ぜん息などの情報館

2-5. タブレットPCを用いたCOPD患者のセルフマネジメント教育システムの開発と効果的な介入方法に関する調査研究

代表者: 植木 純(順天堂大学)

研究の概要・目的

わが国ではCOPD患者を対象としたセルフマネジメント教育の重要性は広く認識されつつあるが、臨床の場での介入は主に種々のパンフレットやテキストの作成・配布、グループ単位での教室としての指導に止まっており、指導スタッフの育成も必ずしも十分ではない。
本研究は、COPD患者を対象とした簡易で効果的なセルフマネジメント教育の実践を可能とする、音声、イラスト、動画等を用いたタブレットPCを擬人化するソフトを開発し、さらに臨床試験により開発したソフトの有用性の科学的エビデンスを示すことを目的とする。
①COPD患者に簡易でより効果的なセルフマネジメント教育の介入を可能とする目的で、タブレットPCを擬人化するソフトを国内・国外で初めて開発する。ソフトには急性増悪自動判定のアルゴリズムも加え、擬人化は音声、イラスト、動画等を用いて行い、タブレットPCが患者に話しかけ、患者が画面にタッチしながらコミュニケーションをとり、知識を修得、アクションプランを実行し、ライフ・スタイルを変える内容とする。
②新しく開発したタブレットPC用ソフトを用いたCOPD患者におけるセルフマネジメント教育プログラムの有用性を臨床試験で検討し、有用性のエビデンスを示す。
③セルフマネジメント教育を効果的に行う調査に関して、セルフマネジメント教育を先進的に継続して行っているカナダマギル大学を視察し、COPDナースやセルフマネジメント教育のコーディネーターへのインタビューや資料の収集、ディスカッションを行い、システムの構築に関して検討する。また、同施設のセミナーで開発したソフトについて発表し、ディスカッションを行う。

年度ごとの研究目標(計画)

平成24年度

タブレットPCソフトの開発を行う。コンテンツは症状チェック(急性増悪の自動判定)、運動実施のチェック、セルフマネジメントに必要な知識、技術の修得、から構成し1コースを2ヶ月とする。また、タブレットPCを音声、イラスト、動画等を用いて擬人化し、使用するCOPD患者がタブレットPCにタッチしながらコミュニケーションをとるスタイルのソフトを作成する。タブレットPCはiPadを使用する。Webによる通信システムは用いず、COPD患者が自宅に持ち帰り使用するソフトを作成する。

平成25年度

平成24年度に開発したタブレットPCソフトのパイロット試験を行い、急性増悪を自動判定するアルゴリズム、運動指導・実施のチェックやQ and A形式の患者指導のコンテンツの修正を行う。タブレットPCソフトの完成後に多施設間で臨床試験を行い、ソフトの有用性の検証を行う。一方、セルフマネジメント教育を指導するスタッフの育成に関して、セルフマネジメント教育を先進的に継続して行っているカナダマギル大学を視察し調査を行う。

2年間の研究成果

平成24年度

セルフマネジメント教育を在宅で行うiPad用ソフトの開発として、iPadを音声、イラスト、動画等を用いて擬人化し、使用するCOPD患者がiPadにタッチしながらコミュニケーションをとり主体的にセルフマネジメント能力を向上させる6週間のCOPD患者教育プログラム用ソフト(アプリケーション)を作成した。
セルフモニタリング能力の向上と症状変化時の行動計画に関して、服薬の有無の入力後に、①息切れ(ボルグスケールCR10)安静時および歩行時、②体温、③咳嗽、④喀痰の量、⑤喀痰の色、⑥浮腫、⑦体重(2週間に1回)、⑧その他の体調変化の有無を順番に入力する仕様とし、入力情報から急性増悪を自動判定し行動計画(アクションプラン)を呈示するアルゴリズムを作成した。ボルグスケールCR10を主体とする点が喘息日誌と大きく異なる特徴である。
セルフマネジメントに必要な知識、息切れを軽減させる技術の修得として、セルフマネジメントの重要性から開始し、次に口すぼめ呼吸や呼吸同調歩行、活動性を向上させる低強度の運動療法の指導を行い、早期から活動性を向上させるための介入を行うこととした。全12項目から構成し、各項目で解説のみの画面と、1日2~4問のQ and Aの画面を作成した。また、画面中にライブラリーのアイコンを作成、自由にコンテンツを閲覧できるようにした。口すぼめ呼吸や呼吸同調歩行等はモデルを用いて動画を作成した。
胸郭の柔軟性の向上、日常生活における活動性の向上に関して、モデルを用いて手技手順の動画を作成した。1日の歩数は歩数計で計測し、画面にタッチし入力する。歩数や外出の頻度が前週より増加した場合は、iPad画面が患者を称賛し、患者がトレンド画面も閲覧できるようにした。
平成25年度に実施するパイロット試験に関する研究計画書の作成を行い、観察期間2週間、iPadを用いた介入期間2週間の計画書を完成させた。また、開始前の携帯端末・電子機器の利用状況調査票、終了時の使用感調査票を作成した。

平成25年度

COPD患者を対象にインタラクティブにセルフマネジメント教育を展開するiPadアプリケーションソフトを開発した。看護師のイラストをナビゲーターとし、①症状チェック、②ストレッチングの動画、③セルフマネジメント・息切れを軽減させるための学習、④体操の時間・歩数の入力が自動展開する仕様とした。
iPadアプリケーションソフトを用いた6週間のパイロット試験を、7例のCOPD患者(平均年齢72.1歳)を対象に実施した。アプリケーションソフトへのアドヒアランスは良好で、使用感調査では全員が操作は簡単と回答した。息切れの軽減、健康関連QOL、LINQスコアの改善を認め、増悪をきたした1名で対応の改善を認めた。
パイロット試験結果や使用感調査に基づき、高齢患者層への配慮、プログラム習熟度の向上等の方策を検討し、デザインの変更やアルゴリズムを追加作成等を行った。また、身体活動性の向上を目的とした歩数トレンドグラフを閲覧機能や、医療者用のブルートルースを用いた患者情報出力機能の強化、増悪時連絡先のタイプ入力機能の追加等を行った。
セルフマネジメント教育を指導するスタッフの育成に関して、カナダ、マギル大学で調査を行ったところ、セルフマネジメント教育に関するCOPDナースの存在と介入の重要性が明らかであった。わが国の現状では、健康・保健施設や在宅等へのCOPDナースの配置は困難であるため、iPadを用いて患者教育を行うCOPDエデュケーター養成システムの開発や、様々なスタイルのアプリケーションソフトの開発が、セルフマネジメント教育普及に有用となることが示唆された。

評価結果

平成24年度

平成24年度評価結果(PDF:86KB)

平成25年度

平成25年度評価結果(PDF:78KB)

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