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知っておきましょう、「職業性ぜん息」のこと
①「職業性ぜん息」の基礎知識〜職場でのアレルゲンによって発症するぜん息のこと~

「職業性ぜん息」をご存じですか?その名の通り、職場で発生するさまざまなアレルゲン(原因物質)によって発症するぜん息です。近年増加傾向にある職業性ぜん息について、「職業性アレルギー疾患診療ガイドライン2016」の編集に携わった群馬大学名誉教授で上武呼吸科器科内科病院病院長の土橋邦生先生に、職業性ぜん息の基礎知識から歴史、治療や予防法などについて、いろいろ伺いました。全6回に分けてご紹介します。連載の第1回目は職業性ぜん息の基礎知識をご説明いただきます。

ポイント!

職業性ぜん息はあらゆる職場で起こりうる病気です

土橋 邦生 先生 上武呼吸器科内科病院病院長
群馬大学名誉教授
土橋 邦生 先生

職業性ぜん息にはアレルギー性と刺激性とがあります

職業に関連して起こるぜん息全体を「作業関連ぜん息」といい、「職業性ぜん息」とはその中で、特定の職場で特定のアレルゲン(原因物質)に曝されることで起こるぜん息のことを指します。

さらに職業性ぜん息には、たとえばパン職人が小麦粉などの特定の職業性物質を長期間吸引することで生じるアレルギー性のものと、刺激性物質などを一度に大量に吸い込むことで発症するものがあります。専門的には前者を「感作物質誘発職業性ぜん息」、後者を「刺激物質誘発職業性ぜん息」と呼んでいます。

刺激性物質による職業性ぜん息は、米国の9.11同時多発テロの際、倒壊した貿易センタービルで、救援に入った消防士などが大量の粉塵を吸い込んで発症した例が有名ですが、アレルギーとは直接関係がありません。

今回のコラムでは、前者の、アレルギーによる職業性ぜん息(以下、「職業性ぜん息」と呼称します)について少し詳しくお話ししていきたいと思います(図)。

■図 作業関連ぜん息の分類(『職業性アレルギー疾患診療ガイドライン 2016』より)

図 作業関連ぜん息の分類(『職業性アレルギー疾患診療ガイドライン 2016』より)

職業性ぜん息の有病率は成人ぜん息全体のおよそ15%

では、どのくらいの人が、職業性ぜん息にかかっているのでしょうか。職業性ぜん息という病気があまり知られていないことや、仕事だからと我慢する人が多いなどの理由から、表に出てこない傾向があり、実数を把握するのはなかなか難しいのですが、(日本では詳細なデータはありませんが)欧米では、成人ぜん息のおよそ15%(※)が職業性ぜん息ではないかと考えられています。

※正確には「人口寄与危険度割合」=ある原因により、集団の罹患率や死亡率がどのくらい増加するかを表します。この場合、職業要因の関与によりぜん息患者がおよそ15%増加するということを表します。有病率については、国や地域、経済事情により大きく異なり、ばらつきがあります。

実は職業に起因した呼吸器疾患は、ぜん息だけでなく、COPDや過敏性肺炎など多岐にわたります。欧米の学会は「肺の病気について、職業に関連する要因の重要性があまりよく知られていない」と指摘し、「こうした(職業に関連するリスクの)認識不足が肺の病気の診断と治療、予防の妨げにもなっている」と警鐘を鳴らしています。職場で取り扱う物質が職業性ぜん息の原因となりうるので、特定の仕事や作業をしているときにぜん息のような症状が出る場合には、我慢をせずに専門医を受診することをおすすめします。

次回は、職業性ぜん息の歴史をご紹介します。

土橋 邦生(どばし・くにお)先生

1978年群馬大学医学部卒業。博士(医学)。2005年同大学院保健学研究科教授を経て、2018年より上武呼吸器科内科病院病院長。群馬大学名誉教授。日本職業・環境アレルギー学会理事長を務める。「職業性アレルギー疾患診療ガイドライン」の編集・発行(2013年)および改訂(2016年)に取り組む。日本呼吸器学会指導医、日本アレルギー学会指導医など。第66回日本アレルギー学会学術大会大会長。第41回日本職業・環境アレルギー学会学術大会大会長。