研究代表者:内山 巌雄
近年、人の社会的移動が多く、大気汚染の曝露評価は個人に対応した曝露モニタリングが必要になる。 そこで個人サンプラーや尿、血液等の生体試料中の大気汚染物質やそれらの代謝物を測定し、個人の曝露量を推定することが重要である。 このため、今年度は個人サンプラーによる微小粒子に付着した多環芳香族炭化水素(PPAH)の個人曝露量の測定と疾患との関係、尿中、血中の代謝物を用いた、バイオマーカーの有用性やその変動、さらにヒト肺内の元素含量と生活習慣、疾患との関係、大気中浮遊粒子状物質等の測定と、個人曝露濃度の把握を行い総合的に曝露評価を行うことを目的とした。 また実験的研究では粒子状物質により気道肺細胞に誘導される遺伝子発現の変化を包括的に検討して、その適切な生体指標を見いだすこと、実際の環境になるべく近い条件でディーゼルエンジン微粒子を吸入曝露させて、その際惹起される気道の炎症性変化を、転写因子調節、細胞内シグナル伝達系の変化から捉えることを目的とした。
PPAH濃度がディーゼル車からの寄与が大きいことが判明したので、開発されたその他の個人サンプラー、バイオマーカーと組み合わせて個人曝露量と呼吸器疾患、循環器疾患との関連を調査する。 またpyreneの代謝に関するP-450 isoformについてさらに検討をすすめる。 また肺内の沈着成分と個人曝露濃度、生体侵入量の評価を充実させること、粒子状物質、ガス状物質の大気中濃度、挙動についてさらに測定結果を収集し、個人曝露濃度の長期的な計測と影響因子との関連を調査する。 またHCHO-ヘモグロビン付加体の測定法が確立したので、今後さらに分析を進める。
ラットの系においては、粒子状物質のサイズや形状による遺伝子発現のプロフィールの変化をとらえること、気道上皮細胞などの他の気道・肺胞系細胞への影響も検討することなどがあげられる。 一方マウスの系では、曝露条件、特に期間をさらに長期にした時の変化を検討することや、今回肺組織全体にみられたサイトカイン発現様式の変化が、気道・肺胞系のどこに優位にみられているのかを究明する必要がある。
以上より大気中粒子状物質による影響を個人曝露評価により、詳しく評価することができる。 また呼吸器系での変化を、遺伝子レベルで包括的にとらえることができ、適切な曝露指標を見いだしうる可能性があり、呼吸器健康被害の予防策に理論的な根拠を与えるものとなりうる。