2023年7月15日(土)~16日(日)、福岡国際会議場にて第39回日本小児臨床アレルギー学会学術大会が行われ、その中で、16日に環境再生保全機構(ERCA)主催による市民公開講座「知りたいこどものアレルギー」(座長:昭和大学小児科学講座 今井孝成教授)が開催されました。
この連載コラムでは、各プログラムの講演の概要と、事前に寄せられた質問に対する専門医の回答を、全10回にわたり紹介しています。
連載第6回の今回は、前回に引き続き、福岡市立こども病院皮膚科科長、こどもアレルギーセンター副センター長の工藤恭子先生による講演内容をご紹介します。
ステロイド外用薬は、強いものから順にⅠ群(ストロンゲスト)、II群(ベリーストロング)、III群(ストロング)、IV群(ミディアム)、V群(ウィーク)の5段階のランクに分類されています。ガイドラインでは、「皮疹の重症度に応じて、外用剤のランクを選択する」とされ、2016年までのガイドラインでは、お子さんに対しては大人と比べてワンランク低いものを使いましょうということが明記してありました。今はこの記述が削除され、年齢によってランクを下げる必要はありませんが、短期間で効果が表れやすいため使用期間に注意しましょう、という文章に変更になっています。
ステロイド外用薬を大量に塗ることについては、不安に感じる方も多くいらっしゃると思いますが、今日は、外用薬と内服薬ではまったく違うということと、副作用の正しい知識を知っていただきたいと思います。
以下は、それぞれステロイド外用薬、ステロイド内服薬の代表的な副作用をまとめたものです。
外用薬を使っているお子さんでよくあるのは、うぶ毛が濃くなる「多毛」です。けれども、外用薬の副作用で挙げた萎縮線条以外は治療が終われば元の状態に戻ります。後で詳しくお話しますが、ステロイド外用薬をプロアクティブ療法で続けていくと、1、2年もすれば多毛も元に戻ってきます。皮膚の菲薄化(ひはくか)も小児に関しては1、2か月すると戻ります。
萎縮線条は、大人の妊娠線と一緒です。成長期のお子さんの場合も、肌が一気に伸びると膝まわりやお尻まわりに萎縮線条ができることがありますので、鑑別が必要です。
また、眼圧を上げてしまう可能性もありますので、緑内障には注意が必要です。これは『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021』にも「リスクを高める」と書かれています。ただ、目のまわりに薬を塗るのをためらうことで目のまわりの炎症が続いてしまうと、アトピー性皮膚炎の眼合併症である緑内障、白内障、網膜剥離の危険性も出てきますので、できるだけ早期にステロイドでコントロールして他の薬剤に切り替えていくことが必要だと考えています。
先ほど少し触れたプロアクティブ療法についてお話します。従来のリアクティブ療法では、炎症があるときに薬を使います。ただそれでは炎症の波がなかなか落ち着かないことが多いのです。
プロアクティブ療法というのは、最初しっかり炎症を抑えてあげて、見た目が綺麗になってもしつこく薬を塗っていくものです。その後、間隔を空けていくわけです。最初は2日に1回にして、徐々に週に2回、週に1回というように間隔を空けていきます。このときに焦ってしまうとすぐ炎症が再燃してしまいますので、月単位、年単位で考えていきます。2年くらいを目標にコントロールしていくようなイメージです。
症状が出たときに薬を塗るリアクティブ療法が悪いわけではないのですが、プロアクティブ療法によって薬の間隔を空けていって、月に1、2回塗れば治るというくらいになれば、これは十分良いコントロールだと思います。また、プロアクティブ療法の方がトータルで使うステロイドの量が減らせるということもわかっていますので、その分、副作用も避けられるのではないかと思います。
3か月女児、IV群・III群ステロイド軟膏・抗生剤軟膏を外用したが、悪化した。
工藤先生の御講演スライドより
ここで、岡藤先生がお話されたことも含めてクイズをしていきたいと思います。次の中から、正しいものを1つ、選んでください。
いかがでしょうか。
正解は①で、「こどもの皮膚は乾燥しやすい」というのは先ほど(連載第5回)お話した通りです。
②ステロイド外用薬は、湿疹のある皮膚は凸凹しているので、「薄く」ではなく、厚めに覆うくらいに塗ってあげた方が最初は効果が出やすいです。
③「乳児湿疹」とは炎症を起こしている状態です。炎症は保湿剤だけでは治らないので、しっかりステロイドを使って治していきます。
④アトピー性皮膚炎と診断されたら離乳食の開始を遅らせた方が良いかについては岡藤先生のお話にありましたが(連載第1回)、遅らせない方が良いです。遅らせてしまうと経皮感作ばかりが進んでしまうので、口からどんどん食べていって、皮膚はツルツルにしておく、これが今の主流のやり方です。
ここまでステロイド外用薬の話をしてきましたけれども、今はステロイド以外の塗り薬が続々と出ています。お子さんに使うことができる外用薬は、①ステロイド外用薬、②プロトピック軟膏、③コレクチム軟膏、④モイゼルト軟膏の4つがあります。
プロトピックは20年前に出たお薬ですが、20年経った今でも安全に使えるということがわかっています。コレクチム軟膏は2020年に発売されて、2021年からお子さんに使うことができるようになりました。モイゼルト軟膏も2022年6月から使うことができるようになっています。今日はぜひこれを覚えて帰っていただけたらと思います。
ステロイド | プロトピック | コレクチム | モイゼルト | |
---|---|---|---|---|
炎症を抑える力 | 強(I)/II/III/(IV)群 | 中 | 中 | 中~弱 |
塗る量の制限 | 制限なし | 2~5歳:1g 6~12歳:2~4g 13歳以上:5g |
1回5gまで 体表面積の30%まで |
皮疹の範囲に応じて |
分子量(Dalton) | 360-521 | 822 健常皮膚では吸収されない |
310 | 446 |
濃度 | ランクで使い分ける | 小児用0.03%のみ | 中等症以上で成人用0.5%OK | 中等症以上で成人用1%OK |
使用感・効果 (私見も) |
・軟膏は各基剤による ・剤形が選べる ・即効性あり |
・硬め ・顔、眼囲に有効 |
・伸びが良い ・長期外用で有効 ・部位を選ばない |
・硬め、保護力あり ・厚めに外用で有効 ・長期外用で有効 |
副作用 | 多毛・ざ瘡・毛細血管拡張・酒さ様皮膚炎・皮膚の菲薄化 ※萎縮線条以外は可逆的 ※緑内障(眼圧に注意) |
一過性の刺激感 ほてり、ぴりぴり、熱い |
(ざ瘡) | なし |
バリア機能 | TEWL↓ | TEWL→ | フィラグリン↑ SCL↑・TEWL↑/→ |
フィラグリン↑ |
プロアクティブ療法 | 〇 | 〇 | △? | 不明 |
工藤先生御講演スライドより
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能障害が起きることで、そこからいろいろなサイトカインが出て炎症を起こしていきます。そしてかゆみが出て、引っ掻いてしまってバリアがさらに傷ついてしまう。この「バリア障害」、「かゆみ」、「炎症」の3つがアトピー性皮膚炎の大きな病態だと言われています。
ステロイド外用剤は、「炎症」を抑える力が強い薬剤です。一方、新しい抗炎症外用剤は「バリア障害」を徐々にじっくりと回復してくれる効果や「かゆみ」を抑えてくれるという効果があります。
それぞれの薬剤について、詳しくお話します。
分子量がすごく大きい薬剤なので、健康な肌からはあまり吸収されません。ただ使う量が年齢によって変わってくるので、お子さんにはなかなか大量に使えないのが欠点なのと、使ったことがある方はわかるかと思いますが、最初の1週間くらいは刺激感、灼熱感、ヒリヒリと火照る感覚が出ます。この感覚も必ず良くなってくるのですが、最初は少ない量から使ったり、しっかり炎症を取ってから使ったり、そういった工夫が必要かなと思います。
・事例
①いろいろなアレルギーがある6歳のお子さんの事例
状態:目のまわりがかゆくてずっと掻いてしまう
治療と経過:Ⅲ群のステロイドをたっぷり塗ってもらって1週間で炎症を引かせて、プロトピック軟膏に切り替えました。徐々に週2回くらいに持っていって、コントロールも良くなっていきました。今年は花粉がすごく多かったので、花粉の時期に目のまわりがかゆくなったお子さんも多かったかと思いますが、プロトピックはそういうときにも効きます。
②全身のアトピー性皮膚炎、7歳のお子さんの事例
状態:III~IV群のステロイドを外用していたが, 皮疹のコントロールが困難。
治療と経過:入院してもらってしっかり外用治療をしました。顔にはIII群、体にはII群のステロイドを厚めにたっぷり塗ってもらって、顔が綺麗になったところでプロトピックに切り替えました。顔の反応がすごく良かったので、体もII群からⅢ群にランクダウンしてプロトピックに切り替えて、プロトピックでプロアクティブ療法、間隔を空けていくやり方をしましたが、2年後にはすごく綺麗になりました。
2023年1月から、生後半年のお子さんにも使うことができるようになりました。特徴としては分子量がすごく細かくて、浸透が良くジワッと効いてくれます。
・事例
状態:7歳のお子さんで、全身にひどい掻き傷
治療と経過:II群のステロイドでしっかり炎症を取ってからコレクチム軟膏を併用していって、その後コレクチムをメインにしていって2年後には綺麗になりました。
コレクチム軟膏は最近赤ちゃんにも使うことができるようになったので、結構こういうやり方をするのですが、ステロイドとコレクチムを組み合わせて、徐々にコレクチム軟膏でコントロールしていく。そうすると再燃の波が少ないように思います。
ベッタリ厚めに塗ってもらうとすごく効果が出てくると思います。ベタベタに塗るのが嫌なお子さんはちょっと苦手かもしれませんが、結構もっちりした感じで、効いてきます。掻き傷があるような乾燥肌がメインのお子さんもしっとりしてきますし、重症のアトピー性皮膚炎があっても、寛解導入でステロイドの治療をしてからモイゼルトに切り替えていくと、しっとりした、もっちりしたお肌になってくれます。
治療のポイントとしては、ステロイド外用薬だけでプロアクティブ療法(薬の間隔を空けていく治療法)をすると、やはり再燃の波があったり乾燥肌になったりとかすることがあるのですが、先ほど事例をご紹介したように、間にプロトピックやコレクチム、モイゼルトといった新しい外用剤を使ってあげたり、あるいはベースとして保湿剤にプラスしてこれらの新しい外用剤をずっと続けていくというのも理論的にはすごく良いことなのかなと思います。
最後に、私の目標としては、冒頭にもお話したように乳児期の経皮感作を防ぎ、成人期にアトピー性重症皮膚炎を持ち越さないということ。そしてこどもたちにはかゆみにとらわれない生活を送って欲しいということ。炎症を長引かせるほど難治性に近づくため、小児においては発達・発育を妨げることなく、発症早期に徹底治療し、寛解維持して難治例をできるだけ減らしたい。そう願いながら診療を行っております。
次回は、工藤先生のもとに寄せられた質問と、その回答をご紹介します。
第39回日本小児臨床アレルギー学会共催 市民公開講座「知りたいこどものアレルギー」レポート⑥(全10回)