今回は「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021」で推奨されている「新しいお薬」のことをご説明します。塗り薬、飲み薬、注射薬と、近年めざましい勢いで多種多様になった治療薬について、ガイドライン作成に携わった、国立成育医療研究センター アレルギーセンター長の大矢幸弘先生に伺いました。
新しいお薬の基礎知識を得て治療のモチベーションを高めましょう!
国立成育医療研究センター
アレルギーセンター長兼
総合アレルギー科診療部長
大矢 幸弘 先生
「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021」には、塗り薬、飲み薬、注射薬ごとに新しいお薬が紹介されています。
治療効果が認められた新しいお薬について知ることは、患者さん・ご家族の、治療に対するモチベーションアップにつながるのではないかと思います。
今回は、その一つひとつについて簡単にご説明いたします。
2020年1月に世界で初めて日本で製造販売承認された外用JAK阻害薬の「デルゴシチニブ」は、1999年に発売されたタクロリムス軟膏以来、約20年ぶりとなる「新しい塗り薬」です。ヤヌスキナーゼ(JAK)と呼ばれる炎症を引き起こすシグナルをブロックすることで、炎症やかゆみといったアトピー性皮膚炎の症状を改善することが期待されています。抗炎症作用は最も弱めのステロイド外用薬と同程度ですが、このお薬は、52週間(約1年)という長期使用時の安全性が確認されており、また毛細血管の拡張などの副作用がほとんど見られないこと、使用時の刺激感も起こりにくいこと、などの利点があります。2歳以上の方が使用できるので、幼児のアトピー性皮膚炎治療にも活かされています。これまでの経験からすると、治りにくい顔や手指の炎症や湿疹に有効であるとの印象があります。
「バリシチニブ」も、ヤヌスキナーゼの働きを抑えるJAK阻害薬ですが、こちらは塗り薬でなく、1日1回服用する「新しい飲み薬」です。炎症やかゆみを引き起こすシグナルを抑えることにより、症状の改善が期待されます。アトピー性皮膚炎の飲み薬としては12年ぶりの新薬で、これまでの治療であまり効果がなかった中等症以上の患者さんに用いられます。複数の臨床試験で、アトピー性皮膚炎の症状が改善し、かゆくて眠れないといった生活の質の低下を防げることも明らかになっています。成人のアトピー性皮膚炎の患者さんが対象ですが、その後、12歳から使用できる別のJAK阻害薬も販売されました。このお薬の優れたところは、効き目が速いこと。もちろん個人差はありますが、服用から数日でかゆみが取れ、皮膚の状態も改善するケースも見られます。
注射薬の「デュピルマブ」も、これまでの治療であまり効果を得られなかった中等症以上のアトピー性皮膚炎患者さんに使われます。先の2つのお薬より早い、2018年1月に製造販売承認されました。今のところ、デュピルマブは気管支喘息では12歳以上、アトピー性皮膚炎では15歳以上が使用の対象となっています。アトピー性皮膚炎の治療薬としては、初めての抗体医薬、病気の原因となっているたんぱく質などの抗原に対する抗体を作ってピンポイントでやっつけるお薬です。アトピー性皮膚炎患者さんの皮膚には、ある特定の免疫細胞が多く存在し、この細胞が作り出すたんぱく質が炎症を引き起こしたり、皮膚のバリア機能を損なう要因となるのですが、デュピルマブはそれらのたんぱく質を抑え込んで、症状改善を図るお薬です。特定のたんぱく質(抗原)のみを狙い撃ちにするため、その分副作用も限定的であると考えられています。また、指導を受ければ、患者さん・ご家族による自己注射が可能で、通院の負担を軽減できます。
以上のようなお薬に加えて、新しい塗り薬や抗体医薬の開発が現在も進んでいます。
お薬の基礎的な知識を身につけて、意欲的に治療に取り組みましょう。
なお、お薬には薬本来の目的以外の、好ましくない働き(副作用)が生じる可能性があります。万一の副作用に備えて、医療機関に確認、相談しておくことも大切です。
次回は、治療に際して、医療者との信頼関係を築くことの大切さについてご説明します。
大矢 幸弘先生
1985年名古屋大学医学部卒業。同大学小児科、国立名古屋病院小児科、国立成育医療センター(現在の国立成育医療研究センター)アレルギー科医長などを経て、現在、同アレルギーセンター センター長兼総合アレルギー科診療部長。この間、1994年ハーバード大学心身医学研究所、97年から2002年ロンドン大学聖ジョージ医学校公衆衛生科学部研究員を併任。医学博士。
正しい治し方で生活の質を高めましょう ~「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021」~②