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運動をしましょう、続けましょう③ ~COPDの方が運動する際に注意すること~

いよいよスポーツの秋本番! 最終回となる今回は、COPDの方が運動をする際に考えておくべき注意点をご説明します。息切れで歩くのさえ苦しい方も、できるだけ無理なく運動を始める方法などを、東京女子医科大学呼吸器内科学教授の桂秀樹先生に伺いました。

ポイント!

治療で症状を安定させ、目標を決めて楽しく続ける工夫をしましょう!

桂秀樹 先生 東京女子医科大学内科学講座
呼吸器内科学分野教授
桂秀樹 先生

最初はたった1分からでもOK! 徐々に時間と強度を増やしましょう

軽症から重症度の高い人まで、すべてのCOPDの方に、運動がとても効果的であることを第一に覚えていただきたいと思います。とはいえ、息切れがひどく、つらくて動けない方は、無理に強い強度の運動をする必要はありません。まずは治療で症状をある程度安定させること。そして状態が少し落ち着いたら、運動の強度や時間など細かいことは気にせずに、1日1分でも2分でも立って歩くところから始めましょう。難しければ、まずは呼吸筋ストレッチ体操など軽い運動からから始めましょう。

呼吸筋ストレッチ体操動画(別ウィンドウで開きます)

歩行はとても安全で、道具もいらず、簡単に実施できる持久力トレーニングです。

まずはご自身にとって快適な歩速でゆっくりと。慣れてきたらだんだんと歩く時間を延ばします。快適歩行で20分歩くことができるようになったら、今度は運動強度を上げて、少し息苦しさを感じる速度にしていきます。やや息苦しい歩速で約20分間の歩行。これが一つの目安です。常時できるようになったら、ペットボトルやゴムバンドなどを利用した上下 肢の筋力トレーニングを加えます。

運動のモチベーションを上げるには、数値目標を設定すること

ただ歩くだけでは飽きてしまったり、面倒でやめてしまったりすることもあるでしょう。運動を続けるには、モチベーションを保つことが重要です。

そのため、目標の「見える化」を行いましょう。具体的な方法の一つは、朝起きたらすぐに歩数計を装着することです。一日何歩歩くかは、かかりつけ医に相談し決めておきます。毎日就寝前には歩数を確認し、ノートに記します。目標を達成していたら、「よくやった」と自分をほめてあげましょう。毎日午後2時くらいに歩数計をチェックし、「今日は目標に足りていないな」と思ったら、その後少し家の中や外で歩数を稼ぐ、という工夫もお勧めです。今はさまざまな運動をサポートしてくれるアプリもあるので、ご家族などと一緒に運動療法に活用するのもよいでしょう。

日本の季節の変化や、木々、花々、家並みなどを楽しむようにすると、さあ歩きだそう、という気持ちになるかと思いますが、コロナ禍の今、屋外の散歩は気がひける方もいらっしゃると思います。ホームセンターなどで手に入る自転車エルゴメーターをリビングに設置し、テレビやビデオを観ながら運動をするのも1つの方法です。

体重が減少している人は運動の負荷を減らして、しっかりカロリー摂取を

最後に食事と運動の関係を説明します。ぜん息の方は、悪化因子のひとつである肥満にならないようカロリー過多に気をつけましょう。

一方、日本のCOPD患者さんはやせ型の方が多い傾向にあります。呼吸筋の酷使によりカロリー消費が増えるため、たくさんのエネルギーや栄養素が必要となり、十分なカロリーを摂取できないと体重減少が続くのです。体重減少は、筋肉量の低下や、虚弱につながり、食欲・気力が衰えてさらに体重減少を招く悪循環に陥りかねません。体重減少が進んでいる場合は、十分なカロリーをとりながら体を動かすことが重要です。その際は、さらなる「やせ」につながる強度の高い運動を避け、かかりつけ医の指示を受けながら、ゆるやかな負荷の少ない運動を心がけます。身体活動性を高めるため、掃除や洗濯、料理をしたり、あるいはお孫さんと遊んだりするのもよいでしょう。運動は健康寿命を延ばし、生活の質を高めてくれる万能薬です。体力がついてくると食欲も湧いてくるでしょう。動くことを少しずつ続け、いきいきとした生活を送ることを目指しましょう。

桂秀樹(かつら・ひでき)先生

1985年岩手医科大学医学部卒業。博士(医学)。東京女子医科大学八千代医療センター呼吸器内科教授などを経て、現在、東京女子医科大学内科学講座呼吸器内科学分野教授。日本内科学会認定内科医、日本呼吸器科学会専門医・指導医・代議員、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会理事。専門分野は呼吸器疾患全般、とくに慢性閉塞性肺疾患(COPD)。