ぜん息などの情報館

3-4 地方公共団体における環境保健事業の効果的推進に関する研究

研究リーダー:西牟田 敏之

研究の目的

小児気管支喘息の罹病率は年々増加しており、その大半は3歳頃までに発症している。増加の原因としてダニによる感作が指摘されており、これに関連した家庭の住環境、住み方が重視されている。喘息児の増加は必然的に医療費の増加をきたし、小児慢性特定疾患の「喘息」受給者も増加して公費助成は増加する。こうした現況にあって、喘息発症予防に関する取り組みは、国民の健康維持の観点からも、医療費抑制という経済的観点からも重要な事業、施策であると考えられる。

一方、小児気管支喘息はコントロールが良好であるほど寛解率が高まり、寛解時期も早いことが判っている。喘息のコントロールに必要な治療管理は、アレルゲン回避、薬物療法、運動鍛練、心理療法等によってなされるが、これらを的確かつ継続的に行っていくためには医療機関と患者との間の指導だけではなかなか達成することが難しく、保健所や自治体における地域保健指導体制や、ことに園児・学童・生徒に対する学校保健指導との協力が有効な手段になると考えられる。

さらに、地域における喘息児の鍛練実施とその場を活用した喘息教育の効果は、協会の助成による地方公共団体の喘息キャンプや水泳教室で実証されているところであり、このような喘息患者の健康回復事業もより積極的な方法として維持発展することが望まれる。

本研究は、こうした視点で実施されている公健協会の健康診査事業、健康相談事業、機能回復事業を客観的に評価し、それぞれの機能連携の見直しを図ることにより、地方公共団体において的確に運用されるようになり、その機能がより一層発揮され、喘息発症予防と寛解率の向上に貢献することを目的としている。

3年間の研究成果

平成12年度の研究では、1)高齢者の連続剖検例、約4,500例における肺気腫の頻度と実態を明らかにし、2)高齢者のCOPDの栄養学的な問題点を検討した。3)高齢COPDではQOLの把握が必要であるがそのための客観評価方法としてのVAS-QOL(QOL Scale)を開発し、これが臨床応用可能であることを示した。4)本研究班が提唱する包括的呼吸リハビリテーションを実施し、その効果を実証した。

13年度研究成果

健康診査事業の評価を行うために、堺市における4カ月健診者の6歳までの追跡調査と、四街道市における10カ月健診者の3歳までの追跡調査の成績をもとに、鋭敏度と特異度から得られるROC曲線でスクリーニング時期を検討した結果、4カ月では早すぎると結論した。

健康診査事業で、喘息発症リスク児を3親等内の喘息、本人の痒みが強い反復する湿疹、遷延咳嗽、喘鳴を基準とすると、対象者の46%にスクリーニングされる。発症予防の最初の指導は集団で行うのが効率的であり、健診事業の事後指導に位置づけるのが妥当である。健康相談事業への勧奨は、事後指導において気道症状を呈するリスク児を対象に行うのが効率的である。相談事業は、個別に反復して行うのが効果を高めるのに適している。10カ月、1歳半時に気道症状があった人で、相談事業参加(+)と参加(-)の人の3歳時の喘息率は、前者で32%、後者で42 %であり効果が認められる。相談事業評価にあたっては、リスク児で介入群、リスク児で非介入群、リスクなし群の追跡調査が必要であり、その機能を有する健康診査事業の連携が重要である。症状経過が相談事業の指導内容の実践情況と関連して検討されると、事業の評価に役立つ。川崎市の日記による解析では、日記(+)群で環境整備が優れており、1年後の喘鳴改善率も56%と良好であり、日記記載による動機づけの効果が役立つと思われた。

思春期喘息患者に対しては、自己管理能力を高める目的で、学校をフィールドとした養護教諭による喘息日記とPEFモニタリングの指導による介入を行った。この試みはまだ対象者が少なく、今後の検討を要するが、PEFの普及による医療機関への患者情報として役立ち、的確な長期管理に貢献する可能性がある。自治体における思春期喘息相談は、治療管理の矯正とアドヒアランスの向上に役立ち、効果があることが確認された。

喘息児に対する水泳教室の機能訓練効果を、肺機能、予後から検討し有効性を確認した。自治体の水泳教室終了後に水泳を継続できるように、脈拍、ピークフロー、経皮的酸素飽和度の測定を導入して安全かつ効果的な水泳訓練法を呈示した。また、幼児期における水泳導入と訓練法について、マニュアルを作成した。

評価結果

ぜん息の軽症化、発病予防を指向しての健康相談事業、健康診査事業、機能訓練事業への勧奨、学校指導、保健所の関与も有用である。提言の実効性、指導の効果も見られる。環境保健事業の効果的推進の方策を具体的に示した等の評価を受けた。
一方、今後は本研究成果を社会に還元できるよう、自治体・学校・保健所等への周知、Outcomes Researchを正確に行うことが重要であるとの指摘を受けた。

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