ぜん息などの情報館

3-2 思春期・成人の気管支ぜん息等の保健指導等に関する研究

代表者:秋山 一男

研究の目的

1998年刊行された我が国の喘息管理・治療のガイドラインにより、気管支喘息の日常管理法、治療法の向上、均一化が図られ、気管支喘息患者は世界中のどこにいても一定水準以上の治療法を受けることが可能となるという前提は確立された。特に薬物療法については、各薬剤の位置づけが明確にされ、段階的治療法として患者の重症度に応じた治療薬が推奨され、これまでの名人芸的な治療からより単純な薬剤選択が可能となった。

このようにほぼ確立された感のあるこれら日常管理法、治療法ではあるが、これらを喘息診療医が適切に活用し、かつ患者自身が的確に実施・服用しなければ、折角の治療管理法も絵に描いた餅となってしまう。
そこで今後はこれら気管支喘息日常管理法、治療法の的確な使用法について患者自身へ普及、定着させることが最も重要な課題である。気管支喘息の日常管理についての患者指導のためにはこれまでの本研究事業において蓄積されてきた保健指導に関する研究成果として、気管支喘息を始めとする慢性閉塞性肺疾患に関する患者向けの種々の教材、出版物が作成されてきた。

そこで、本研究ではこれまで作成されてきた種々の出版物、教材をいかにして患者に提供し、有効に活用してもらうかという点に焦点を当て、その具体的な方法・手段を策定、計画、実行することで、その効果の検証を行う。特に治療のコンプライアンスが悪く、日常管理が不十分で医療者側の手の届きにくい患者群である思春期及び就労成人患者群に対して実効のある保健指導方法・手段の策定を検討し、計画・実行の上、3年間でその効果の検証を行う。

13年度研究の対象及び方法

初年度と同様、本中課題は3研究内容から成り立っている。
すなわち、まず本研究の対象である低コンプライアンス患者についての実態及び低コンプライアンスに陥る原因を探るために、本中課題に関わる全研究者及び研究協力者としての国病国療気管支喘息ネットワーク研究班班員で取り組む「【共同研究】気管支喘息治療における低コンプライアンス患者調査」を本中課題の基盤研究と位置づけ、初年度に策定した「気管支喘息治療のコンプライアンスの悪い患者選択基準」、「気管支喘息治療のコンプライアンスの悪い患者群に関する調査票」を用いて、本研究班員及び研究協力者である国病・国療気管支喘息ネットワーク研究班班員により施設状況及び受診中の小児・成人喘息患者群中の低コンプライアンス患者についての調査を実施した。

その上で、これら低コンプライアンス患者群に対しての効果的保健指導方法の確立のための研究として、効果的な情報提供方法の開発に重点を置いたいわば低コンプライアンス患者群に対する情報のインプットの面からの研究である「【研究内容1】思春期・成人期気管支喘息等の患者への効果的情報提供方法の確立に関する研究」、及び情報提供の結果としてこれら低コンプライアンス患者群に対しての効果的な患者教育、自己管理法の確立をめざしたいわば情報のアウトプットの面からの研究である「【研究内容2】思春期・成人期気管支喘息等の患者が実行可能な保健指導の基盤整備に関する研究」を相互に研究内容を補完しあいながら実施した。

「【研究内容1】思春期・成人期気管支喘息等の患者への効果的情報提供方法の確立に関する研究」では、「(1)専門病院の内科と小児科に受診中の思春期喘息の実態調査」においては、前回の調査対象患者への追跡調査として予備調査を実施し、情報提供方法の開発と試行に関する研究としては、昨年度から検討してきた「(2)携帯用インターネット(i-mode)用「オンライン喘息電子日誌」を用いた自己管理支援システムの開発」、「(3)ホームページを活用した保健指導及び喘息理解度セルフチェックシステムの開発」、「(4)電子メールマガジン及びホームページを活用した思春期患者への情報提供方法の確立」及び「(5)コンプライアンス不良患者への積極的指導法の研究―喘息テレメディスンシステムを用いた検討―」を各個研究として実施し、その途中経過について検討した。

「【研究内容2】思春期・成人期気管支喘息等の患者が実行可能な保健指導の基盤整備に関する研究」では、(1)アンケート調査:外来通院中の小児喘息患者及び成人喘息患者を対象に、思春期及び成人喘息の実態、心理テスト、QOL調査、(2)日常臨床で環境モニタリングに用いることのできる環境アレルゲン等の測定法の開発、(3)効果的な個別保健指導及び集団保健指導の検討:家庭訪問、携帯電話(i-mode)法、FAX通信法、集団保健指導──について実施し、その効果を検討した。

13年度研究成果

本研究のポイントとしては、思春期・成人期の特徴を踏まえること、及び低コンプライアンスに陥る原因、環境条件を考慮した情報提供の面と患者自身の実行面からのアプローチを柱とした計画を立て実施した。

【共同研究】では、昨年策定した低コンプライアンス患者選択基準を用いた患者調査及び診療施設側の問題点を探るための医療施設における患者対応状況についての調査を実施した。班員施設を含めて国病・国療17施設から施設調査、及び153名の患者調査結果を得た。低コンプライアンス患者さんの調査結果からは、医師が考える重症度として中等症が80%以上であるにもかかわらず、定時処方があるにもかかわらず不定期受診(52.3%)、定期受診はするも指示に従わない(34.6%)、発作時のみの来院(22.2%)、等であり、患者自身の重症度の見誤り、特に自分の喘息状態を軽くみていることが強く示唆される結果であった。

「【研究内容1】思春期・成人期気管支喘息等の患者への効果的情報提供方法の確立に関する研究」では、「(1)専門病院の内科と小児科に受診中の思春期喘息の実態調査」においては、国立療養所南福病院小児科を受診していた前回の調査に参加した20名に対して調査を実施したが、その内、5名しか回答を得られなかった。現在の連絡先が不明の者が8名あり、この年齢での継続調査の困難さがうかがわれた。情報提供システムの試行研究では、「(2)携帯用インターネット(i-mode)用「オンライン喘息電子日誌」を用いた自己管理支援システムの開発」においては、本法が中高年でも十分使いこなせることが明らかになり、特に高年齢層におけるインターネットへの慣れ親しさは、年齢よりも個人差の問題であると思われた。「(3)ホームページを活用した保健指導及び喘息理解度セルフチェックシステムの開発」では、ホームページにはアクセスしてもセルフチェックまで実施する割合は多くはなかった。「(4)電子メールマガジン及びホームページを活用した思春期患者への情報提供方法の確立」では、新しく開設したメールマガジンへ短期間で多くの会員登録があった。さらに「(5)コンプライアンス不良患者への積極的指導法の研究-喘息テレメディスンシステムを用いた検討-」では、まだ少数の試行ではあるが、予約外受診は平均4.2から1.5回/6カ月に、入院回数は平均0.86から0.14回/6カ月に減少した。これら新しいIT技術を活用した情報提供システムは各々一定の成果を上げていることがわかった。

「【研究内容2】思春期・成人期気管支喘息等の患者が実行可能な保健指導の基盤整備に関する研究」では、(1)アンケート調査においては、思春期には年齢に反比例してコンプライアンスが低下することが明らかになり、主治医はその根拠に服薬(吸入)、外来本人受診、不定期受診を挙げ、患児(者)・保護者と主治医の重症度評価・治療効果・予後観等とのずれがあることが明らかになった。(2)アレルゲン等の測定法においては、テープ法と掃除機法(Der 1量)では有意な相関が見られたが、相関係数が低いため方法の特性が異なると思われた。(3)個別保健指導では、家庭訪問によっては積極的な環境整備と生活指導の重要性が再認識された。携帯電話(i-mode)法では、呼吸器感染による喘息発作時の対策などを直接本人に指導するなどの効果があった。FAX通信法は、利用件数が少なく、今回の目的は達成できなかった。(4)集団保健指導においては保健指導ができた9例のうち33%が低コンプライアンス例で、2例は「多忙」、1例は「面倒」を理由としていた。

本年度の研究成果から、思春期・就労成人における低コンプライアンスの実態を把握し、その原因を明らかにすることにより、本年度試行した各種情報提供方法及び患者指導方法の効果の検証の上に、次年度には最も有効な保健指導法を提示する予定である。

このページの先頭へ