ぜん息などの情報館

2-1 思春期気管支ぜん息患者を対象とした地域連携による保健指導のあり方に関する研究

代表者:西牟田敏之

研究の概要・目的

本研究は、思春期を迎えて軽症化や寛解が得られなかったぜん息患者のうち、医療機関との接点が希薄になって適確な治療管理の継続が困難となった症例や、治療が自己流に陥って生命の険を生じる恐れがある症例に対し、医療機関や自治体の地域保健担当部署ならびに、患者が在席する学校が連携して指導介入する方法を検討し、このことによって患者が治療への関心と自己管理能力を高め、治療効果の向上をもたらすことが可能かどうかを検討することを目的としている。

年度ごとの研究目標(計画)

平成15年度

  1. 地域保健機関と連携して中・高等学校の養護教諭と接点を深め、協力校のぜん息生徒の症状ならびに治療管理実態を把握し、学校に出向いての指導の足掛かりを掴むこと。
  2. 急性増悪時の適切な対応や発作型判定に不可欠な発作強度につき、医療機関ならびに患者家族が、どの程度正確に判定できているかを調査し、問題点を明らかにすること。
  3. JPGL2002後の吸入ステロイド薬普及を知るために、前年の2002年における印旛医療圏のICS処方実態を調査し、年齢、医療機関の種類など解析をおこなうこと。
  4. 過去20年間の福岡市内5学校の疫学調査より、思春期にかけての寛解、増悪因子を検討し、地域連携に向けて思春期ぜん息患者の治療管理方法を整理する。
  5. 福岡市、姫路市小児科医会と連携して、医会員に受診した患者の実態調査をする。

平成16年度

  1. 前年度調査対象校の新1年生の実態調査を追加し、解析を強化する。
  2. 前年度調査対象校の中から、学校における喘息指導が可能な学校を選定し実施する。
  3. 健康福祉センターの思春期喘息相談を継続し、コントロール不良の喘息生徒を紹介する仕組みを構築する。
  4. 思春期喘息患者の症状に影響する因子として、喫煙、月経の関与について、診療所医師の協力により調査を行なう。
  5. 吸入ステロイド薬の処方実態と薬物治療のコンプライアンスについて調査する。
  6. 発作強度判断の実態と問題点について検討し、改良点を工夫した。

平成17年度

  1. 印旛郡市中学校における喘息教室の評価と対照としての専門医療機関の治療とコントロール状況調査
  2. 中学校と連携した千葉県印旛健康福祉センター(保健所)における思春期ぜん息相談の実施
  3. 印旛医療圏の小児喘息における吸入ステロイド薬の普及情況に関する調査
  4. コンプライアンスの悪い思春期喘息患者の心理的アプロー
  5. 印旛郡市養護教諭に対する学校におけるぜん喘息への取り組みに関する調査
  6. 学校におけるピークフローメーターの活用に関する調査
  7. 思春期の喘息悪化因子に関する研究
    1. アドヒアランスに関する研究
    2. 喫煙に関する研究
    3. 月経との関連に関する研究
  8. 福岡市内の6小学校の疫学調査を契機とした患者教育の実践に関する検討

3年間の研究成果

平成15年度

  1. 印旛郡市の48中学、20高校に依頼し、20中学、5高校の協力により中学生240人、高校生53人の同意があり、それらの人の発作型と治療内容、QOL実態が的確に把握された。
  2. 他施設検討で、127名(0~18歳)の発作程度を判定した時、看護師・医師でさえ症状判断とSpo2,FEV1等の指標と乖離があり、症状の定義や程度の判断に問題がある。患者・家族では、より軽い発作程度と判定する傾向が強い。
  3. 佐倉保健所管内の2002年小児慢性申請者4136人のICS処方率は19.4%で、年齢とともに処方率は上昇する。診療所は病院の1/2の処方率であった。
  4. 福岡市の疫学調査を、肺機能、気道過敏性、運動誘発喘息など病態面から分析し、検討課題を整理した。姫路市内全域の7年間の発作受診記録からは、思春期年齢の受診数は最も少なかったが、これを基に思春期ぜん息患者の管理情況を推測した。

平成16年度

  1. 14中学校の新1年118名の回答を追加し、計381名の解析を行い治療を考慮した重症度と本人の重症度認識のずれ、ICS処方率が低いことなどを明らかにした。
  2. 3中学校を訪問し計75名の喘息生徒の肺機能を測定し、各人の重症度を説明し治療管理の継続の必要性を教育指導した。
  3. 健康福祉センターの思春期喘息相談は、17名の重症度の高い患者が利用し成果があったが、学校からの勧奨による利用は認められず、仕組みは構築できなかった。
  4. 地域診療所医師の協力により喫煙実態と月経の影響調査を行なった。月経随伴喘息は約20%に関連があると思われた。
  5. 2003 年の小児慢性特定疾患申請書4034名分の調査から、中学生へのICS処方率は27.8%で診療所の処方率は病院の1/2であった。専門医療機関における 104名のICSコンプライアンス調査では、10~14歳で73%であった。患者・家族への問診調査では吸入薬は70%の人が忘れると回答した。
  6. 患者・家族の発作強度の判断は、約50%の人が実際より軽く判定する。医療スタッフの判定も観察項目の程度表現の理解にバラツキがあり、的確な判定ができていない。

平成17年度

  1. 16年度の中学校喘息教室参加者60名の1年後の変化は、1年間発作がなっかたのは63%、発作回数が減少したのは35%であり、極めて良好であった。
  2. しかし、運動誘発喘息は2/3に認められ、気道過敏性からみれば必ずしも良好な改善とはいえない状態であると考えられた。
  3. 原因として、対象者ならびに地域の吸入ステロイド薬処方調査から、治療不足の傾向であることを明らかにした。
  4. また、患者は治療薬で症状が改善していることを失念して、治ったと思って治療を手控えてしまうことが明らかにされた。
  5. 保健所の思春期喘息相談は、治療の矯正と重症度の正しい理解に役立ち、上記の欠点を補う有効な手段である。
  6. 怠薬傾向が強く、治療継続画困難な思春期患者でも、心理的対応により38%に著明改善、25%に改善がみられた。

アドヒアランスの悪い喘息生徒はエゴグラムで予測でき、対応の工夫が可能である

評価結果

平成15年度

思春期ぜん息者に対する寛解率を高め危険を低下させるためには学校、保健所、地域医療機関の連携が極めて大切であることを多くの疫学調査を行って得た結論は評価する。一方、SpO2は呼吸機能を表す最も客観的指標であるので、小児ぜん息においてSpO2が重症度をどの程度正確に表現しうるか、他の症状との相関性等にについて十分検討してもらいたい。また、養護教諭(学校)と主治医の連携もさることながら地域医師会、保健師等も組みこんだ体制作りが必要と思われる。

平成16年度

本研究には自治体や学校などの協力が必要であるが、その困難を克服した良い研究であると思う。社会的な貢献に直接つながるものと期待している。保健指導の立案の際の基礎データとして有用なものが出ている。今後1年で実際の指導のあり方の提言ができることを期待する。思春期喘息患者で吸入ステロイドの使用率が低いのは患者側の問題か、あるいは医師のほうの問題か検討が必要である。正確な喘息発作強度や重症度を認識すること及びICSのコンプライアンスを上げるには学校や自治体まかせでは(専門医が出向いて行っても)限度があると考えられ、これを解決するにはもう少しメディアを活用するなどの必要性が今後問題となるであろう。

患者サイドからの有効な保健指導と連携要因の分析・検討に関しては結果分析を詳細にしていただきたい。禁煙教育の励行に対する積極的アプローチを期待したい。

研究項目1、研究項目2の間の各班員の調査項目、データ等に重複があり、かつ不一致のこともあり解釈に戸惑うことがある。調査の前に各班員の役割分担をもっと明確にして、調査項目等統一した方が効率的である。

平成17年度

機構の研究目的に合致した研究であると認識される。地域連携による学校保健のあり方に関する検討については、組織内での連携を構築したことは評価できるが、保健所におけるぜん息相談、診療所での初期の対応については、今後検討していく必要がある。患者サイドからの有効な保健指導と連携要因の分析については、エゴグラム利用の解析結果を評価するが、今のところ保健師や医師の理解が少ないと思われるので、今後の継続して啓発し、検証する研究調査を期待する。

2-1 思春期気管支ぜん息患者を対象とした地域連携による保健指導のあり方に関する研究

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