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環境再生保全機構 熱中症特集サイト


                    高まる熱中症リスク(後編)
                    国立環境研究所 客員教授 小野雅司さん(聞き手 ERCA理事 川上毅)

インタビューの前編では、熱中症研究の第一人者である小野雅司先生に、気候変動と熱中症リスクについてお伺いしました。後編では熱中症の予防策等についてお届けします。

高齢者は周囲のサポートが不可欠

川上 ここからは熱中症の予防策等についてお伺いします。ERCAでもの一環として呼吸器疾患の高齢者を普及啓発の対象としています。高齢者に対して熱中症への警戒を呼び掛けるためのポイントを教えてください。

小野 高齢者はご自身では対応できてないケースが多いため、周りの人がフォローすることが大事になります。環境省が暑さ指数や熱中症警戒アラートを出しており、高齢者は朝のニュース等で熱中症の情報は入ってくるのでしょうが、リアルタイムでの情報というのはなかなか届かないと思います。

考えられる対応策の一つはご家族です。同居のご家族が高齢者の部屋の暑さに気を付けてあげることができます。同居していない場合でも、親族の方々が、随時電話等で状況を確認すること、ご両親等がお住まいの地域が暑い時や熱中症警戒アラートが出ている時には、積極的に注意を呼び掛けてあげることが大事です。

環境省「熱中症環境保健マニュアル2018」の画像

出典:環境省「熱中症環境保健マニュアル2018」

また、高齢者は暑さを感じにくいことがありますので、部屋の中のわかりやすい所に温湿度計を置いて、客観的に分かる工夫をするといいと思います。それから地域を見回る民生委員が、お独り住まい、高齢者世帯に声掛けをすることが大事になると思います。

実際に暑さ指数を測ってみるべき

川上 環境省が暑さ指数、熱中症警戒アラートを出しているということですが、これらの有効的な活用方法を教えてください。

小野 熱中症警戒アラートは2020年度、関東甲信で試行的に実施し、2021年度から全国展開しています。環境省は10年以上前から暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)で28度を超えると要警戒、31度を超えると危険と情報発信しています。熱中症警戒アラートは、特に熱中症の救急搬送者数が急増しやすい日、目安としては暑さ指数で33度を超えた場合に、前日の夕方、それから当日の朝にニュース等を通じて警戒を呼び掛けることになっています。

毎日、今日も暑いと呼び掛けるだけでは、だんだん危機感がなくなりますので、熱中症警戒アラートは、本当に危険な日に絞って流す方が効果的です。暑さ指数と救急搬送者数を組み合わせて解析した結果、暑さ指数33度だと大半で救急搬送者数が急増しているため、熱中症警戒アラートの発表は暑さ指数33度以上に限定することになりました。
 北海道と沖縄県以外は、都府県単位で警戒アラートが出されます。場所によっては、暑さ指数33度が出ている地域でも高度の違いで涼しい所がありますので、自分たちの住んでいる地域の暑さ指数を実際に測って注意してもらいたいと思います。

逆に、暑さ指数が33度でなくても、例えば下がコンクリートの面、あるいは両側が建物(ビル)に挟まれているような暑くなりやすい所に住んでいる場合には、熱中症警戒アラートが出ていなくても暑くなっている可能性があります。また、体育館等、屋外はそれ程暑くなくても、建物内は非常に暑いようなところもあります。出来るだけ個別に暑さ指数を測って、注意する必要があります。
 暑さ指数を実際に測って、運動、部活動をどうするか判断することに役立てていく必要があると考えています。

暑さ指数や熱中症警戒アラートはこちら
環境省熱中症予防情報サイト(環境省ホームページ) https://www.wbgt.env.go.jp/

熱中症警戒アラートの図

出典:環境省熱中症予防情報サイト

自分の状況に当てはめて対策を

川上 政府の方でも2021年3月に熱中症対策行動計画が取りまとめられましたね。

小野 熱中症対策行動計画は総合的な観点から取りまとめていますが、一人ひとり、ご自身の状況に応じて確認することが大事です。高齢者の場合、中高生の運動、青壮年の作業中、ご自分の場合に関係するところはよく読んでご利用いただきたいと思います。

それから場所にも注意が必要です。あくまでも熱中症警戒アラートが出てくるものは、一般的な気象観測所のデータになりますので、それ以外でも非常に暑くなる場所もあります。特に自分が気を付ける必要があるところを抜き出して注意を払っていただきたいと思います。

川上 ここまで、熱中症の予防策等について教えていただきました。最後に全体を通じてのメッセージをお願いします。

小野 気候変動の影響で、今後暑くなることは間違いありません。きちんと対応の水準等を考えて、エアコンをあまり我慢せずにぜひ積極的に活用していただきたいと思います。極端に部屋を冷やすことは論外ですが、28度程度を目安に部屋の中の冷房は調整していただければと思います。もちろん、新型コロナウイルスへの対応として、部屋の換気も必要ですが、少し工夫すれば決してエアコンの利用と換気は相反するものではありませんので、うまく活用していただければと思います。

繰り返しになりますが、暑さの影響が一番大きい高齢者については、関係者の見守り、手助けなど、どのようにサポートしていくのか、ぜひ関係者で相談しながら、高齢者への熱中症の急増を抑えてもらえればと考えております。

川上 本日はお忙しいところありがとうございました。

編集後記

気候変動の影響で今後暑くなることは間違いなく、その分熱中症のリスクは高まります。ERCAには、患者さん、企業、NPO、ユース世代、研究者など様々なネットワークがあるので、そうしたつながりを活用しながら熱中症への注意喚起をしていければと思いました。