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環境再生保全機構 熱中症特集サイト


                    高まる熱中症リスク(前編)
                    国立環境研究所 客員教授 小野雅司さん(聞き手 ERCA理事 川上毅)

環境疫学がご専門の小野先生は、国立公害研究所(現在の国立環境研究所)に入所され、環境保健部・環境健康センター室長をお務めになられました。環境省・気象庁による「熱中症予防対策に資する効果的な情報発信に関する検討会」の座長をはじめとして、この分野で大変豊かなご見識とご経験をお持ちです。熱中症研究の第一人者であられる小野雅司先生に、気候変動と熱中症リスクや予防策等についてお話を伺いました。
 インタビューは前編と後編、2度に分けてお届けします。今回は前編です。

将来、東北・北海道でも対策が必要に

川上 気候変動は、国内外で極めて重要な課題となっています。気候変動問題の持つ重要な側面は、気象事象の振れ幅が大きくなり、豪雨や極端な高温など、いわゆる極端事象の発生頻度が高くなるということです。気候変動と熱中症のリスクについて教えてください。

小野 気候変動と熱中症の関係には大きく二つの点が指摘できます。一つは、暑い日が増え非常に極端な暑さが出てくること。もう一つは、現在とかなり状況が変わることで、色々な影響が出て来るということです。これまで6月下旬から7月上旬頃に暑くなり始め、その時期を目安に生活スタイルや服装の対策をとっていたと思いますが、これが5月の中下旬に急に暑くなるなど、これまで予想していなかったことが起こる可能性があります。生活スタイルも急には変えにくく、体が暑さになれていないことで、今以上に熱中症へのリスクが大きくなると考えています。現在の日本の歴代最高気温は41.1度ですけれども、これが45度といった日が出てくるかもしれません。そうなると、今までの対応では追いつかなくなることも考えられます。

非常に極端な暑さに加えて、暑い日が連続して起きることも考えられます。日本でも猛暑日が何日か続くことはありますが、1週間、10日も続くようなことが起こると、その影響はより大きくなります。例えば2003年にヨーロッパで起きた熱波においては、緯度の高いフランスのパリでも最高気温が40度を超え、年間平均気温も30度を超える非常に極端な暑さになりました。1週間か10日くらい猛暑が続いた影響で、最初は平年と同様にわずか数十人くらいの死亡者数だったのが、2日、3日、4日と続くにしたがって倍々に増え、最終的には平年の数倍くらいまで死亡者が増えるということがありました。暑さが続くと体にとって非常に負担になるということです。

日本の場合でも東北北部や北海道のような暑さを経験することがない所で猛暑日になると、やはり対応しづらいことがあるのではないでしょうか。日本の場合32度、33度の暑さがずっと続くと、生活を変えなければいけません。例えば今の沖縄県では、7月、8月はほぼ毎日32度、33度で35度を超えることはあまりありませんが、32度、33度が数か月続くと、作業環境や運動などを少し控える、あるいは翌日に回すということができなくなります。そうすると無理をしてでもやらなければいけないなど、今までとはかなり対応策が変わるのではないかと考えています。

暑さの影響は高齢者に集中

川上 熱中症患者・死亡者の特徴的なことがありましたら、教えてください。

小野 熱中症の情報源として一番広く使われているのは、救急搬送者数と死亡者数です。これは総務省消防庁が都道府県から情報を集めてホームページで発信しているもので、個別のデータを解析に使っている研究者もいます。もう一つは厚生労働省の人口動態統計で熱中症の死亡者数が取りまとめられています。翌年の秋ぐらいに前年度分が公表されるので、速報性は低いものになります。このほか、全国をカバーするわけではないのですが、監察医務院のデータが速報的に流されることもあります。また、医療機関を受診した時の診療報酬明細書(レセプト)も情報源としてはありますが、あくまでも医療費の請求用なので、救急搬送者数や死亡者数とは若干異なっています。

熱中症による救急搬送人員数のグラフ

出典:総務省消防庁

ここでは救急搬送者数と死亡者数についてご紹介します。救急搬送者数は、2000年代の半ばくらいから公表されるようになり、いくつか波がありました。まず2010年に2009年までと比べて全国で3倍ぐらいに救急搬送の数が増えました。解析してみたところ、暑さだけでは説明できないものでした。ニュース、ネット等で熱中症の危険性をさかんに呼びかけるようになり、それまでは救急車をなかなか使わなかった方が使うようになったことが一因と考えられます。このように気象条件以外の部分も若干2010年前後で変わっている感じがします。それから2018年に全国で10万人近くの熱中症救急搬送がありました。こちらはかなりの部分が気象条件、暑さによるものだと思います。救急搬送者数は確実に増えていて、これが今後も続いていくだろうと思います。救急搬送の体制に影響が出てくることを心配しています。

救急搬送者数は年齢層によってかなり特徴があります。全体としては高齢者が圧倒的に多く、人口当たりでも、高齢者の割合は、他の年齢層に比べて倍以上高くなっています。暑さの影響は、高齢者に大きくに出てくるのだろうと思います。
 体力的には比較的元気な世代である中高生が高齢者に次いで多く、運動が大きな要因となっています。データを見ていくと学校での運動中の事故は少なくなっていますが、極端な事故につながらないにしても、救急搬送につながる事例が非常に多くなっています。また、青壮年の場合、屋外の作業や負荷の高い作業をしている方は、どうしても熱中症を防げないことがあります。

熱中症による死亡者数の割合(2020年度)のグラフ

出典:厚生労働省人口動態統計

救急搬送者数は、全国データで見ると5割くらいが高齢者ですが、死亡者数だけを見ると8割以上が高齢者となります。同じように熱中症にかかったとしても高齢者の方が重症化しやすく、最悪の場合、死につながることが非常に多くあります。このようなところを特に対策として進めていく必要があります。
 高齢者以外の救急搬送者数は、31度、32度の日に比べて36度、37度の日に2倍、3倍くらいまで増加します。ところが高齢者の場合には、31度、32度に比べて36度、37度の日は、10倍、20倍くらいまで救急搬送者数が増えます。高齢者は暑さに対する対策が取られていないということです。今後暑さが強まるにしたがって、影響はまず高齢者に集中して出てくることが懸念されます。

(つづく)