ぜん息などの情報館

2-2 成人気管支ぜん息患者の状況に応じた自己管理手法に関する研究

代表者:大田健

研究の概要・目的

気管支喘息の治療ガイドラインは平成5年に本邦で作成され、質の高い治療が普及した結果として喘息死の減少が平成10年以降みられている。しかし作成されたガイドラインを活用するためには、医師側の十分な知識の修得が必要であると同時に患者側の理解と実践に関する要因も無視できないことを認識し、実態を把握して改善することが必須である。特に多忙な日々を送る就労成人に対する保健指導の重要性が社会的なニーズとして指摘されている。そこで本研究では、効率の良い保健指導のシステムを確立することを目的とした。患者指導用のテキストを作成し、服薬コンプライアンスを高め、自己管理を指導することを試みた。指導前後でアンケート調査し、従来の指導の問題点を抽出し、今後の指導のあり方を追及するガイドライン作成の指針を示すこととした。

年度ごとの研究目標(計画)

平成15年度

就労成人を中心に頻回な受診が困難な患者として喘息患者の年齢65歳以下の成人を対象として、患者から、喘息治療のコンプライアンスを中心としたアンケートを行うこととした。患者アンケートは、匿名の封書形式とし、コンプライアンスを正確に把握できるように計画した。同時に医師へのアンケートも実施し、喘息治療の予防ガイドライン等に沿った治療を把握するように計画した。コンプライアンスを解析するにあたり、その喘息患者の心理的な要因にも焦点をあて、いかなる心理的な要因がコンプライアンスに影響を与え、あるいはまたどのような因子がその心理的な側面に関連を有しているかを検討することとした。服薬コンプライアンスは吸入ステロイド薬の遵守率を基準に良好群と不良群に分け比較検討した。

平成16年度

本研究は6つのプロジェクトから成り立っている。すなわち、1.気道感染等に関する喘息発症因子の検討、2.アトピー性皮膚炎患者における喘息の発症頻度とその予防策についての検討、3.急性細気管支炎から喘息への移行過程や移行させる因子の解明、4.喘息発症後の経過と環境要因との関連、5.乳幼児期の喘息の発症、悪化におけるEvidence Basedなリスクファクターの解析、6.喘息発症に関するハイリスク群における室内環境整備・食生活改善などの保健指導による積極的介入と喘息の発症予防効果の検討である。昨年度に引き続き、各研究では、症例数や実験対象を増やし検討を重ねること、得られた結果や資料の解析を行うことを計画した。

平成17年度

日記およびピークフローメーターを使用した経験がなく、かつ服薬コンプライアンスが不良な患者をできるだけ対象とする。同時にコンプライアンス良好群も、対照として抽出する。まず改訂テキスト指導前に喘息に関するアンケートとセルフチェック問題、指導後にテキストに関するアンケートと再びセルフチェック問題を実施し、保健指導の効果を客観的に評価する。喘息の自己管理に関する知識、吸入ステロイド薬の服薬率、症状点数、ピークフロー値などのパラメーターに関し、指導前後で比較する。

3年間の研究成果

平成15年度

患者アンケートは315人分を集計することができた。服薬コンプライアンスは吸入ステロイドを指標に評価したが、不良群は定期外受診が多く自己判断で服薬を中止する例が有意に高かった。吸入ステロイドが服薬コンプライアンス全体を把握する指標として有用であることが明らかとなった。さらに患者は医師に比較し、重症度を低く評価する傾向が浮き彫りにされた。ピークフローを用いた喘息管理が行われているのは、全体で53.5%であったが、コンプライアンス不良群は使用度が40.5%と低かった。また心理テストは客観的な集計が可能であるTokyo University Egogram New Verson; TEGを採用し、149人より回収が可能であった。順応する子供の自我(AC:adapted child)のスケールが高い群の方が医師の指示に対する遵守率が有意に低いことが明らかになった。

平成16年度

「成人気管支ぜん息の状況に応じた自己管理のポイント」と題するマニュアルを作成した。また患者が理解しやすいように図を多くし、多忙な患者にも使用できるように枚数を12ページに絞った形で作成した。患者からはわかりやすいマニュアルであるとの評価を受けた。服薬遵守率はコンプライアンス不良群で58.3%から77.4%への上昇を認めた。また、患者の喘息病態に対する理解度をセルフチェック問題で検討したところ、コンプライアンスが良好にもかかわらず、さらにぜん息について患者として認知すべき項目もあきらかとなった。マニュアルによる指導で全体としては正答率が69%から82%に指導後改善を認めた。

平成17年度

平成17年度は前年度での問題点を見直し、喘息テキスト改訂版を作成した。コンプライアンス不良群では、テキスト指導前後で吸入ステロイド薬の服薬率が有意に改善されたにも関わらず、症状点数は改善されていなかった。ただ前年度の結果からコンプライアンス不良群は服薬遵守率を過剰申告する傾向があり、TEGにて有意にFC(free child)のスケールが高いことが示された。一方ピークフローに関しては、今回のテキストを用いた個別指導により、ピークフローメーターを毎日使用する患者が著明に増加した。また、指導後のピークフローメーターの測定意義の理解度が前年度と比べて著明に高いことが示された。

評価結果

平成15年度

ピークフローやぜん息日誌の使用とコンプライアンスの相関があることが示されたことは大変興味深く、また心理テストでコンプライアンスの問題にアプローチするという試みは独創的であるが、これが実際の医療の現場で役に立つか否かは検討する必要がある。一方、服薬コンプライアンスが不良となる要因としては、患者がぜん息及び治療理念を理解していない等の場合や患者教育を十分行っていない等、医師サイドに問題が多いので、患者サイドではなく同時に医療側に対する調査もする必要がある。また、背景因子の分析を詳細にすべきことや比較検討するため専門病院ではない医療施設での同様のデータが欲しい等の意見もあった。

平成16年度

医師及び患者向けの冊子を完成するという事であるが、従来のものとどのような点が異なるのか。特徴が無ければ作成そのものの意義に疑問を持つ。行動変容を効果的にもたらすためには、説明のみでなく、より情動に訴える手法を開発する必要があるように見える。結果は一見明解であるが、症例数が少ない。対象例を増やして、層別解析をし、確実なものとしていただきたい。

教本説明者がDrかナースかによってコンプライアンスへの影響があるのではないか。したがってパラメディカルスタッフのトレーニングも必要であろう。

就労者の職場での保健指導と自己管理の問題をさらに追及すべきである。専門病院ではない一般診療所では、重症度の認識やコンプライアンスは極めて悪く、また、非専門医により治療されている診療所の患者などはピークフローモニタリングの率が極めて低いことを考慮し、これが患者の大多数を形成していることを忘れないでいただきたい。

平成17年度

改良されたテキストは分かりやすく作成されており、その結果、患者のピークフローメーター使用率が向上、行動療法的な効果もあり薬物コンプライアンス不良群における自己管理の改善と実践を向上させることが出来た点で評価出来る。今後は、テキストを非専門機関で活用を進めていく場合、どのように行うかの検討をするとともに、患者さんの症状安定化およびQOLの向上を目指してほしい。

2-2 成人気管支ぜん息患者の状況に応じた自己管理手法に関する研究

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