ぜん息などの情報館

2-4. 思春期・成人の気管支ぜん息、慢性気管支炎、肺気腫の発症・変動因子に関する研究

代表者:大田 健

研究の目的

気管支喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症にはいろいろの因子が想定され、基礎的な研究を通じてその検証が広く行われている。しかし、未だ決定的因子は明らかではない。

気管支喘息は時間経過とともにその症状が変動することが知られている。例えば、小児喘息の約70%は思春期から成人に向かって寛解(outgrow)し、残りの約30%は思春期以降に持ち越すことが知られているが、寛解か非寛解かという変動因子については十分な検討がなされていない。また気管支喘息では、遺伝、アレルゲン、気道過敏性を支持する論文はある。しかし、その寄与率については、まだ明らかではない。変動因子特に増悪因子については多数の候補が挙がっているが、メカニズムまで、明らかにされ確立されたものは少ない。これらの因子を明らかにすることによって、近年増加傾向にある喘息の発症予防を可能とし、寛解を妨げる因子や難治化に向かわせる因子などの変動因子を解明することを目的とした。

COPDの発症には喫煙が関与していることが知られているが、近年の調査研究から肺の成長、気道反応性の亢進、小児期の感染など喫煙以外の因子についても危険因子として指摘されている。しかも、海外や本邦でCOPDのガイドラインが近年になり作成されているが、その中では、従来の肺気腫や慢性気管支炎といった病理・臨床診断にかかわらず、非可逆性の慢性閉塞性換気障害を一つの症候群ととらえ、あらたにその病態を解明する必要性も指摘されている。

以上のことをふまえ、喘息やCOPDの発症機構あるいは発症に関与する因子を明らかにすることは、各疾患の発症を予防する方策を確立することを可能にするものであると考えた。本研究では、患者のQOLや予後の改善に必要な生活環境の整備や治療における標的を確定し、より良い生活指針と治療法の確立するために、喘息の発症・変動因子を明らかにすることを目的とした。

3年間の研究成果

気管支喘息、COPDにおける疫学、臨床、基礎の各研究分野での文献のなかから、発症の危険因子として宿主要因(遺伝、気道反応亢進、成長)と外的要因(喫煙、職場環境、大気汚染、感染、社会経済)に分け、それぞれの成績に関して、立証の程度につきランク付けを行い、因子の信頼性について整理した。また、研究参画者の独自の仮説に基づき施行された研究について、その方向性をまとめ、いかなる変動因子の解析が必要であるかを検討した。

これらの研究結果をもとに、平成12年度に34の質問を作成し、合併症、喫煙、症状、重症度、QOL、アトピー素因、発作の誘因、環境、家族歴、職業歴、既往症といった100以上の項目のアンケートを作成し施行した。平成13年度に262例(男性149人、女性106人、不明7人)で年齢は58.0+19.0歳を対象に検討した。さらに平成14年度には患者群として398人(58.1+17.5歳)、医師より臨床データとして498人、また対照群として新たに健常者のアンケート122人(38.1+11.5歳)について解析を行った。

喘息では喫煙でCOPDの要素が加わる率が高くなるだけではなく、重症度や呼吸機能検査も悪化することが示された。アトピー素因は入院の危険率をあげることが示唆された。また、健常対照群と比較すると、小児の感染では麻疹がこの疾患の発症に関連する可能性が示唆された。同様の検討で、今回の調査ではペット飼育との関連が見いだせなかったが、これは環境・掃除の要因も関与していると考えられた。

COPDでは、男性と加齢の因子はこの疾患の重要な発症・変動因子であると思われた。また、喘息にCOPDの要素が加わると呼吸機能が低下することが示された。さらに喫煙指数と疾患重症度を検討すると、COPDにおいては喫煙が発症の因子であるが、容量依存的ではなく、喫煙指数は一定の閾値を有して発症に関与する可能性が示唆された。COPDでは、普段より呼吸苦が強いことが入院の危険度が高いといえる。

今回の検討では健常群より麻疹、流行性耳下腺炎、風疹はCOPD群のほうが既往率では低い可能性が示された。また臨床検査の解析で、COPDでは軽症でも既にDLco が低下し、それはCTでの低吸収領域の範囲とも相関する傾向が認められており、これも興味ある新たな所見であった。これら重要な要因につき、さらにプロスペクティブな検討の重要性が示唆された。

評価結果

喫煙がぜん息重症化の悪化要因であることが再認識された。CpG-conjugate研究は、アレルギー発症後の根治療法として将来性がある等の評価を受けた。
一方、EBMに基づいた予防・管理の簡易な手引書作成は必要であるが、日本呼吸器学会で作成されたCOPDガイドラインとの整合性が必要であるとの指摘を受けた。

このページの先頭へ