「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021」にスポットを当てた連載も今回が最終回です。連載3回目の最終回は、「治療の目標(ゴール)」を目指すためにとても重要なことをお伝えします。それは、「医療者との信頼関係」を育むこと。ガイドライン作成に携わった、国立成育医療研究センター アレルギーセンター長の大矢幸弘先生に伺いました。
信頼できる医療者と二人三脚であきらめずに治療を続けましょう!
国立成育医療研究センター
アレルギーセンター長兼
総合アレルギー科診療部長
大矢 幸弘 先生
アトピー性皮膚炎は、ストレスによって悪化するということが、よく知られています。このため医療者には、患者さんのからだの不調だけでなく、こころの状態や患者さんが置かれている社会的な立場など、さまざまな側面に注意を払いながら治療を進めること、つまり「心身医学」を重視することが求められています。「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021」では、2018年版以上に、「心身医学的な側面」が強調されました。
具体的には、「治療の目標(ゴール)を患者さんと医療者が共有することが重要である」と示されています。治療のゴールを共有することは、アトピー性皮膚炎に限らず、すべての病気の治療の原点、根本であるといえるでしょう。
アトピー性皮膚炎の「治療のゴール」は、ガイドラインでは、「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持すること」とされています。
「治療のゴール」は一つだとしても、そこに至るアプローチは一つに決まっているわけではありません。患者さん・ご家族には、それぞれのライフスタイルやお仕事、ご家庭の実情など、さまざまな背景があり、医療者側が病状だけ診て治療方針を選択しても、患者さん側にとっては受け入れるのが難しいこともあります。患者さんと医療者双方が納得できるアプローチを見つけ出すことが大切です。
「治療のゴール」を共有するため、医療者側は心身両面において病気を治すという使命感を、患者さん・ご家族側では病気を治すという意欲を持ち続けることが大切です。両者の思いを合致させ、治療のゴールへと導いてくれるのが、お互いの信頼関係といえるでしょう。
患者さん・ご家族が、治療半ばで通院をやめてしまったり、お薬やスキンケアを中断するケースは少なくありません。治療を中断したことで症状が悪化して、そのためスキンケアが面倒になって、さらに生活の質が低下するという悪循環に陥ることもあります。理由はさまざま考えられますが、よく耳にするものに、「3箇所の医療機関に診てもらったが、全部で違うことを言われた」とか「何度も医師を変えたが、効果が感じられない」というような、あきらめの言葉があります。これは、治療のゴールが共有できていない、ひいては、信頼関係がうまく築けていないためだと考えられるでしょう。
診療に当たっては、効率的かつ的確に、意思疎通を図ることが重要です。アトピー性皮膚炎に関する、お薬のことも含めた正しい知識を身につけることで、医療者とのコミュニケーションが円滑に進むことが多くあります。その一助となるべく、患者さん・ご家族向けの分かりやすい医療情報サイト「アレルギーポータル」がWEB上で公開されています。ここでは、アトピー性皮膚炎を始めとするアレルギー疾患の拠点病院や、専門医を検索することも可能です。患者さん・ご家族との信頼関係を築きながら、治療のゴールへ向かって伴走してくれる医療者は必ずいるはずです。
アトピー性皮膚炎は、治すことのできる病気です。これからも症状の改善に貢献する新しい薬が登場するでしょう。今こそ、信頼できる医療者とともに、正しい治療に取り組んで、「かゆみ・湿疹ゼロ」、生活の質の向上を目指しましょう。
大矢 幸弘先生
1985年名古屋大学医学部卒業。同大学小児科、国立名古屋病院小児科、国立成育医療センター(現在の国立成育医療研究センター)アレルギー科医長などを経て、現在、同アレルギーセンター センター長兼総合アレルギー科診療部長。この間、1994年ハーバード大学心身医学研究所、97年から2002年ロンドン大学聖ジョージ医学校公衆衛生科学部研究員を併任。医学博士。
正しい治し方で生活の質を高めましょう ~「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021」~③