地球温暖化

気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)及び京都議定書第5回締約国会合(CMP5)の結果概要及び関連情報

1. COP15の主な決定

1-1. 決定に至る背景

(1)COP15の特徴

2009年12月7日から19日まで、デンマークのコペンハーゲンで、COP15とCMP5が開催されました。この会議には、192カ国・地域から約4万人が参加しました。

COP15には、各国の首脳陣が多数参加しました。これは、従来のCOPではみられなかったことです。通常、COPでは2週間にわたる会期の最後に、環境大臣等の閣僚級会合が行われて結論がとりまとめられます。しかし今回は、環境大臣等に限らず、日本の鳩山総理大臣、アメリカのオバマ大統領、中国の温家宝首相をはじめ、115もの国から各国のトップが集まり、初の首脳級会合が行われました。

[ COP15全体会合の様子 ]
COP15全体会合の様子

現在、京都議定書の締約国である日本などの先進国は、温室効果ガスの削減目標を掲げて努力を進めています。この京都議定書の第一約束期間は2008年から2012年です。COP15は、京都議定書に続く、温暖化対策の国際的なルール(次期枠組)を決めることを重要な目的としていました。しかし残念ながら、拘束力のある数値目標など、新たな仕組みを決定する最終合意に至ることはできませんでした。では、COP15の結論はどのようなもので、なぜ、そうなったのでしょうか?

(2)合意に至る経緯

2週間にわたる会期の前半は、2つの作業部会による交渉が行われたのですが、京都議定書の延長や強化を主張する開発途上国と、京都議定書にはアメリカ、中国、インドなどの温室効果ガス大量排出国が参加していないので、これらの国による削減を推進すべきとする先進国との対立が解消されず、実質的な進展がなかなかみられませんでした。

各国首脳が集まり始めた12月17日夜から、日、米、欧、中、印、小島嶼国など、主要な26カ国・機関の首脳陣により「コペンハーゲン合意」の案について議論が行われ、関係した首脳陣の間では、この案でいったん合意が得られました。その後、時間の関係などのため、多くの首脳陣は帰国の途につきました。

しかし、最終決定機関であるCOPの全体会合では、数カ国がこの合意の作成過程が不透明であったことを強く非難し、合意の採択に反対しました。スーダン代表は、コペンハーゲン合意が「産業化以前からの気温上昇を2℃以内に抑える」としている箇所を不十分だと指摘し、IPCCの報告からみても、1.5℃以内に抑えないと、アフリカ諸国は致命的な被害を受けると強く主張しました。反対する国は全体からみれば少数でしたが、COPは全会一致による採択が原則なので、一カ国でも反対する国があれば、採択はできません。積極的に賛成を表明したり、“この合意は決して完全なものではないが、この場で何らかの合意がなければ次のステップには進めない、一刻も早く取組を進めなければならない”と、反対する国の説得を試みたりする小島嶼国代表などもいました。このように、従来は“一枚岩”とみなされていた途上国間で明らかな意見の対立がみられたのも、今回のCOPが初めてのことでした。

議長が降板するなどの波乱もありましたが、最終的に全会一致の正式な採択に至ることはできず、コペンハーゲン合意は「COPがこの合意に留意する」との表現で決定されました。この合意には、賛同する国のみが参加します。

1-2. コペンハーゲン合意の主な内容

COP15は多数の国が関わる国際交渉の困難さが明らかになった場でした。失敗だったという報道もみられますが、それでも、コペンハーゲン合意には重要な内容が含まれています。合意は、3ページの本文と、各国の削減目標を後から記載するための別表1(先進国用)、別表2(途上国用)から構成されています。主な内容は、以下のとおりです。

コペンハーゲン合意の主な内容(外務省ホームページより)

  • 世界全体の気温の上昇が2度以内にとどまるべきであるとの科学的見解を認識し、長期の協力的行動を強化する。
  • 附属書Ⅰ国(先進国)は2020年の削減目標を、非附属書Ⅰ国(途上国)は削減行動を、それぞれ別表1及び2に記載する。各国は2010年1月31日までに記載事項を提出する。
  • 締約国の行動はMRV(測定/報告/検証)なものとされなければならない。非附属書Ⅰ国(途上国)が自発的に行う削減行動も国内検証を経た上で、国際的な協議の対象となる。支援を受けて行う削減行動は国際的なMRVの対象となる。
  • 先進国は、2010~2012年の間に300億ドルの新規かつ追加的な公的資金による支援を共同で行い、また共同して2020年までには年間1,000億ドルの資金動員目標を約束する。
  • 2015年までに合意の実施状況を評価する。

コペンハーゲン合意の重要なポイントは、3つあります。1つは、世界の気温上昇を2℃以内に抑える、という数値目標が掲げられたことです。2つめは、各国が行う削減目標や削減行動を測定/報告/検証するという「MRV(measurement, reporting and verification)」の重要性が明記されたこと、3つめは、途上国に対する資金援助額が決定されたことです。

(1)気温上昇の抑制幅

気温上昇を2℃以内に抑えることは、IPCCの第4次評価報告書(AR4)に基づいています。温暖化の影響などについてまとめたIPCC-AR4第2作業部会の報告書では、世界の平均気温の上昇の程度とその影響について、「気温の上昇が約2~3℃以上である場合には、すべての地域は正味の便益の減少か正味のコストの増加のいずれかを被る可能性が非常に高い。」と述べられています。このような科学的知見を踏まえ、以前から欧州を中心とする多くの国が、気温の上昇幅を2℃以内に抑えるべき、と主張していました。

(2)測定/報告/検証(MRV)

MRVは、削減が実際に行われたかどうかを第三者の目で確認するためにも、重要な手続きです。しかしコペンハーゲン合意の中では、途上国が自主的に行う削減活動については、国内の検証を得るのみでよい、ということになりました。中国などの温室効果ガスを大量に排出している途上国が、自分たちの取組はあくまでも自主的なものであり、削減の義務は負わない、温暖化の責任を負っているのは先進国である、との従来の立場を、今回も改めて強く主張したためです。多数の途上国もその意見に賛成しました。その結果、途上国の削減活動のうち国際的な検証の対象となるのは、先進国からの支援を受けて行う削減行動のみとなりました。しかし、どのようにMRVを行うかについては、ガイドラインを検討することが決まったのみで、具体化はこれからです。

(3)途上国への資金援助

コペンハーゲン合意の中で、途上国の温暖化対策支援のための資金として先進国が約束したのは、2010~2012年の間に300億ドル、2020年までには年間1,000億ドルの資金供与を目標とすることです。また、新たに「コペンハーゲングリーン気候基金」を設立することも決まりました。ただし、これらの資金をどのように調達し、基金をどのように運営するか、などの具体策は、今後の検討課題として残されています。

コペンハーゲン合意には、上記の他にも、森林の減少や劣化による温室効果ガスの排出を削減する取組(REDD)を進めることや、途上国のための能力開発、技術移転など、多くの重要な項目が言及されています。

1-3 主要国の動向

コペンハーゲン合意を受けて、日本は、「2. 日本の動向」の項でも詳しく紹介しますが、2010年1月26日に、目標を公式に提出しました。「2020年までに、1990年と比較して25%削減。ただし、すべての主要国による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築及び意欲的な目標の合意を前提とする」というものです。欧州連合(EU)は1月28日に、2020年までに1990年比で20%削減し、他の先進国などの削減努力によっては30%まで削減するとの目標を提出しました。アメリカも1月28日に、2020年までに2005年比で17%削減するとの目標を提出しました(1990年比換算では3%の削減に該当)。全ての国からの目標が出揃った時点でUNFCCCの事務局がとりまとめ、コペンハーゲン合意の別表1と2に整理して公表される予定です。

[ 先進国が提出した削減目標(2010年2月10日現在)]
国名 削減目標 基準年
オーストラリア -5~-15%または-25% 2000
ベラルーシ -5~-10% 1990
カナダ 17% 2005
クロアチア -5% 1990
EU -20/-30% 1990
アイスランド -30% 1990
日本 -25% 1990
カザフスタン -15% 1992
リヒテンシュタイン -20% 1990
ニュージーランド -10~-20% 1990
ノルウェー -30~-40% 1990
ロシア -15~-25% 1990
アメリカ -17% 2005

出典:UNFCCCホームページ http://unfccc.int/home/items/5264.php

1-4 今後の予定

(1)交渉のスケジュール

COPでは、多数の政策的な課題を取り扱うため、特別作業部会(AWG)という形で事前協議が何度も行われています。AWG-LCA(枠組条約の下の長期的協力について話し合う特別作業部会)とAWG-KP(京都議定書附属書B改正について話し合う特別作業部会)の2つです。このうちAWG-LCAは、2009年末で役割を終えるはずだったのですが、AWG-KPと共に作業を継続することになりました。

2010年の11月末から12月にかけて、今度はメキシコでCOP16が開催されます。その次は、2011年の年末に南アフリカでCOP17が開催される予定です。今回の「合意への留意」を足がかりとして、これらの会議で実質的な進展が得られるかどうかは、今後の各国の取組にかかっています。

(2)補足

COPは、毎回100カ国以上から数千人が参加する大きな国際会議です。各国政府代表団の他、報道関係者、国連機関などの関係者、さらに、一般の人たちも正式な登録手続きをとればNGOとして参加可能です。本会議場の周辺で、自分たちの意見や取組内容を発表するための「サイドイベント」という催しをすることができます。この場合の「NGO」には、いわゆる環境団体などだけではなく、企業団体や研究機関など、幅広い立場の人たちが含まれます。一般から参加するには、あらかじめUNFCCCの事務局に承認されたNGOの一員として、参加登録をしておく必要があります。COPの会場には、会議を円滑に行ったり安全・警備上の管理を十分にするために、参加登録された人だけが入ることができます。

しかし今回は、最終的な参加登録者総数が4万人を超えるという、かつてない大規模なものとなりました。温暖化の問題に関する国際的な関心が、それだけ大きく高まった表れとみることもできますが、会場の収容可能人数が1万5000人程度だったこと、首脳級の参加者が急増して警備上の問題が生じたことなどのため、会期の後半からは、各国代表団以外の参加者の入場が大幅に制限されることとなってしまいました。国際交渉を傍聴したり、サイドイベントなどを行うために世界中から集まった多数のNGO参加者は、最終日にはそのほとんどが会場に入れないという残念な結果も生じてしまいました。来年は、どのような形で開催されるのでしょうか。

[ COP15会場 NGOなどの展示ブース ]
COP15会場 NGOなどの展示ブース

2. 日本の動向

2-1. COP15における日本の活動

(1)日本政府の取組

日本政府からCOP15に参加したのは、鳩山総理大臣をはじめ、小沢環境大臣、福山外務副大臣、増子経済産業副大臣、大谷環境大臣政務官など、温暖化に関わる主要な閣僚をはじめとする代表団でした。会期中、閣僚たちは、議長国デンマーク政府との連携、アメリカなど他の先進国との協調、中国をはじめとする途上国への働きかけなどを進めながら、交渉に貢献し、積極的な主張を行いました。

12月16日、小沢環境大臣は、日本の削減目標を改めて発表しました。「全ての主要排出国が参加する公平で実効性のある枠組みの構築と野心的な目標の合意を前提に、『2020年までに90年比25%の削減を目指す』」というものです。さらに、温暖化対策を推進するための“鳩山イニシアティブ”の具体化として、温室効果ガスの排出削減などに積極的に取り組む途上国や、気候変動の悪影響を特に受けやすい途上国を対象として、2012年末までの約3年間で1兆7,500億円(うち公的資金は1兆3,000億円)の支援を決定したと発表しました。鳩山総理はこの目標や援助について、12月18日の首脳級会合でのステートメントで改めて発表し、各国から歓迎されました。

(2)日本のNGOなどによる活動

日本から参加した多数の一般参加者も、サイドイベントなどで自分たちの意見や取組、調査結果などの発表を行いました。環境省、(独)国際協力機構(JICA)、(財)地球環境センター(GEC)、(社)海外環境協力センター(OECC)、(財)日本エネルギー経済研究所(IEEJ)が共同で開催した「途上国の持続可能な発展と気候変動のコベネフィット」というサイドイベントには、約300名と多数の聴衆が集まりました。

[ 「途上国の持続可能な発展と気候変動のコベネフィット」サイドイベントの様子 ]
「途上国の持続可能な発展と気候変動のコベネフィット」サイドイベントの様子

「途上国の持続可能な発展と気候変動のコベネフィット」サイドイベントの様子

コベネフィットとは、温暖化対策としての効果と同時に、大気汚染や水質汚濁、廃棄物など、途上国で深刻な環境問題などの改善にも役に立つ取組、すなわち複数の利益=ベネフィットを得られる取組のことです。日本は、環境省を中心として、このコベネフィット型緩和策やCDM事業を途上国で推進するための取組を進めています。このサイドイベントでは、コベネフィットを定量的に評価するための仕組みや、そのための中国との協力事業の状況が紹介されました。また、後発開発途上国でなかなか進展していないCDM事業を、それらの国に役立つような形で推進するためのCDM制度改善提案、及びその技術面のポイントなどが紹介されました。

「途上国の持続可能な発展と気候変動のコベネフィット」サイドイベントの内容については、以下の「(社)海外環境協力センター(OECC)」及び「(独)国際協力機構(JICA)」のホームページで詳しく紹介されていますので、ご参照ください。

2-2. 今後の取組

日本政府が2020年までに排出を削減すると約束した目標は、世界各国の中でもトップクラスの意欲的な数値です。2008年には、世界同時不況の影響による景気後退により、産業分野などでエネルギー需要が減少したため、温室効果ガスの排出量も前年より少なくなりました。しかしそれでも、まだ京都議定書の目標値である「1990年比で6%削減」より、排出量は多くなっています。今度の中期目標は、この排出量よりもいっそう厳しい目標です。すでに産業界からは、経済活動を阻害し、外国との競争力を削いでしまうことへの懸念が表明されています。

日本は先進国の一員ではありますが、日本の温室効果ガス排出量は、世界全体の排出量の中で4%程度を占めるに過ぎません(2007年)。1970年代の石油危機をきっかけに、優れた省エネ技術を多数開発し、他国と比べても非常に高い省エネをすでに達成しています。一方、各家庭や運輸交通などの分野は、有効な温暖化対策がまだあまり多くないため、排出量が増加する傾向もあります。

温暖化対策は非常に重要で、今やまさに「待ったなし」の課題です。この目標を具体的にどのように達成していくか、温室効果ガスの排出が少ない「低炭素社会」の実現に向けて、私たち皆が知恵を絞り、力を合わせる必要があります。

[世界のエネルギー起源二酸化炭素排出量(2007年)]
世界のエネルギー起源二酸化炭素排出量(2007年)

[ 日本の温室効果ガス排出量(2008年速報値)]
日本の温室効果ガス排出量(2008年速報値)

3. 出典および関連情報リンク集

ここには、今回のCOP15報告に引用した資料(出典)のリンクを示しています。また、直接引用した内容以外にも、参考になる関連情報が多数含まれています。是非、参照してみて下さい。

COP15の正式サイトおよび日本政府の発表

COP15の概要に関する参考情報

2020年の中期目標

COP15における日本のサイドイベント

温室効果ガス排出量

このページの記載については、パシフィックコンサルタンツ株式会社地球環境研究所のご協力をいただきました。

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