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COPDは全身の病気です~知っておきましょう、肺合併症と全身併存症のこと~②(全4回)
どうしてCOPDには合併症・併存症が多いの?

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、肺だけでなく、全身の病気です。COPDで亡くなる患者さんの死因の多くは、合併症(COPDに伴って肺の中に起こってくる病気)や併存症(COPD患者さんに起こりやすい全身の病気)によるものとの報告もあります。「COPDと合併症・併存症」をテーマに、COPD治療の第一線で活躍されている奈良県立医科大学呼吸器内科学講座の室 繁郎先生にお話を伺う連載の第2回。今回は、どうしてCOPD患者さんは合併症や併存症になりやすいのか、またどんな合併症に注意すべきなのか、ご紹介します。

ポイント!

COPD患者さんは合併症・併存症にかかりやすく、注意が必要です!

室 繁郎 先生 奈良県立医科大学呼吸器内科学講座教授
室 繁郎 先生

たばこ、喫煙感受性、身体活動性が合併症・併存症を起こす3要素です

COPDの主な原因は喫煙習慣です。たばこの煙には有害な化学物質がたくさん含まれています。たばこを吸うことで、こうした有害な成分が直接気管支や肺に悪影響を与えます。さらにこれらの化学物質は血液に溶け込んで全身をめぐり、さまざまな臓器に悪さをします。

ただし、たばこを長年吸っている人が全員COPDになるわけではありません。長期間喫煙をした人のなかで、COPDを発症する人は約20%と言われています。これはたばこの煙に対する抵抗力が強い人と弱い(喫煙感受性が高い)人がいるためと考えられています。喫煙感受性が高い人は、体にもともと備わっている、喫煙によって体に取り込まれる有害な物質を無毒化する力が弱いため、COPDになりやすく、自ずと他の病気にもかかりやすいのだろうと言われています。

また、COPD患者さんは、体を動かすと息が苦しくなるため、歩行等の運動を控えがちです(身体活動性の低下)。「運動不足は万病のもと」と言われるように、体を動かさなくなることが、他の病気を誘発するものと考えられています。

つまり、COPD患者さんに合併症・併存症が多い理由は、①たばこの煙を長年吸い続ける、②喫煙感受性の高さ、③身体活動性の低下の3点と言えるでしょう。

肺合併症の早期発見・早期治療を心がけましょう

肺合併症としてよく見られる病気に、「気管支ぜん息」が挙げられます。COPDはたばこなどの有害物質による肺や気管支の損傷が原因であり、一方、気管支ぜん息はアレルギーなどによる気道の慢性的な炎症が原因であるように、それぞれ原因が異なる別の病気です。しかし、症状がよく似ているため、合併していることに気づかないことが少なくありません。COPD患者さんの20~30%が気管支ぜん息を合併していると言われています。そのような場合は、COPDの治療に加え、ぜん息治療の併用が必要となるので、COPD患者さんは主治医の先生にアレルギーなど、ぜん息の合併を疑う要素がないか、調べてもらうことも大切でしょう。

また、「肺線維症」もCOPDの合併症の一つ。この病気は原因がよく分かっていないのですが、喫煙習慣に関連すると言われています。その名のとおり、肺が線維化して固くなり、柔軟性がなくなることで肺が十分に膨らまなくなってしまい、呼吸が苦しくなる病気です。血液中の酸素が不足して、重症になると生命に関わることもありますので、注意深く症状を観察することが大切です。

その他、COPD患者さんは肺がふわふわと軟らかくなっているので、大きなくしゃみや咳をしたときに、「気胸」といって、肺の一部が破れることで肺がパンクしたような状態になることがあります。その場合、肋骨と肋骨の間からチューブを入れて、漏れた空気を吸引するなど緊急の措置が必要になります。また、がんの中で死亡者が最も多い「肺がん」もCOPDの合併症の一つです。

いずれの合併症も、早期発見・早期治療によって予後を改善することが出来ます。COPD患者さん、そのご家族は、健康診断やがん検診、人間ドックなどで、定期的に合併症の有無をチェックすると良いでしょう。

次回は、注意すべき全身併存症についてご紹介します。

室 繁郎(むろ・しげお)先生

1989年京都大学医学部卒業。田附興風会北野病院内科研修医・医員、カナダマギル大学ミーキンス・クリスティー研究所研究員、京都大学医学部附属病院呼吸器内科准教授などを経て、2018年奈良県立医科大学呼吸器内科学講座教授に就任。現在に至る。医学博士(京都大学大学院医学研究科)。『喘息とCOPDのオーバーラップ 診断と治療の手引き』(2018年)作成委員、『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』(2022年)副委員長 。現在、日本呼吸器学会で、閉塞性肺疾患学術部会(COPD、喘息および気道系疾患に関する諸問題)の部会長を務めている。