ぜん息などの情報館

2-2-2 小児及び思春期の気管支喘息患者の重症度等に応じた健康管理支援、保健指導の実践及び評価手法に関する調査研究

代表者:大矢 幸弘

研究の概要・目的

小児および思春期の気管支喘息患者の良好なコントロールを実現するためには、医療者側へのガイドラインの普及だけでなく患者側のアドヒアランスの向上が欠かせない。アドヒアランス行動の改善は喘息に関する知識の普及だけでは不可能で、行動変容をもたらす行動科学的アプローチが必要となる。そこで、本研究では計量心理学的手法を用いてアドヒアランスに影響を与える要因の因果推論を行う調査を行い、行動科学に基づくマニュアルの作成を目指す。また、行動科学的アプローチの実践によって患者のアドヒアランスとコントロールが改善することを実証することにも取り組む。

年度ごとの研究目標(計画)

平成18年度

地域住民(研究者の病院・診療所の受診患者およびモデルに選ばれた学校に通う喘息児)を対象として、喘息治療のステージ分類やアドヒアランスに影響する要因を明らかにするためパイロットスタディを行う。一次調査としては、面接(対象の一部を抽出した10~20名程度)、無記名自記式意調査票(半構造化質問による記述式)による基礎データの収集、基礎データから得られたコンセプトモデルをもとに因果推論を行う二次調査票を作成する。また、病院・診療所に通院するコントロール不良患者に応用行動分析を行い、申請者の施設で行動療法を実施する。

平成19年度

喘息児と養育者の5つのアドヒアランス行動(定期通院、定期吸入、定期内服、日誌記入、環境整備)についての実態とアドヒアランス行動に影響する因子を探索する質問票を作成し、医療現場と教育現場においてデータ収集を行う。 得られたデータを解析し、どのような要因が患児と養育者のアドヒアランスと関連があるのかを明らかにする。それに基づいて、喘息治療に関するアドヒアランスモデルを作成し、患者指導マニュアルの作成に着手する。

平成20年度

  1. 平成19年度の二次調査で得られたデータを解析し、喘息患者のアドヒアランス行動がどのような因子と関わりがあるのかについて構造方程式モデルを作成する。
  2. 本研究の研究成果を踏まえて、日本小児アレルギー学会の小児気管支喘息管理指導ガイドライン2008の患者教育の章の内容を改訂する。さらに、アドヒアランスのステージを考慮した患者教育の方法についてわかりやすいハンドブックを作成する。
  3. 喘息患者の薬物療法に関する個別対応マニュアル(アクションプラン)を作成する。また、その効果を検証するための臨床研究に着手する。
  4. 喘息のコントロールに最も重要な影響を与えるステロイド吸入の導入に関する行動療法マニュアルを作成する。また、その効果を検証するための臨床研究に着手する。
  5. 病院に定期受診しておらず医療施設側からは把握ができない喘息児の中にコントロールが不良の患者がいることを昨年の本調査研究で明らかにした。そのことを踏まえ、学校保健室におけるダニ調査や学校現場の教師にアンケート調査を行い、どのようなことでアレルギー疾患児の対応に関して苦労しているかを把握し、学校教師向けの研修会を開催する。また、一部の学校では喘息に罹患している生徒に保健授業の時間などを利用して行動科学的方法を取り入れた患者教育を行い、その有効性を検証する。

3年間の研究成果

平成18年度

予備調査(一次調査)は研究者が所属する施設の患者および学校にて施行され、病院での回収率はほぼ100%であったが、学校での回収率は約6割であった。最終的に患児188名、養育者403名から回答を得た。これらを基礎データとし、先行文献からの情報を参考にして二次調査用の自記式調査票を作成した。また、研究者の病院・診療所に通院するコントロール不良患者に対して応用行動分析に基づき行動療法をおこなった。

平成19年度

喘息児と養育者の5つのアドヒアランス行動(定期通院、定期吸入、定期内服、日誌記入、環境整備)についての実態調査とアドヒアランス行動に影響する因子を探索する質問票を作成し、研究従事者らの病院・診療所と東京および茨城県の数十の小中学校において調査を行い、解析に十分な数のデータを収集した。 得られた膨大なデータを一通り解析し、喘息児とその養育者のアドヒアランス行動に関係する複雑な要因を把握し、そのアウトラインを示すことができた。

平成20年度

アドヒアランス行動に影響を与える要因に関する共分散構造分析を行い構造方程式モデルを作成した。喘息患児と養育者とではアドヒアランスに影響を及ぼす因子が異なることが明らかとなり、患者教育に際しては養育者にはステロイド吸入の必要性の理解と副作用の懸念の払拭を念頭におき、患児に対しては自己効力感を向上させる配慮が大切であることを示すことができた。

評価結果

平成18年度

行動科学を患者のアドヒアランスの向上に向けた管理指導法、患者教育に関する研究であり、今までにない指導マニュアルが作られる期待があると同時に開業医にも普及するような方法を研究でも示して欲しいという意見があった。

平成19年度

アドヒアランス向上の為には医師への啓発や医師と患者のコンプライアンスの問題点など、教育を徹底させる行動科学的介入が必要であることを強調しており、更なる今後の研究の進展が期待される。今年度は、すでに集められている膨大なデータを解析し、患者及び家族の行動変容を促すような指導マニュアルが完成すれば、ぜん息患者の予後の改善に著しく貢献するものと思われるとの意見があった。

平成20年度

患者教育の基本理念に基づいて「患者教育マニュアル」を作成したことは高く評価される。行動医学的アプローチは、わが国においては必ずしも進んでいるとは云い難いが、小児ぜん息の親子が治療にどのように対処すべきかを具体的にマニュアルの中で示したことを評価される。今後、マニュアルの効果をフォローしてその改訂が示されることを期待するなどの意見があった。

2-2-2 小児及び思春期の気管支喘息患者の重症度等に応じた健康管理支援、保健指導の実践及び評価手法に関する調査研究

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