大気環境の情報館

日本かおり研究所

森林のもつ力を有効に活用した“空気をきれいにする”事業。

樹木の葉から抽出した精油を大気浄化に活用しようという研究が今、注目を集めています。この新技術「機能性樹木抽出液」を独立行政法人の森林総合研究所と共同開発したのが、エステーのグループ企業である日本かおり研究所。森林の力を活用したこの研究・事業からはすでに様々な商品が誕生しており、大気汚染が深刻なアジア各国での応用も期待されています。

発端は、空気の安全性への疑問。

――まず、日本かおり研究所が誕生した経緯について教えてください。


お話を伺った
代表取締役の金子俊彦さん。

私たち日本かおり研究所の親会社であるエステー株式会社は、ご存知のように、空気環境を快適にするための消臭剤や芳香剤の開発・販売を行っています。エステーは現在、「空気を変えよう」という企業スローガンのもとで、様々な挑戦を行っています。ここで言う“空気”とは、呼吸のための“空気”と、世の中の流れ・雰囲気という意味での“空気”です。

大気浄化についての研究のきっかけは、エステーで商品を開発するにあたって湧いた、「そもそも空気って大丈夫なの?」という疑問でした。そして空気についてよく調べてみると、どうもダメそうだ、つまり、様々な化学物質に汚染されている、ということが分かったんです。けれど、私たちは自分が吸う空気を選ぶことはできません。自然豊かな場所では毎日きれいな空気を吸って暮らすことができますが、都会で生きる人々は汚染された空気の中で生きるしかない……。

そこで、エステーの得意分野である、化学によって空気環境を変えるのではなく、ニュートラルな状態での空気そのものをきれいにしよう、という視点での事業を新たにスタートさせることになりました。そして誕生したのが、日本かおり研究所です。エステーのグループ企業として、“空気”を様々な角度から科学し、研究成果を社会に還元するのが私たちの使命です。

トドマツの精油がNO2の除去に効果大。

――それでは、樹木の葉から抽出した精油「機能性樹木抽出液」に着目した理由について聞かせてください。

私たちが呼吸をする空気中には様々な化学物質が存在しますが、中でも人の健康に影響を及ぼす大気汚染物質のひとつが、二酸化窒素(NO2)です。NO2は、アレルギーの原因物質であるアレルゲン(タンパク質)と結合するとアレルギー症状をより引き起こしやすい状態になるなど、様々な健康障害の原因となっていることが分かっています。

基本的に都市部の空気は様々な大気汚染物質を含んでいるのですが、都市部でも森林の中だけはNO2が少ないんです。植物が呼吸する際に、葉の表面や気孔からNO2を吸収していることは以前から知られていましたが、その他の機能があるのではないか、森林がもつ空気清浄機能をもっと活かせるのではないか、と私たちは着目しました。

2007年に、独立行政法人の森林総合研究所と共同で、“森林資源”を有効活用する研究開発を始めました。この事業は、独立行政法人科学技術振興機構が募集する産学連携・技術移転支援事業における独創的シーズ展開事業のひとつに選ばれ、今年3月の日本木材学会では、私たちの共同研究開発の成果である「樹木精油を利用した環境汚染物質除去剤の開発」が第13回 日本木材学会技術賞もいただきました。

森林総合研究所で様々な樹種を育て、研究を進めた結果、トドマツの葉に含まれる精油ガス(香り)が、NO2の除去と抗酸化において高い効果をもつことが分かりました。精油がもつ過酸化脂質の生成を防ぐ機能で、ぜん息などの発症を抑える効果もあるんですよ。


様々な樹種を研究した結果、北海道モミ(トドマツ)の精油ガスがNO2除去において最も効果が高いことが判明。

間伐後に放置されている“残材”の有効活用。

――この研究を活かした「クリアフォレスト事業」の重要なポイントのひとつが、間伐材の有効活用だとか。

ご存知のように、森林が適切に育つためには間伐が不可欠です。しかし、間伐後には大量の枝葉が残り、その多くは資源として活用されることなく森林に放置されているのが現状です。日本中の多くの森林が、この残材を有効活用する方法を模索しています。それに有効なソリューションを提供するのが、私たちが推進するクリアフォレスト事業です。生育中の樹木の葉から精油を抽出するのではなく、これら残材の葉から精油を抽出することで、残材を有効活用することができます。つまり、森林を守りながら、都市部の空気を浄化することができるのです。

また、私たちは事業の一環として、精油を抽出する装置も新たに開発しました。クリアフォレストを事業として成立させるためには、残材にわずかに含まれる精油を効率的に抽出することが不可欠だからです。この新しい装置は、マイクロ波を利用して短時間で精油を抽出することができます。また、一般的な水蒸気蒸留法と違って水分を加えずに精油を蒸留できるため、廃液が出ず、環境への負荷を小さく抑えられます。さらに、精油と一緒に生成される精水には抗菌や抗ウイルスなどの効果があり、様々な活用が期待できます。廃棄物も出さずに森林資源を有効活用できる、画期的な技術と言えるでしょう。

 
列状間伐されたトドマツの森と、残材の枝葉。適切に間伐することが森林の保護につながる。

クリアフォレスト事業で世界の空気を変える。

――クリアフォレスト事業では、すでに商品化されているものもあるとか。


多くのパートナー企業・団体
とともに、本研究成果を活用
したクリアフォレスト事業を
幅広く展開中。

空気清浄機や加湿器など、トドマツの残材から抽出された成分を取り入れた空気浄化アイテムが、協力会社によっていくつか商品化されています。

その他の応用方法としては、例えば、精油を製剤化して介護施設などで使えるようになれば、空気を浄化できると同時に、自由に移動できない高齢者の皆さんも室内にいながら森の中に身を置いているような森林浴効果を得られます。これについては現在、実用化に向けて研究開発を進めているところです。

先程も言いましたが、クリアフォレスト事業ではこれまで自然廃棄されていた間伐材の葉から成分を抽出しています。樹木を使うというと、森林伐採などと誤解されることもあるのですが、私たちが行っているのはむしろ、森林を守る試みです。日本の国土の7割は森林で、そのうちの4割は人口の森林です。人間が使っているのは森林全体の1%にも及びません。美しい森を守りながら、もっともっとこの魅力ある資源を有効に活用するべきではないでしょうか?

そのためには、様々な機関や企業に協力していただく必要があります。林地残材を集めるためには日本各地の自治体や企業の協力が欠かせませんし、クリアフォレストの技術を活用した商品開発においてもさらに多くの協力企業を求めています。

――この事業は海外でも応用できそうですね。


釧路の抽出プラントに設置された
マイクロ波減圧コントロール蒸留装置。

その通りです。急速な近代化が進むアジア各国をはじめとする開発途上国では、大気汚染による健康被害がますます深刻化しています。クリアフォレスト事業をさらに発展させていければ、海外での需要も喚起できると考えています。

今は、大気中に存在するNO2を減らすという方法ですが、排出するときの排気管にクリアフォレストを入れて、大気中に排出される前に減らしてしまうということも考えています。

樹木の精油が空気を浄化するのは樹木が自分自身を守るためなのか、森林の匂いとも関係しているのかなど、森林のもつ空気清浄の機能については未知の部分が多いと言えます。だからこそ、研究はおもしろい! 今後も、化学物質ではなく、自然の森林のチカラを巧みに活用して、私たちをとりまく空気環境を世界規模でより良くしていきたいと考えています。


  • 会社名:日本かおり研究所株式会社(JAPAN AROMA LABORATORY CO.,LTD.)
  • 所在地:東京都新宿区下落合
  • 事業内容:香り・空気関連製品の研究及び開発
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