大気環境の情報館

本田技研工業株式会社(後篇)

Hondaが次世代に伝える、自由な移動の喜びと、環境問題への姿勢(後篇)

1970年代のアメリカでHondaが見せた、自動車からの排気ガスを大幅に規制する「マスキー法」へのチャレンジは、環境問題へ積極的に取り組むHondaの姿勢を象徴するエピソードでした。今回も引き続き、より良い大気環境を目指し、時代に先駆けた取り組みによって世界規模で大気汚染問題対策を牽引してきたHondaのこれまでと現在、そして未来へ向けたビジョンを伺いました。

アジアの大気汚染に対する、Hondaのチャレンジ

――CVCC」(★1)の成功は、Hondaの環境問題への姿勢を形作っただけでなく、自動車メーカー全体の環境性能向上に大きな影響を与えたんですね。

確かに「CVCC」以降、先進国では排気ガスの規制が加速し、排気ガスはクリーンになっていきました。でも、自動車は、ものすごく使用時間が長い製品なんです。1台の車が作られてから先進国で使用され、その後、途上国で中古車として40年近く使われることもある。だから、途上国の排気ガス問題をクリアして、本当のクリーンを実現するには少し時間がかかると考えています。

★1 CVCC(Compound Vortex Controlled Combustion)
1972年にHondaが開発したエンジンの名称。1970年代当時、世界で最も厳しかったアメリカの「マスキー法」を、世界で初めてクリアした。主燃焼室の横に小さな副燃焼室を作り、濃度の高い混合ガスを副燃焼室で点火して、その火種で主燃焼室の濃度の低い混合ガスを燃焼させる仕組みで、排気ガスに含まれる有毒物質の量を大きく減らすことに成功した。

アジアの大気汚染に対するHondaのチャレンジが、4サイクルエンジン搭載のオートバイ(★2)です。1990年の中頃、タイのバンコクやベトナムのハノイ、マレーシアのクアラルンプールは、マスクをしていないと街を歩けないほど空気が汚れていたんです。その理由の一つは、排気ガス対策がまったくされていない中古車が多く利用されていたこと。そして、もうひとつがオートバイです。

値段が安いオートバイは、一般の人の移動手段として非常に注目を集めていました。でも、街中でたくさんのオートバイが一斉に走り出すと、真っ白な煙が真っ白で前が見えないほど! この実情を見た弊社の代表が「先進国で自動車の排気ガスがこれだけクリーンになったのに、途上国でオートバイが煙を出して走っていていいはずがない」と、2サイクルエンジン搭載のオートバイの製造販売を取りやめる方針を打ち出しました。代わりに、排気ガスがよりクリーンな4サイクルエンジンのオートバイを販売しようとしたんですけれど、構造が複雑であるため、2ストロークより馬力が出ない。「パワーのないオートバイはアジアで売れないだろう」と考えられていましたし、現地の販売法人も「2サイクルの販売をやめたら、Hondaのオートバイはなくなる」とまで言ったんです。

★2 4サイクルエンジン搭載のオートバイ
吸・排気バルブをシリンダーヘッド部に持ち、シリンダー側面のポートから吸・排気を行う2ストロークに比べ、より複雑な4つの行程(ストローク)でパワーを作り出すエンジン。Hondaでは、1997年12月に世界で販売している2サイクルエンジン搭載のオートバイを、4サイクルエンジンに切り替える方針を発表し、日本国内でも2008年からはすべてを4サイクルエンジン車としている。

それにも構わず、1997年に2サイクルエンジン搭載のオートバイの製造を停止し、2000年に2サイクルモデルをなくしました。しかし実際に、4サイクルエンジン搭載のオートバイを販売してみると、排気ガスは臭わず、荷物や服も汚れない。そればかりか、燃費もよく耐久性も高いと人気を集め、一般化していきました。他のメーカーに先駆けた取り組みが市場にも大きな影響を与え、そのことが法規を変えていく原動力にもなった。その後、実際に、2003年にはタイの排ガス規制が変わることになり、2ストロークのオートバイは絶滅しました。

このように環境問題に対するHondaの基本的な考え方は、法規先取りです。それは独自に目標を設定して、規制ができる前に、規制をクリアしてしまうということ。現在はビジネスが拡大し、世界中に60以上の拠点があります。それぞれの国にそれぞれのルールがあるわけですから、なかなか難しいのですが、廃棄物、水、大気汚染物質に関しては、途上国では概ね、現在の規制値の約半分を内部のベースラインをしています。

Hondaの環境問題への認識

――環境課題への考え方を明文化した「Honda環境宣言」を1992年に制定し、現在は、全世界で販売する製品の二酸化炭素排出量を2020年までに30%低減する目標を公表していますね。

2020年製品CO2低減目標(2000年比)

自動車もオートバイなど、人々の生活の基礎となるモビリティを提供しているわけですから、人や環境に迷惑をかけるものであってはいけない。製品そのものの環境への影響が大きいので、製品への取り組みのプライオリティがナンバーワンではありますが、「Honda環境宣言」にあるように、研究、開発、生産、販売、サービス、廃棄と、すべての事業活動における環境負荷の極小化を目指しています。

製品以外の取り組みとしてひとつ例をあげると、1997年頃に「グリーンファクトリープロジェクト」というプロジェクトが社内で提案されました。工場からの埋め立て廃棄物ゼロ化を目指す「ゼロエミッション」(★3)が注目を集め出したのは、2001年頃からだと思うのですが、Hondaは1998年7月に浜松製作所で「ゼロエミッション」を開始しているんです。年次毎にゼロエミッション工場を増やしていくつもりが、うちはレース好きの会社なので「浜松ができるんだったら、うちにだってできる!」と、1999年には、Honda直営の国内生産工場はすべてゼロエミッションを達成してしまっているんですよ。時期が早すぎて注目を集めることはありませんでしたが、これもHondaならではのエピソードです。

★3 ゼロエミッション
1994年に国連大学が提唱した、廃棄物を一切出さない資源循環型の社会システム。事業活動で発生する廃棄物を再資源化して最終処分量をゼロに近づけ、環境への負荷を最小限を目指す「ゼロエミッション工場」に取り組む企業が増えている。

地球温暖化が話題になっているからか、ここ数年、日本でも低燃費自動車や電気自動車への注目が集まっていますよね。ここまで注目が加速するとは、我々も予想していませんでした。そもそも我々は地球温暖化のためではなく、大気汚染防止のために電気自動車の開発に取り組んでいたんですから。1997年にアメリカのカリフォルニア州でZEV規制(★4)というルールが作られました。カリフォルニア州でビジネスをしている自動車メーカーのビック6は、それぞれの販売台数の実績に応じて、2000年までに無公害車を世の中に出さなければいけないというものです。その頃、電気自動車は、アメリカでは無公害車として価値を認められていたのですが、日本ではなかなか関心をもってもらえませんでした。しかし、1997年以降、地球温暖化が話題になると、排気ガスゼロの電気自動車は、CO2も排出しないとわかって注目が集まるようになった。我々が技術的にやっていることは変わらないですが、世間の見方が変わったのを感じました。

現在の自動車から排出される排気ガスのレベルは、マスキー法の以前に比べ、約40年で1000分の1にまで減っているんですよ。ですから、自動車による大気汚染問題は減少していくと安心していただいていいと思います。しかし、大気汚染問題がクリアされた後、気候変動問題が注目されるようになりました。気候変動問題とは、地球温暖化を引き起こす、CO2などの温室効果ガスの問題です。これをクリアするためには、ガソリンエンジンを使っている限り限界がありますから、資源エネルギー問題と一緒に考えていかなければいけない。大気汚染問題を環境の基本に据えながら、世界規模で進行している気候変動問題と、資源エネルギー問題を一緒に取り組んでいくというのが、Hondaの環境に対する課題認識です。

★4 ZEV規制
ZEV(zero emission vehicle)とは、排ガスを一切排出しない電気自動車などの無公害車を指す。ZEVの普及と大気汚染防止を目的に、アメリカ・カリフォルニア州大気資源局が定めた規制では、カリフォルニア州でクルマを販売する自動車メーカーが、販売台数の一定比率をZEVにしなければならないと定めている。


主に塗装工場から排出される揮発性有機化合物(VOC)の推移(四輪塗装面積当たり)


環境課題に対するHondaの認識


  • 会社名:本田技研工業株式会社
  • 所在地:〒107-8556 東京都港区南青山2-1-1
  • 設立:1948年9月
  • HP:www.honda.co.jp
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