ぜん息などの情報館

2-4-3. 小児ぜん息の病態とコントロール状態を反映する新しい客観的評価手法確立に関する研究

代表者: 藤澤 隆夫(国立病院機構三重病院)

研究の概要・目的

ガイドラインでは小児気管支ぜん息の長期管理は重症度とコントロールレベルにもとづいて行なうとされているが、それら評価基準は主に症状に依存しており、病態を反映する客観的指標はまだ取り入れられていない。客観的指標としてはスパイロメトリーなどすでに確立された検査に加えて、新しい手法として、気道の状態を部位別に評価可能な強制オッシレーション法(Forced oscillation tequnique:FOT)が注目されているが、小児における適正な測定条件、基準値が未だ確立していない。
したがって、本研究では、小児ぜん息の客観的評価法を包括的に確立するために、FOT実用化をめざすとともに、過去の研究で明らかにした気道炎症のマーカーである呼気NOの小児基準値とその応用方法を組み合わせ、現存のぜん息コントールテストの再評価も行い、より有効な利用法の確立をめざすことを目的とする。
小児気管支ぜん息のより良い長期管理に広く応用できる新しい客観的評価指標の確立をめざす。特に、理論的には有用性が大いに期待されながらも小児において未だ応用方法が確立していない強制オッシレーション法(Forced Oscillation technique:FOT)に関して、小児における適正な測定条件と基準値、コントロール状態と重症度の指標としての意義、運動誘発ぜん息、気道リモデリングなど特定の病態を評価する手法としての意義、機能訓練事業の効果を客観的に評価する指標としての意義などを明らかにする。
また、得られた成果を、健康相談事業、機能訓練事業で応用し、一般のぜん息診療レベル向上に資するため、「小児ぜん息の気道評価ハンドブック」を作成する。

年度ごとの研究目標(計画)

平成24年度

FOTの測定機器として普及しつつある2機種(モストグラフ、マスタースクリーン-IOS)を用いて、以下の検討を行なう。
①FOTの適正な測定条件の検討
FOTは安静換気下で測定して、スパイロメトリーに求められるような被験者の技術を要しないため、低年齢児にも適応可能であるが、測定条件により様々なアーチファクトが混入するリスクもある。そこで小児において安定したデータを得るための基本的要件を明らかにする。
②FOTの小児基準値
一般の小学校・中学校・高校において被験者を募集して、正常小児の測定データを得て、年齢、身長、性別などのパラメーターを含む予測式を作成する。
③ぜん息重症度とコントロール状態の評価
外来通院中のぜん息児を対象に、FOTによる気道評価パラメーターが、ぜん息の重症度およびコントロール状態とどのように関連するかを検証する。他の客観指標(スパイロメトリー、呼気NO)とあわせた評価も行なう。
④ぜん息コントロールテストの評価と開発
現存のコントロールテストを客観指標との関連で再評価する。臨床現場での簡便な質問でコントロール状態を評価できる新たなコントロールテストを開発する。

平成25年度

①FOTの小児基準値
前年度に引き続きデータを集積、統計学的解析を行ない、予測式を完成させる。
②ぜん息の重症度とコントロール状態の評価
前年度の研究を継続、さらに多数例で解析する。
③ぜん息の病態評価
FOTを含む客観指標をぜん息の特徴的病態別に解析する。

  • 運動誘発ぜん息(EIA):四日市市のぜん息デイキャンプ活動において自己管理指導と運動療法指導を行い、EIAの変化をFOT、呼気NO、スパイロメトリーなどでモニタリングして、それぞれの病態的意義を明らかにする。居住地域別の解析(汚染地域、非汚染地域)により、大気汚染の影響についても解析する。
  • 気道リモデリング:フロー・ボリュームにて末梢気道閉塞とされる喘息患者でβ刺激薬による可逆性が乏しい者(臨床的な気道リモデリングと定義)に吸入ステロイド・長時間作用型β2刺激薬合剤を用いて介入、FOTの各パラメーターとくに末梢気道成分に着目して解析する。
  • 予後:思春期に安定して吸入ステロイドを中止する症例の前向きコホートをつくり、FOTと予後の関連を解析する。
  • 乳幼児ぜん息の客観指標:生理学的検査が困難である乳幼児ぜん息の客観評 価法を探索する。FOT、呼気NOについて乳幼児に適した測定法の工夫を行なうとともに(フェイスマスク使用など)、好酸球の活性化マーカーとされる血清EDNによる評価の妥当性も検証する。

④「小児ぜん息における気道評価ハンドブック」作成
本研究の成果を、わかりやすく簡潔にまとめて、ハンドブックとして作成する。

2年間の研究成果

平成24年度

FOTの日本人小児基準値予測式の作成において、小学生・中学生・高校生1,102名の協力を得て、そのうちの非ぜん息健常者350名の測定からマスタースクリーンIOSとモストグラフの小児基準値予測式を算出した。
FOT測定条件の基礎的検討において、適正な測定条件を整理した。
小児ぜん息のコントロール状態、治療反応性と FOT測定値の検討を行い、ぜん息で通院中の患者762名においてFOT測定を行い、各測定値が吸入ステロイドに対する治療反応性、治療中患者のコントロール状態を反映することを明らかにした。
運動誘発ぜん息、気道リモデリング、発症リスク因子(肥満)を反映する指標としてのFOT測定値の解析を行ったところ、運動誘発ぜん息、肥満(ぜん息未発症)でFOT高値であり、それぞれの発症リスク者の有用と考えられた。

平成25年度

FOTの日本人小児基準値において、モストグラフの日本人小児基準値予測式を確立した。マスタースクリーンIOSと同様に、身長、年齢が寄与因子であった。
小児ぜん息診断のための新しいFOT係数として、吸気のリアクタンス成分などを含む診断予測モデルを得て、「小児ぜん息モストグラフ係数」とした。この係数は高い感度/特異度でぜん息を判別すると共に、重症度、コントロール状態とよく相関、スパイログラムと同等以上の診断性能を示した。
ぜん息キャンプでの評価では、参加後の自己効力感の向上と一致して、FOT測定値が改善した。

評価結果

平成24年度

平成24年度評価結果(PDF:82KB)

平成25年度

平成25年度評価結果(PDF:76KB)

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