ぜん息などの情報館

2-4-1. 気道炎症、気流閉塞、および気道リモデリングに関するそれぞれの客観的指標を用いたぜん息コントロール状態評価法の確立

代表者: 石井 幸雄(筑波大学)

研究の概要・目的

喘息は気道の慢性炎症、気道狭窄によって特徴づけられる疾患である。一般に気道狭窄は可逆的であるが、長期に気道炎症の持続した喘息患者では気道構築の改変(気道リモデリング)による不可逆性の気道狭窄が加わり、治療難渋の原因となる。従って、長期管理を適切に継続するためには、気道炎症、気道狭窄の評価だけでなく、気道リモデリングを加えた総合的評価が必要である。
本調査研究では、喘息患者の気道炎症、気流閉塞から、気道リモデリングの状態まで一括して評価可能な、非侵襲的な客観評価法を確立し、健康相談事業や薬物療法に活用することを目的とする。
成人喘息患者を対象に、気道炎症、気道狭窄に関わる既存の評価指標(呼気一酸化窒素(NO)、好酸球数、一秒率、ピークフロー値等)に加え、新規の評価指標として、気道リモデリングの評価指標(E-カドヘリン細胞外ドメイン、プロコラーゲンC末鎖等)や酸化ストレス由来の気道炎症を評価する指標(呼気過酸化水素、喀痰Th2サイトカイン、ケモカイン等)を測定するとともに、胸部CTを用いた気流閉塞(エアートラッピング)の定量解析等を実施し、新規の評価指標と臨床緒指標を対比し、その有用性を検証する。

年度ごとの研究目標(計画)

平成24年度

  • 呼吸器内科専門医によって過去または現在に喘息と診断された成人患者のうち、文書で説明し、同意を得られた患者を今回の調査の対象とする。
  • 各患者で病歴および身体所見を定められた調査票に記録する。過去、現在に使用した薬剤についても、同様に記録する。
  • 各患者より採血を行い、通常の血算、生化学検査に加え総IgE、特異的IgE(MAST33)を測定し、記録する。
  • 各患者で肺機能検査を行い、肺活量(VC)、%VC、一秒量(FEV1)、%FEV1、一秒率(FEV1/ FVC)、ピークフロー(PEF)、気管支拡張剤使用後のFEV1改善率、最大中間呼気流速(FEF25-75%)、および残気率(RV/TLC)を記録する。
  • 各患者の呼気NO濃度をNIOX MINOを用いて測定する。アールチューブを用いて呼気濃縮液を採取し、同液中の過酸化水素濃度を測定し、酸化ストレスの指標とする。
  • 各患者より喀痰を採取する。喀痰排出困難な患者では2%食塩水吸入後の誘発喀痰を採取する。喀痰をジチオトレイトール(DTT)およびDNaseにて処理した後、遠心する。ペレットは生理食塩水にて洗浄後、細胞数を計測する。細胞をサイトスピンにてスライドグラスに塗布し、炎症細胞の分画を測定する。上清はマイクロチューブに分割し、使用時まで-80℃で保存する。喀痰上清中E-カドヘリン細胞外ドメイン、PICP、ICTP、サイトカイン(インターロイキン(IL)- 1β、IL-4、IL-5、IL-13、インターフェロン(IFN)- γ、tumor necrosis factor(TNF)-α)、CCケモカイン、およびCXCケモカインの各濃度をELISA等の手法を用いて測定する。
  • 各患者に対し、胸部CTを撮影する。気腫の影響を避けるため撮影部位は下肺野とし、極力被曝を避けるため、固定した1断面の撮影を行う。同部位で明らかな気腫性変化のある症例はCT評価からは除外する。高分解能アルゴリズムを用い、1mmのスライス厚(120 kVp, 200 mA)で撮影し、CT値−950 HU以下をLow attenuation area (LAA)と定義する。気管支拡張剤使用前後の%LAAを計測し、気流閉塞の可逆性を評価する。可能な症例では%LAAと肺機能指標(FEF25-75%, RV/TLC)を比較し、エアートラッピングを検証する。

平成25年度

  • 平成24年度の緒項目の測定を平成25年度も行う。
  • 各項目の経時変化を記録する。
  • 各項目の値、あるいは経時変化と臨床情報(喘息重症度とその推移、発作増悪回数(救急外来受診回数)、予後など)や各薬剤反応性と対比することで、同評価法のバリデーションを行う。

2年間の研究成果

平成24年度

具体的な調査項目および調査法について検討を行い、記録票を作成した。各施設において対象症例を集積し、記録票に基づいたデータおよび検体採取を行なった。予備研究として、 E-カドヘリンの細胞外ドメインが喘息患者の喀痰中に検出されること、喀痰中E-カドヘリン濃度、およびプロコラーゲンC末鎖が気道リモデリングの進行に伴い増加することを確認した。また、幾つかの症例で胸部CTを用いた気流閉塞(エアートラッピング)の定量解析を行い、肺機能検査の結果との比較を行った。

平成25年度

平成24年度より引き続き対象症例を蓄積した。作成した記録票に基づき、対象症例の臨床記録、検査所見を収集した。採取した呼気濃縮液を用いて、過酸化水素濃度を始めとした酸化ストレスマーカー、およびサイトカイン濃度を測定した。採取した喀痰中の E-カドヘリン濃度、プロコラーゲンC末鎖濃度、向炎症性サイトカイン濃度、Th1/Th2/Th17サイトカイン濃度、およびケモカイン濃度を測定し、気道炎症、気道狭窄、およびリモデリングとの相関を明らかにした。喀痰を複数回採取した症例では発作/間欠期やステロイド治療前後で測定を行い、症状や治療との関連を明らかにした。胸部CTを用いた気流閉塞(エアートラッピング)の定量解析は症例を増やし、肺機能検査の結果と比較した。

評価結果

平成24年度

平成24年度評価結果(PDF:76KB)

平成25年度

平成25年度評価結果(PDF:83KB)

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