子どものぜん息は「大きくなったら治る」とか「中学に上がれば治る」とか言われているのを聞かれたことがあると思います。このことを専門用語では「思春期寛解」と呼んでいるのですが、残念ながら、中学生になっても、ぜん息がそのまま続いて、大人のぜん息として、ずっと付き合わなければならない方もいらっしゃいます。もちろん、今は良いお薬がたくさんありますので、きちんと治療を続けていたら、元気に過ごすことは可能です。
しかし、ここで、大切なのは、「正しく治療を続ける」ことです。そのようなことから、今、「移行期医療」という言葉がトピックとなっています。
現在の医療体制では、子どものぜん息は小児科医師が、大人のぜん息は内科医師が診療することになっています。このことは、子どもだった患者さんが成長して大人になると、担当するお医者さんが小児科から成人科へと変わってしまうことを意味します。本当は、同じお医者さんに続けて診てもらう方がいいのかもしれませんが、ぜん息だけでなく、子どもの時には小児期特有の、大人になると成人期特有の身体や心の問題が起こるかもしれません。そのため、子どもは小児科専門の先生が、大人は内科専門の先生が診るほうが全体としてはうまく行きやすく、医師が交替するのはある程度やむを得ないというわけです。
しかし、皆さんが心配されるように、長く診てもらって、よくわかってもらえる先生から、突然、知らない先生に変わるのは抵抗がありますし、また、治療の方法が微妙に違うことがあって戸惑ってしまうこともあります。そこで、この時期を移行期医療と位置づけて、治療に切れ目がないよう、スムーズに続けられる体制をつくろう、と医療界ではいろいろなことが話し合われているわけです。どうかご安心ください。
国立病院機構三重病院
臨床研究部アレルギー疾患治療開発研究室長
長尾みづほ
よりよい医療体制づくりは、医者や専門の学会、医療機関にお願いするとして、ここでは、患者さんの側から「移行期」に気を付けていただきたいことを2つお知らせしたいと思います。これは、自立しようとする中学生、高校生の皆さんへのアドバイスです。
①自分のぜん息のこと、もう一度、よく学んでください。
ぜん息の治療の基本は、長期管理薬と言われる予防薬をきちんと続けることです。その中心は吸入ステロイド薬ですが、なぜ続けるのか、どのように効いているのか、知っていますか? それがわからないと、きちんと続けることが難しくなります。今、症状がないようにみえても、予防薬をきちんと続けないと、ぜん息が悪化してしまい、やがて、部活でゼーゼーしたり、大きな発作が起こったり、いろいろ困ることが出てきます。自分のぜん息をよく知れば、自然にうまく治療を続けることができるでしょう。
②ぜん息をよくするのは自分です。
小児科の先生は、よく「母親的」であると言われます。お母さんのように、いつも優しく、「だいじょうぶ?」と聞いてくれて、自分であまり考えなくても、全部頼ってしまうことがあります。一方、内科の先生は、「父親的」と言われ、ちょっと厳しく、皆さんを自立した大人として、自分のことに責任を持つようにと言われます。もし、毎日の予防薬を忘れてしまったとき、お母さんは、口元までもってきてくれて、さあ、しなさい、と言うかもしれませんが、お父さんは、それで悪くなったら自分の責任だよ、と、言われるかもしれません。そうです。大人になれば、自分のことは自分で責任を持つのが普通です。ぜん息をよくするのは、自分なんだ、ということをもう一度、思い出してみてください。
この2つのポイントで、お医者さんが変わってもきっとうまくいきますよ。
乳幼児期の治療の主体は当然ながら保護者です。子どもたちがぜん息をもっていても健やかに育つために、お母さん、お父さんが頑張ります。でも、お子さんが小学校に入ったら、少しずつ、自分でできるようにしてあげなければなりません。自分のぜん息のことをよく知って、どうして予防薬が大切なのかをしっかりわかるように教えてあげることが大切です。生活の中に治療を取り入れていく工夫も大切です。
ちょっと難しくなるのが小学校高学年の時と中学生になってからです。子どもたちは自立に向けて成長しているのですが、この時期は自我がでてきますから、なかなか素直に親の言うことは聞けません。すると、「吸入しなさい」と言っても、「うるさい」とか、してないのに「した」とか言ったりして、治療がおろそかになってしまうことがあります。思春期にぜん息が悪化することがありますが、その背景にこのようなことがあるのは珍しくありません。悪化を防ぐために、ここはお母さん、お父さんの頑張りどころです。ポイントは、「自分のために」「自分が元気になるために」「部活などで頑張れるために」治療するのだ、ということを子どもたち自身が納得するように仕向けることです。頭ごなしはだめです。お母さん、お父さんが中学生だった時のことを思い出してみて、どうしたらやる気がでるのか、いろいろ考えながら、思春期の子どもたちが、ぜん息を乗り越えていけるようサポートしてください。