研究代表者:秋山 一男
1995年刊行のWHO/NHLBIによるGINA、1998年刊行された我が国のぜん息管理・治療のガイドライン等により、気管支ぜん息の日常管理法、治療法の向上、均一化が図られ、気管支ぜん息患者は世界中のどこにいても一定水準以上の治療法を受けることが可能となるという前提は確立された。
特に薬物療法については、各薬剤の位置づけが明確にされ、段階的治療法として患者の重症度に応じた治療薬が推奨され、これまでの名人芸的な治療からより単純な薬剤選択が可能となった。
このようにほぼ確立された感のあるこれら日常管理法、治療法ではあるが、これらをぜん息診療医が適切に活用し、かつ患者自身が的確に実施・服用しなければ、折角の治療管理法も絵に描いた餅となってしまう。
そこで今後はこれら気管支ぜん息日常管理法、治療法の的確な使用法について患者自身へ普及、定着させることが最も重要な課題である。
気管支ぜん息の日常管理についての患者指導のためにはこれまでの本研究事業において蓄積されてきた保健指導に関する研究成果として、気管支ぜん息を始めとする慢性閉塞性肺疾患に関する患者向けの種々の教材、出版物が作成されてきた。
そこで、本研究ではこれまで作成されてきた種々の出版物、教材をいかにして患者に提供し、有効に活用してもらうかという点に焦点を当て、その具体的な方法・手段を策定、計画、実行することで、その効果の検証を行う。
特に治療のコンプライアンスが悪く、日常管理が不十分で医療者側の手の届きにくい患者群である思春期及び就労成人患者群に対して実効のある保健指導方法・手段の策定を検討し、計画・実行の上、3年間でその効果の検証を行う。
本研究のポイントとしては、
ことを柱とした計画を立てた。
初年度は、
気管支ぜん息治療のコンプライアンスの悪い患者選択基準として、
また研究内容2では、
また個別研究として研究内容1では、
を実施した。
我が国のぜん息死の特徴としては、思春期・若年成人で死因統計のベスト10に入ることと成人ぜん息患者さんは男女比がほぼ1:1であるにもかかわらずぜん息死は男性が女性の2~3倍多いということが挙げられる。
これまでの多くの研究において、我が国におけるぜん息死のリスクファクターとしては、その多くが社会的因子であるといわれている。
その中で思春期若年成人及び就労男性の治療に対する低コンプライアンスは大きな要因である。
しかしながら、これまで低コンプライアンスの具体的な定義、基準は定まっていなかった。またこのような患者群の頻度、実態については必ずしも十分な調査はなされていない。
今回このような患者群に対する適切な保健指導方法についての研究を始めるにあたりその選択基準を設定し、その実態を知ることは有意義なことと思われた。
今回は病院受診ぜん息患者群の中から低コンプライアンス患者を抽出することを試みたが、本研究班班員間でも選択基準について種々の意見が輩出し、小児と成人間のちがい、医師側の視点と患者あるいは患者家族側の視点のちがい、受診・服薬・環境の整備等の自己管理など様々な視点からのコンプライアンスの考え方等、必ずしも統一見解を得るのは容易ではないことが明らかになった。
一応の暫定的な選択基準を決め、数次にわたる調査を実施して改訂していくことが必要と思われる。
次年度は、本年度調査により把握された当該施設の思春期・成人期ぜん息患者群での治療コンプライアンスの悪い患者に対して、治療コンプライアンスが悪い理由を探るための検討を行う。
また対照群として、治療コンプライアンスが良い患者群に対して患者側からみた気管支ぜん息関連情報の必要性(知りたい内容、情報提供方法・手段についての希望等)についてアンケート調査を実施する。
本共同調査により思春期・成人期の治療に対する低コンプライアンスぜん息患者の実態が明らかになり、その原因、要望事項が的確に把握されることにより、当該患者群に対する効果的な保健指導方法が確立されれば、患者さん自身のQOLの向上はもとよりぜん息死の軽減にもつながることが期待される。
本年度の年度目標としては、1.我が国の気管支ぜん息患者における治療コンプライアンスの悪い患者の実態を把握する、2.気管支ぜん息関連情報に対する患者側の要望(ニーズ)を把握する、3.気管支ぜん息患者保健指導のための患者背景把握と研修会の開催、を掲げ実施したが、初年度でもありまだ十分な成果が得られているとはいえない。
しかし、2年度、3年度の研究に向けての基盤整備はかなり進んでいるものと思われる。
次年度からは、研究内容1と2および研究協力者とのより緊密な連携をとることで最終目的を達するよう努力したい。