ぜん息などの情報館

2-3 成人気管支ぜん息患者の重症度等に応じた健康管理支援、保健指導の実践及び評価手法に関する調査研究

代表者:大田 健

研究の概要・目的

気管支ぜん息(ぜん息)の病態には、可逆性の気道狭窄、気道の過敏性とともに慢性の気道炎症が重要な役割を演じていることが解明された。したがって、適切なぜん息の治療は、ぜん息症状への対応と炎症を標的にした長期管理とから成り立っている。しかし第6期の研究成果によれば、吸入ステロイド薬の服薬アドヒアランスは決して良好ではなく、喘息の病態・治療に関する患者の認識も甘い傾向を認めた。そこで、本調査研究では、ワーキンググループWG-1でガイドラインに沿った長期管理が実行されるようにするための保健指導を確立し、適切な長期管理の普及を目指す。さらに、WG-2でぜん息コントロールが患者自身で適切に評価される方法を確立し、自己管理が適切に実行されることを目指す。そして、ぜん息による個人および国の負担を軽減し、ぜん息の予後の改善とぜん息死の撲滅に寄与することを目的とする。

年度ごとの研究目標(計画)

平成18年度

班全体で、長期管理に必要な患者背景と患者の指導効果を検証する目的で、班員施設に通院中の成人ぜん息患者を対象に第6期で作成した「ぜん息テキスト」を用いた患者指導の評価を行なう。また、患者の背景因子も調査する。WG-1では、指導前と指導後(4~8週後)の呼吸機能(スパイログラム)、QOL質問表(AHQ-33,Japan)、ぜん息コントロールテスト(ACT)について解析する。また、ぜん息患者の長期管理支援と保健指導に資することを目的とする手引き書の作成にとりかかる。WG-2では、呼吸機能、QOL質問票、ACTとともに、喀痰中好酸球検査、呼気NO測定、呼気凝縮液(EBC)分析を施行し、コントロールの指標として用いていくことの妥当性について検証する。また、自己管理の推進に向けて、ぜん息のコントロールの状態がより把握できる、ぜん息症状、PEF、ACTを網羅したぜん息日誌の作成を目指す。

平成19年度

気管支ぜん息(ぜん息)の長期管理支援と保健指導を確立する目的で、平成18年度に登録した症例をさらに長期(6~12ヶ月)にわたって経過観察するとともに、新たにぜん息のコントロールやアドヒアランスが不良な症例も含めてさらに追加登録し、コントロールの阻害因子と促進因子とを探索する。また、ぜん息症状、PEF値、ACT、QOLなどをコントロールの指標として実際に使用し、WG-1を主体に保健指導の効果やアドヒアランスの改善の評価を含めて有用性を検証する。さらにWG-2では、平成18年度の成果を踏まえて、指導の前後において採取した検体の測定あるいは解析を行ない、ぜん息コントロールの評価方法としての有用性の確立に向けての検討を推進する。以上の結果を基に、班全体として、ぜん息患者の長期管理支援とコントロール評価のためのより良い指標の確立と保健指導手引き書の作成にとりかかる。

平成20年度

気管支ぜん息(ぜん息)の主な病態である気流制限と慢性の気道炎症を標的にした長期管理支援と保健指導を確立する目的で、適切な長期管理の継続を障害する要因を把握し、効果的に解決する患者指導法を構築する。さらに喘息コントロールが客観的に評価される方法を確立する。WG1では、喘息を適切な状態で長期管理する為に用いる個別保健指導用の改訂版「喘息テキスト」を作成する。WG2では、「喘息テキスト」を用いた患者指導の前後で、喘息コントロールテスト、QOLスコア、ピークフローを含む呼吸機能などを指標として喘息の状態を評価する。

3年間の研究成果

平成18年度

WG -1による全体の背景因子の検討では、男性患者は喫煙歴(+)が多く、%V50が有意に低かった。また、50~60歳代にペット飼育者が多く、成人発症型ぜん息患者は%FEV1.0が低下していた。また、ACTスコアはステップ3(中等症)の症例が高く、QOLスコアは、重症度に従い高値(不良)であった。さらに、患者指導後のACTスコアは有意に高値で、QOLスコアも有意に低値となり、患者指導による改善効果が示された。

WG-2の解析では、喀痰中好酸球比率は喘息患者で有意な増加を認めた。重症喘息では喀痰中の好中球比率が上昇し、TNF-α濃度との相関が認められた。呼気NO濃度はぜん息患者で有意な上昇を認め、閉塞性障害および気道過敏性との関連を認めた。さらに、EBC中のサイトカインの一部はぜん息患者で発現が亢進しており、閉塞性障害および気道過敏性との関連を認めた。また、計画通り、ぜん息日誌を作成した。

平成19年度

WG -1による全体の背景因子の検討では、血清総IgE値は男性が高く、HD陽性者やアレルギー性鼻炎・花粉症、食物アレルギーは女性に多く、50~60歳代に多かった。有喫煙歴者は39.5%で男性に多く、そのうちcurrent smokerは27.5%を占め、男女半々であった。救急・定期外受診患者は、小児発症型ぜん息に多く、中等症持続型・重症持続型ぜん息患者に多かった。保健指導後のACTスコアは長期間改善が維持され、特に発症後1年未満群、20点未満の不良群、若年成人で改善が顕著であり、70歳以降では悪かった。保健指導後のQOLは、罹病期間、重症度、アドヒアランスに関係なく12ヵ月後まで有意に改善が維持された。QOLが不変・悪化群は、男性の中高年齢者で、罹病期間が長い患者であった。

WG-2の解析では、呼気NO濃度の水準は喘息重症度や症状スコアと関連し、保健指導による呼気NO濃度の改善は、喘息症状および気流制限の改善程度と有意な相関を示した。一方、喀痰中好酸球数、呼気凝縮液RANTES濃度、呼気温度は指導により改善したが、症状やQOLの変化との有意な相関は認められなかった。また、呼気NO濃度と呼気凝縮液IL-1ra濃度との相関を認め、呼気凝縮液の炎症物質の検討が炎症の指標として有用であることを示唆する成果も得られた。さらに、呼気NO濃度を指標にしたぜん息治療のステップアップにより、気道炎症とぜん息症状が改善することが示され、臨床的な意義が明らかとなった。

平成20年度

患者指導のための「ぜん息テキスト」について、新たな薬剤を追加したり、患者教育を特に必要とする患者背景を明確にし改訂を行った。呼気NO濃度は喘息患者の重症度、症状スコア、呼吸機能(閉塞性障害・気道過敏性)と有意に相関した。さらに患者指導や治療の強化による呼気NO濃度の改善は、症状および呼吸機能の改善と有意な相関を示したことが判明した。また、呼気凝縮液中のIL-1raとIL-1βは呼気NO濃度と相関し、ステロイド治療前後で尿中バイオピリン値が有意に低下するなど、気道炎症の指標としての有用性を示す成果も得られた。さらに重症喘息患者から採取した誘発喀痰中において、IL-8は軽症患者に比べ有意に増加しており、逆にEotaxinは有意に減少していたことが明らかとなった。

評価結果

平成18年度

ぜん息テキストを作製して患者への保健指導を行い長期管理を支援していくこと、また、患者側と医療側のギャップを改善していくことを研究することは意義があり、アドヒアランスの向上にも役立つと思われ、さらなる研究を期待する。喀痰中好酸球、呼気NO、呼気凝縮成分の検査は、まだ一般的ではないことから、特に呼気NOの特異性、優れている点について研究を進めてもらいたいという意見があった。

平成19年度

「ぜん息テキスト」を用いた保健指導によるACTとQOLスコアの検討など、一定の成果が見られることから良好な成果をあげている。今後、どのような炎症性物質を組み合わせたら、気道の炎症・過敏性をより正確に評価できるか更なる研究を求める意見や、喀痰好酸球、呼気凝縮液のサイトカイン、ケモカインに関し、それぞれの計測項目の組み合わせなどから客観的評価の指標が得られることを期待するという意見があった。また、凝縮液中のサイトカインに上皮由来の IL-18なども追加してみてはどうであろうかとの提案も出された。

平成20年度

WG1では、「ぜん息テキスト」を作成し、それをもとに保健指導を行い、ことにACTの活用によって、コントロールのよくない患者群をうまく管理できることを示した意義は大きいと考えられる。WG2では呼気NO濃度が重症度、症状スコア、呼吸機能とよく相関していることを証明し、喘息管理の客観的手段として極めて有用であることを立証したことは高く評価されるとの意見があった。また、喘息管理におけるアドヒアランスの良・不良の原因についての解析とその対策について更なる検討を望む声もあった。

2-3 成人気管支ぜん息患者の重症度等に応じた健康管理支援、保健指導の実践及び評価手法に関する調査研究

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