いよいよ今年もインフルエンザ(季節性)の流行期が迫ってきました。ここ数年、大きな流行は見られませんでしたが、今冬は一転、新型コロナウイルス感染症との同時流行も懸念されています。そこで今回は、ぜん息・COPD患者さんとそのご家族が、インフルエンザにどう備えればよいのかを全3回にわたり紹介します。ぜん息・COPDをはじめとする呼吸器・アレルギー疾患や感染症にも豊富な知識をもつ昭和大学病院病院長の相良博典先生にお話を伺い、第1回は、インフルエンザの基礎知識について紹介します。
ぜん息・COPD患者さんが感染すると重症化しやすい傾向が!日頃の治療の継続と、ワクチン接種をお早めに
昭和大学病院 病院長
相良 博典 先生
インフルエンザとは、インフルエンザウイルスを病原とする気道感染症で、主に高熱、気管支炎、咽頭炎、頭痛、関節痛などを伴う呼吸器系疾患です。
感染経路は、①飛沫感染=感染している人のくしゃみや咳で出るしぶきを吸い込むことによる感染と、②接触感染=感染している人の唾や鼻みずが手から手へ、あるいはドアノブやつり革などを介して手に付着した状態で、口や鼻、目などの粘膜を触れることで感染するという2つの経路があります。
例年、11月~12月頃から流行が始まり、翌1月~3月頃にピークを迎えるので、冬場限定で起こるものと思われがちですが、実はインフルエンザウイルスは、1年中、私たちの周りに存在しています。その中で、冬場は乾燥により、ウイルスを覆っていた水分が蒸発して軽くなり、空気中に長い時間浮遊し続けるようになることで、飛沫感染しやすくなるのです。
インフルエンザが流行するかどうかは、季節が日本と反転する南半球のオーストラリアの感染状況が1つの指標となっています。
2022年5月、南半球では冬となるオーストラリアで、インフルエンザの大きな流行が起こりました。主な要因は、行動規制の緩和やマスク着用率の低下、そして過去2シーズンにおいてコロナ感染対策を徹底したことでインフルエンザの感染者が減り、集団免疫が低下したことなどが挙げられます。
日本人は諸外国と比べマスク着用を徹底している傾向にあるので、オーストラリアほどの流行に至らないのではないか、という意見もありますが、決して油断はできません。日本人もインフルエンザへの免疫機能が低下しているものと考えられますので、流行の可能性があります。
これからもマスクの着用、手指消毒、うがいなどといった感染対策を継続することが大切です。
ぜん息・COPD患者を含む呼吸器疾患の患者さんは、インフルエンザの症状が重症化しやすい傾向にあります。COPD患者さんは高齢の方が多く、免疫機能が低下しているため、特に気をつけなければなりません。
インフルエンザの重症化を予防するために、ワクチンがありますので、この機会に接種を検討してみてください。接種から抗体ができるまで1~2週間かかりますので、12月中には接種を終えておくことがのぞましいです。
ただし、ワクチンは感染を予防するものではありませんので、もしぜん息・COPD患者さんがインフルエンザにかかってしまった場合は、すみやかに医療機関を受診し、抗インフルエンザウイルス薬などによる治療を行ってください。
その際に、現在行っているぜん息・COPDの治療を継続することが大切です。COPD患者さんは、場合によっては、治療の強化も行う必要があります。
次回は重症化予防策であるインフルエンザワクチンについて少し詳しくご説明します。
相良 博典(さがら・ひろのり)先生
1993年獨協医科大学大学院医学研究科修了。同大学病院で勤務した後、2013年に昭和大学医学部内科学講座・呼吸器アレルギー内科学部門の主任教授に就任。2017年より同大学病院内科学講座主任、副院長を務め、2020年4月に現職就任。喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、呼吸器感染症における豊富な診療経験を持つ。日本呼吸器学会呼吸器専門医。日本アレルギー学会アレルギー専門医。第68回日本アレルギー学会学術大会大会長。
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