ぜん息などの情報館

2-3 小児気管支ぜん息の発症・変動因子に関する研究

研究リーダー:眞弓 光文

研究の目的

過去20年ほどの間にその有症率が急速に増加している気管支ぜん息の発症・変動に関する因子は未だ十分には解明されておらず、小児気管支ぜん息患者も減少していない。
気管支ぜん息の増加は豊かで快適な社会の到来に一致して増加してきた点を考慮すれば、気管支ぜん息の発症予防のための対策には、この豊かで快適な生活を一部であれ放棄しなければいけない可能性が十分考えられる。
したがって、気管支ぜん息の発症予防のための対策は一律に行うのではなく、個々人の素因の強弱に応じて行われるほうがより効率的である。

このような認識の下に、本研究は小児気管支ぜん息の発症やその変動に関わる因子を明らかにして、気管支ぜん息の発症の危険性を早期に予測することがどの程度可能であるかを明らかにすることを目的とする。
危険性が予測できれば、危険性の高い小児に適切な治療や保健指導を実施し、最終的に小児気管支ぜん息患者を減少させることが期待される。

12年度研究の対象及び方法

3年計画で気管支ぜん息患者500名と対照者100名のDNAを採取し、気管支ぜん息の発症・変動に関係すると考えられる9遺伝子12部位の多型を解析して、その組み合わせも含めて、気管支ぜん息の発症・変動に関する因子とその寄与度および発症予測における役割を明らかにする。
遺伝子多型の結果を気管支ぜん息の表現型に応じて層別解析するために、家族歴、個人歴、血清IgE値や抗原特異IgE値など血清生化学値も調査する。
また、今後、世界各国の研究者から気管支ぜん息に関係する新たな遺伝子が報告された場合に迅速に対応できるよう、集めたDNAとデータを保管する。

さらに、気管支ぜん息発症の有無や各種の情報が6歳時点まで追跡できた小児1,300名の臍帯血清を保管し、遺伝子解析の一部がより簡便と考えられる血清を用いた蛋白レベルでの解析で外挿できる可能性が示された場合に対応する。

12年度研究成果

まず、本研究の実施が遺伝子解析を伴うことから、国の遺伝子解析に関する指針にしたがって患者と対照者に対する説明文書および調査票を作成し、班員が所属する各大学の倫理委員会で審査を受け、研究実施の承認を得た。
患者及び対照者からのDNAや気管支ぜん息の病型等に関する情報の採取は、倫理委員会で承認を受けた説明文書および調査票に基づいて研究に対する詳しい説明を行った後に、患者または保護者の同意を得て行った。

今年度は患者、対照者合わせて220名分から白血球を採取し、DNAを分離した。
患者においては、その気管支ぜん息の病型や病態を調査した。
これは今年度の予定数200検体を若干上回る。
採取したDNAを用いて上記遺伝子多型の有無を検索し、その結果は得られた患者情報と共に匿名化して保管し、データベースを作成した。
各個研究により、FcεRIβ鎖遺伝子、IL-4遺伝子、IFN-γR2遺伝子などに、気管支ぜん息に関係すると考えられる新たな遺伝子多型も明らかにした。
提供者の許可が得られたDNAをバンクとしてDNA管理することも順調に進行した。
さらに、昨年度までに収集した1,300名の臍帯血清も、研究計画にしたがって保管された。

今後の課題

平成12年度の研究は、3年計画の初年度として、計画通り順調に遂行された。
今年度の調査研究結果を受けて、平成13、14年度に予定数の気管支ぜん息患者および対照者のDNAと情報を収集し、予定した遺伝子多型を解析することにより、気管支ぜん息の発症・変動に関与する因子とその寄与度を明らかにし、遺伝子多型による気管支ぜん息の発症予測の精度がどの程度正確であるかを明らかにすることが今後の課題である。
その結果が気管支ぜん息の発症予測に基づく発症予防につながることが期待される。
また、十分量の遺伝子バンクを構築し、他の研究者との関連を深め、今後の当該研究の進歩に貢献することが望まれる。

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