ぜん息などの情報館

2-1 同一地域、同一手法による小児気管支ぜん息等の動向把握と比較検討に関する研究

代表者:西間 三馨

研究の目的

気管支喘息の経年的疫学調査においては、同一地域で、かつ、確立された調査手法で行われることが理想的である。我々は1982年に西日本11県の小学校1~6年生の児童5万5千人を対象にATS-DLD日本版・改訂版による大規模疫学調査を行い、次の結果を得た(アレルギー、32:1063,1883)。

1)喘息有症率は男:3.83%、女:2.49%、全体:3.17%で学年が上がるにつれ減少し、小学6年生は1年生の3/4であった。2)都市部が非都市部に比して1.5倍多かった。3)喫煙、暖房との関係は認められなかった。4)大気汚染との相関がみられた。5)二親等内にmajor allergyの家族歴のある群の喘息有症率は、ない群に比して2.4倍、気管支喘息の家族歴のある群のそれは3.8倍であった。

その後1992年にも同一地域で同様の調査を行い、1982年の1.4倍の増加を認めた。また、喘息以外のアレルギー疾患の有症率調査も併せて行った(アレルギー42:192,1993.日小ア誌、7:59,1993)。

今回、20年後における同一地域、同一手法によって喘息有症率の変動の実態とその要因を喘息以外のアレルギー疾患も含めて調査検討する。このことは、有症率のきわめて高いアレルギー疾患群を診断治療し、対策を行う上での基礎的資料となる。

また、国際的比較をするために全世界と同時期に同一手法で行うISAAC(International Study of Asthma and Allergies in Childhood)第III相試験への1995年(第I相試験)に引き続く参画、ならびにATS-DLD方式とISAAC方式の有症率の相違の比較検討を行う。
最終的に西日本地方における1982、1992、2002年の3回の大規模疫学調査と、1995、2002年の2回のISAAC調査を総合して、小児気管支喘息等の動向把握と比較検討を行うことを研究目的とする。

3年間の研究成果

日本における気管支喘息の有症率調査はATS-DLD日本版・改訂版によって行われてきており、この方式はISAAC調査より厳密である。両者の値は問診項目の組み合わせで近似でき、ATS-DLDでの値の2.1倍がISAACの値に相当する結果であった。1982年(第1回survey,対象55,388人)、1992年(第2回survey,45,674人)、2002年(第3回survey,35,582人)の計3回、西日本11県の同一地域・同一小学校の1~6年生児童を対象に行われた。喘息有症率は第1回:3.2%、第2回:4.6%、第3回:6.5%と増加を続けている。その経年的変化の主なものは次の通りである。(1)性差は男:女=1.5~1.6:1で変わらない。(2)高学年になっても有症率が低下しなくなった。(3)全県で増加している。(4)地域差や人口密度による差はみられなくなった。(5)低年齢発症になってきている(1歳以下の発症が第1回:15.0%、第2回:16.1%、第3回:23.1%)。(6)大気汚染、室内喫煙、暖房、冷房では有症率に大きな差はない。(7)家族歴にアレルギー疾患を有するもの、及び乳幼児期に気道感染を繰り返したものの有症率は著しく高い。また臓器特異性もみられた。

喘息以外のアレルギー疾患有症率調査は1992年と2002年に行っている。その結果はアレルギー性鼻炎:15.9%→20.5%、アトピー性皮膚炎:17.3%→13.8%、アレルギー性結膜炎:6.7%→9.8%、スギ花粉症:3.6%→5.7%、いずれか1つ以上のアレルギー疾患を有するもの:31.3%→34.1%であった。アトピー性皮膚炎以外のアレルギー疾患はすべて年齢が長ずるに従って有症率は高くなっており、かつ2002年の方が高率であった。

ISAAC調査(1995年の第I相、2002年の第II相)ではアトピー性皮膚炎以外のアレルギー疾患の増加が確認され、アジア地区の委員会に結果を報告した。世界全部のデータは現在、オークランドのセンターで集計・解析中である。また今後、海外の報告が出されるに伴い、第I相試験の結果も含め、国家間の相違について検討を加えている。

評価結果

同一地域、同一手法に加え、調査に携わる医師も同一であるという大規模疫学調査は世界的に貴重であり、たいへん重要かつ意義ある調査である。ISAAC調査による国際的な比較は興味深く、わが国独自の要因の有無を知るうえで有用である等の評価を受けた。
一方、地域差の減少や低年齢発症の増加などの考察がやや物足りない。国際的有症率増加の原因解明には方法論的に手詰まりがあるとの指摘もあったが、今後も継続的に調査を実施すべきとの指摘を受けた。

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