ぜん息などの情報館

1-1 気管支ぜん息の発症リスク低減に関わる因子の検索と管理・指導への応用に関する調査研究

代表者:森川昭廣

研究の概要・目的

近年、日本を含む世界各国において、気管支喘息、特に小児の患者の増加、低年齢化が報告されている。これまでに、小児の喘息発症の増加の原因として、乳児期の気道感染、大気汚染の進行、生活環境の影響が考えられているが、リスクファクターは多岐に及び、相互に複雑に影響しあうことが推測される。このため、乳幼児期に小児の喘息発症と関連する因子をEvidenceをもとに明らかにし、喘息の発症が推測される児や喘息の重症化が推測されるハイリスクの乳幼児に対し、発症予防の指導や治療の早期介入を行うことは重要である。今回、乳幼児期の喘息発症に関するリスクファクターの検出、解明を行い、健康診査事業に係るスクリーニングの時期、基準等に関する知見の充実を図ることを計画した。

年度ごとの研究目標(計画)

平成15年度

本研究は、乳幼児の喘息のハイリスク群に対し、健康診査事業及び保健指導等の介入によって喘息発症の阻止や予後改善を展開することを目的としており、その計画を具体化するため、気道過敏性などの客観的指標をベースにした喘息発症因子の特定の集団での検討、発症因子の検討として、急性細気管支炎から喘息への移行過程や移行させる因子の解明、アトピー性皮膚炎患者における喘息の発症頻度とその予防策についての検討を行なう。疫学的検討では、喘息発症後の経過と環境要因やケア方法との関連と、乳幼児期の喘息の発症、悪化におけるEvidence Basedなリスクファクターの解析、喘息ハイリスク群と非ハイリスク群における喘息予防の健康教育と発症率の検討を行うこととした。ぜん息予防の介入に関する前向きコホート調査として、実施計画のプランニング、疫学の予測設定、実施マニュアルの策定とパンフレット作成、さらに実施する自治体と綿密な打ち合わせ、ダニ測定キットの開発および検討の実施を計画している。

平成16年度

本研究は6つのプロジェクトから成り立っている。すなわち、1.気道感染等に関する喘息発症因子の検討、2.アトピー性皮膚炎患者における喘息の発症頻度とその予防策についての検討、3.急性細気管支炎から喘息への移行過程や移行させる因子の解明、4.喘息発症後の経過と環境要因との関連、5.乳幼児期の喘息の発症、悪化におけるEvidence Basedなリスクファクターの解析、6.喘息発症に関するハイリスク群における室内環境整備・食生活改善などの保健指導による積極的介入と喘息の発症予防効果の検討である。昨年度に引き続き、各研究では、症例数や実験対象を増やし検討を重ねること、得られた結果や資料の解析を行うことを計画した。

平成17年度

乳幼児期小児気管支喘息のリスクファクターの検出について、本年も、1村全体の就学予定児全員に対するアンケート調査と肺機能検査、産婦人科医院において健康乳児の出生後より皮膚表面水分量、角質厚の経時的測定を中心とした喘息発症因子の検討を続行する。感染と喘息発症の検討では、human metapneumovirus(hMPV)の小児喘鳴性疾患への関わりについての検討を行う。乳幼児における喘息の実態調査では、群馬県全体において調査を開始する。乳幼児期の喘息の発症、悪化におけるEvidence Basedなリスクファクターの解析では、保健事業の関係者を対象とした冊子を完成させる。予防と介入に関する研究では、昨年度までに1歳6か月児健診でスクリーニングしたリスク群の要因分析(素因、環境、感染症など)と、既に喘息発症している群と乳児期の予防教室との関係について検討を行う。

3年間の研究成果

平成15年度

  1. 群馬県H村の平成16年度就学予定の全小児における乳幼児期の気管支喘息の発症のリスクファクターの検出を開始した。すなわち、群馬県H村の平成16年度就学予定の全小児の保護者にATS-DLD方式をもとにしたアンケートを行い、全員に採血を施行し、血清学的検査に備えた。気道過敏性測定の結果、喘息の有症率は10%以上であった(群馬大学小児科 望月博之)
  2. 産婦人科医院における全新生児の皮膚バリア機能の発達について検討を開始した。すなわち、産婦人科医院において分娩する母親から詳細な家族歴や分娩歴を聴取し、出生から生後1カ月までの皮膚バリア機能の発達について検討した。皮膚バリア機能は、年齢的な変化を示すことが明かとなった(群馬大学小児科 荒川浩一)
  3. RSウイルス感染症により入院した児と喘息の発症の検討を開始した。本年度は、RSウイルス感染症により入院した児の急性期と回復期の尿中ロイコトリエンE4の測定を行ない、喘鳴と尿中ロイコトリエンE4の関連につき検討した(幌南病院小児科 高橋 豊)
  4. ATS -DLD呼吸器症状標準質問項目に新たに小児の生活環境に関する質問項目を付け加えた新質問調査票を県保健予防課から保健所を通じて、県下69市町村において実施することを計画した。1才6ヶ月検診および3才児検診の全受診者を調査対象とし、その際、有症状の児童およびその親に対して本研究の主旨を説明し、理解・協力を得て、さらに治療法ごとの予後を明らかにする追跡調査研究の対象者として登録していただくとともに、アレルギーに関するパンフレットをもとに保健指導を行い、予後を観察調査することを進めた(群馬大学公衆衛生学科 小山 洋)
  5. 乳幼児期の喘息の発症、悪化におけるEvidence Basedなリスクファクターの解析として、各分野の7名の専門家を指名した。これまでの喘息の発症因子、悪化因子、疫学的検討に関する専門誌の報告を中心に、喘息発症、悪化のリスクファクターの検出を分担して行ない、重要と思われる論文のリストアップを行なった(群馬大学小児科 森川昭廣)
  6. 研究目標(計画)に沿って、平成16年4月より行う1歳6か月健診でスクリーニングおよび喘息予防教室の実施、また、調査研究評価システムが予定通り、準備ができた。スクリーニング用の問診票の策定とその保健指導に用いるパンフレットの作成および自治体と綿密な打ち合わせによる実施マニュアルなども策定できた。また、ダニ測定システムの開発もできた(大阪市立大学 新平鎮博)

平成16年度

  1. 乳幼児期の気管支喘息の発症のリスクファクターの検出では例数も増え、同様の結果が得られた。
  2. 1ヶ月時の頬部表面水分量、角質膜厚は、それぞれ有意に低値、高値であり、アトピー性皮膚炎の予知因子となる可能性がある。
  3. アレルギー性疾患の家族歴、喘鳴の既往、喫煙者の存在が喘息発症の危険因子と考えられる。
  4. 乳幼児におけるぜん息発作を有する児の頻度の実態調査を群馬県内において開始した。
  5. 乳幼児喘息のEvidence Basedなリスクファクターの解析として、喘息の発症因子、悪化因子、疫学的検討に関する総括的レポートを作成した。
  6. ハイリスク児に対して、積極的介入群(当日の教室を受講)と非積極的介入群(パンフレットのみ)の二群とし喘息予防教室の開催を行なった。ハイリスク群では、家族歴と感染により気道症状をおこすこと、環境にいるダニ陽性率の季節変動(夏場に多い)などが明らかとなった。

平成17年度

乳幼児の喘息発症のリスクファクターの検出では、喘鳴のあった小児は全体の21.7%、喘息と考えられる小児は全体の10.4%であった。1施設で出生した健康新生児の乳児期におけるアレルギー性疾患の発症率は、アトピー性皮膚炎が12.4%、喘鳴性疾患が 16.4%、食物アレルギーが7%であった。喘鳴を主訴に受診した患児の16.9%にhMPVが陽性であり、喘鳴児でより高率に検出された。
ATS-DLD呼吸器症状標準質問項目に新たに小児の生活環境に関する質問項目を付け加えた新質問調査票は県下69市町村において実施された。乳幼児期の喘息の発症、悪化におけるEvidence Basedなリスクファクターの解析では、最終的な冊子の原稿、図表が完成した。予防と介入に関する研究では、1歳6か月で既に喘息を発症した群の要因分析、乳児期に予防教室を受けた群に関する検討、家庭のダニ検査について検討を行った。この早期喘息発症群では、喘息発症リスク群の要因の中で環境的な要因の関与が少ないこと、また、乳児期に自治体による保健指導を受けた群では喘息発症が低い傾向などが明らかになった。

評価結果

平成15年度

乳幼児のぜん息ハイリスク群を対象とした診査、介入については、ぜん息の発症因子として遺伝子因子の検討は重要である。また、皮膚バリア機能とぜん息発症との間に相関やダニアレルゲンの低減化とぜん息症状の関係は興味あるテーマである。ダニアレルゲンの定量やぜん息症状及び重症度の評価を客観的かつ正確に行う必要がある。また、ペットの問題で、出生前、出生後の飼育によって差がみられるのか、悪影響があるのかをより明らかにしてもらいたい。その他、大気汚染影響の有無がハイリスク群の発症にどのように関わっているのか、また介入による効果にも差があるのかについての解析を期待するとの意見があった。

平成16年度

リスクファクターの検出とスクリーニングに関する検討については、分娩する母親よりの家族歴、分娩歴などを聴取し、その結果をもとに追跡調査し、関係を調べるという研究は興味深く、意義あるものと考える。対象数が少なく結果は判定しにくい。ウイルス感染の重要性が示されているが、本研究での成果は従来の見解を再認識するものであり目新しいものは無いように感じた。しかしウイルス感染の問題は重要であるので新しい視点からの研究を望みたい。

予防と保健指導の効果に関する検討においては、対象の選択、積極的介入の内容の把握をしっかりして分析していただきたい。また、介入の強弱についての判定は困難であるから介入効果の受容度を評価する指標を加えることが必要である。ぜん息のハイリスク児に環境の面から介入すると、どのような、また、どの程度好影響が見られるかに力を注いで頂きたい。

平成17年度

特定コホートにより幼児ぜん息の疫学、リスク因子の研究には独自性が認められた。またリスクファクターの検出とそのスクリーニングに関する研究では、科学的根拠として信頼がおける方法論を用いており、冊子の作成ができたことは評価できる。予防と介入の効果に関する検討では、喫煙率が高い地域での調査結果が普遍的であるかの検証があると更によいが、肺機能のような客観的指標を用いて観察されており今後が期待できる。衛生仮説についての検証を今後とも続けるとともに、効果的な保健指導について再度評価する研究を続けてほしい。

1-1 乳幼児のぜん息ハイリスク群を対象とした検査、介入による事業展開の重点化に関する研究

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