前回、COPDのやせていく仕組みとやせを防ぐための食事について紹介しました。
第2回では、COPDの併存症の1つであるサルコペニアと予防するために重要な栄養素について紹介していきます。
筋肉量維持に重要な必須アミノ酸「BCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)」を意識して摂ろう!
関東学院大学 栄養学部 教授
田中 弥生 先生
全身の筋肉量が減り、筋力や身体機能が低下した状態のことをサルコペニアといいます。このサルコペニアになると、握力の低下や歩行困難、さらに食べ物を飲み込む筋肉や、呼吸をするための筋肉までもが減少します。その結果、日常生活の制限や転倒骨折、寝たきりなどに繋がる恐れがあります。
息苦しさを感じるCOPD患者さんにとっては、呼吸筋が減少するとますます呼吸困難が増大し、息苦しさから活動量も低下していきます。息苦しさや活動量の低下から食欲が減退しさらに食事量が低下するという悪循環になっていきます。
COPDは重症化するにつれ、BMI、歩数やスピードが顕著に低下し、筋肉量だけでなく栄養状態も低下します。
必要な栄養素が足りないと、低栄養という状態を引き起こします。低栄養状態では、まず肝臓や筋肉に蓄えられているグリコーゲン(炭水化物から生成されるブドウ糖が結合した多糖類のこと)がエネルギー源として利用され、これは1日で使い切ってしまうといわれています。
グリコーゲンを使い切った後は、脂肪細胞や骨格筋、内臓にあるたんぱく質が分解されエネルギーに使われます。そのため、筋肉量が減少していきます。このような低栄養状態が進むと免疫機能(リンパ球、多核白血球、抗体など)に障害をきたしたり、傷の治りが遅くなったり、臓器障害など様々な症状が起こります。
除脂肪組織(脂肪を除いた組織)が健常時の70%以下になると、窒素死と呼ばれる生命の危機が生じる状態になるといわれています。このような状態にならないためには、消費量に見合ったエネルギー量と栄養素を毎日の食事でしっかり摂取することがとても大切です。
前回、主食(ごはん、パン、麺など糖質になるもの)、主菜(肉、魚、大豆製品などたんぱく質や脂質になるもの)、副菜(野菜やきのこなどビタミン・ミネラルになるもの)が揃ったバランスのよい食事を摂りましょうとお話をしました。
筋肉をつくるためには、たんぱく質の摂取が欠かせません。たんぱく質は、体の中で「アミノ酸」に分解されますが、アミノ酸の中でも筋肉の保持や増量に最も重要な役割を果たすのが「分岐鎖アミノ酸(BCAA:バリン・ロイシン・イソロイシン)」です。
体の中でつくることができないため「必須アミノ酸」と呼ばれています。BCAAは、筋肉の分解を抑制し筋肉のエネルギー源にもなり、さらに筋肉の損傷を軽減する働きがあります。呼吸筋の損傷を防ぐという意味でもCOPD患者さんにとって欠かせない栄養素といえます。
BCAAを多く含む食品には、マグロの赤身、かつお、アジ、鶏肉、牛肉、卵、牛乳などがあります。
また、たんぱく質が体内でアミノ酸に分解されるときにビタミンやミネラルなどが必要ですので、主食、主菜、副菜をバランスよく食べるようにしましょう。
メニューに困ったら・・・・おすすめレシピを多数掲載しています。ぜひ参考になさってください。
https://www.erca.go.jp/yobou/copd/recipelists/#anc-list
食事から必要な栄養量の摂取が困難な場合や低体重の方、進行性の体重減少が認められる場合には、通常の食事に栄養補助食品を加えた栄養補給療法があります。医師や管理栄養士に相談してみましょう。
筋肉量を維持し、サルコペニアを予防するには、食事とともに体を動かすことが効果的です。COPD患者さんに対し、①運動療法だけの介入、②栄養療法だけの介入、③運動+栄養療法の介入の3つにわけて体重・大腿四頭筋(太ももの部分)・6分間歩行の変化について調べました。
それぞれ3カ月介入したところ、③のグループが①・②のグループに比べて体重維持や大腿四頭筋(太ももの部分)の増加がみられ、6分間歩行の距離の延伸が認められたと報告されています。※「食事」と「運動」を心がけQOLの向上を目指しましょう。
※『低体重慢性閉塞性肺疾患に対する栄養補給療法と低強度運動療法の併用効果』
運動についてはこちらで解説しています。
「運動をしましょう、続けましょう③~COPDの方が運動する際に注意すること~」
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202110_1/
2回にわたってCOPDでなぜやせてしまうのか、やせてしまうとどうなるのか、またCOPDの方の栄養療法をご紹介しました。普段の食事に一工夫することで体格にあった食事にすることができます。
よりよい毎日の為に運動と今回ご紹介した栄養療法を毎日の生活に取り入れていただきたいと思います。
田中 弥生先生
関東学院大学 栄養学部 教授
COPDの栄養療法について考えよう②(全2回)
~COPDとサルコペニアの悪循環、筋肉量を維持するための食事とは~