員の立場からその方針に疑問を投げかけ、問題点を話し合うために作成されたものです。検査の内容や導入の背景、文部省主導による「体力づくり」の取り組みの経緯を説明した上で、「子供の体格や体力の発達は、栄養、運動、睡眠、労働、さらに環境や生活条件とかかわり合っており、以上のトータルなとらえ方の中でしか、その原因追求はできない」ものであって、「真に子供の健康をうれうるなら、文部省自身、体力づくり以前の問題として、公害やさまざまな子供をとりまく問題の対策を積極的に講じなければならない」と訴えています。