2023年7月15日(土)~16日(日)、福岡国際会議場にて第39回日本小児臨床アレルギー学会学術大会が行われ、その中で、16日に環境再生保全機構(ERCA)主催による市民公開講座「知りたいこどものアレルギー」(座長:昭和大学小児科学講座 今井孝成教授)が開催されました。
本コラムでは、公開講座で行われた専門医による3つの講演「食物アレルギー」、「アトピー性皮膚炎」、「小児気管支ぜん息」の概要と、それぞれの質問に対する回答を全10回にわたりレポートしていきます。
連載第3回の今回は前回に引き続き、神戸市立医療センター中央市民病院小児科医長の岡藤郁夫先生が、事前に寄せられたさまざまな質問に答えられた様子をレポートします。
来年度からこどもが小学校に入学します。小麦、乳、卵、大豆、魚介、ナッツ、果物等のアレルギーがあり、エピペンも持っています。小学校の生活において、誤食や摂食での事故について心配しています。事故が起きる場合は、どういったケースが多いのでしょうか。また集団生活において気をつけることはありますか。
学校の先生に対しては「受援力(上手に助けを求めるスキル。連載第1回参照)」を発揮することが大事です。
保護者の方が学校の先生に説明する時は、今までどんなアレルギー症状があったか、何を食べて何分後にどのような症状が出たか、「このタイミングでエピペンを使いました」とかを実際に紙に書いて、具体的に説明をしてあげると良いです。私が作成に関わった「アナフィラキシー対応LINE」(※1)という食物アレルギー発生時の対処をLINEで確認できる仕組みがありますので、こんなのがありますよと紹介していただければ良いかなと思います。学校など複数でアナフィラキシー対応することを想定した集団用と、家庭などで一人あるいは少人数で対応することを想定した個人用があります。スマホアプリのLINEを開いて、友だち検索で、@570xayta(集団用)あるいは@482oqshr(個人用)とID検索すると使えるようになります。
(※1)アナフィラキシー対応LINE
離乳食とアレルギーのリスク管理について知りたいです。
食物アレルギーが心配な保護者のための離乳食の基本(※2)を参考に進めていっていただいたら良いかなと思います。また、食物アレルギーには「この症状が出たらエピペン®を打ちましょう」という緊急性が高いアレルギー症状が13項目あります(※3)が、私は「この症状が1つでも出たら絶対に救急車を呼んでください」と話しています。どうしても救急車を呼ぶことを躊躇してしまう方がいらっしゃるのですが、「この症状が出たら救急車を呼ぶ」という基準が決められていれば呼びやすいと思います。
(※2)食物アレルギーが心配な保護者のための離乳食の基本
1 | 児に痒みを伴う湿疹がある場合は、早期に湿疹の改善を目指す |
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2 | 食物アレルギーでも、離乳食の開始や進行を遅らせる必要はない |
3 | 離乳食開始時に利用しやすい米・野菜類が原因食品となることが少ない |
4 | 初めての食物を与える時は、児の体調のよい時に、新鮮な食材を充分に加熱し、少量から与える |
5 | 食事前に口周囲にワセリンを塗っておく |
【参考資料】
・「厚生労働科学研究班による食物アレルギー栄養食事指導の手引き2022」(研究代表者 海老澤元宏)
・『食物アレルギーをこわがらないはじめての離乳食』(伊藤浩明監修、主婦の友社、2015年12月31日発行)
(※3)13項目の緊急性の高い症状
全身の症状 | |
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1 | ぐったり |
2 | 意識もうろう |
3 | 尿や便を漏らす |
4 | 脈が触れにくいまたは不規則 |
5 | 唇や爪が青白い |
呼吸器の症状 | |
6 | のどや胸がしめ付けられる |
7 | 声がかすれる |
8 | 犬が吠えるような咳 |
9 | 息がしにくい |
10 | 持続する強い咳き込み |
11 | ゼーゼーする呼吸 |
消化器の症状 | |
12 | 持続する強い(がまんできない)お腹の痛み |
13 | 繰り返し吐き続ける |
アレルギーがあることはわかっていますが、原因となる食物が特定できていません。特定できていなくとも、日頃から取り入れられるような改善方法はありますか。
アドレナリン自己注射を使用すべき症状の13項目のうちの1つでも当てはまると思ったら、エピペン®を使って救急要請をする。そこをしっかりとやりましょう。そのうち、どういう時にアナフィラキシーが起きてアレルギーが出るかがわかるとある程度条件が固定されてきて、それで原因が明らかになることもあります。まずはアレルギー症状が出た際に適切に対応できるようにイメージトレーニングをしておくことをお勧めします。特に「緊急性が高いアレルギー症状」があった場合に迅速に動けるようにしておきましょう。その上で、もしアトピー性皮膚炎、ぜん息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎などがある場合は、それぞれの病気のコントロールを良好に保っておくことが大切です。こうすることで症状が出なくなったり、症状が出たとしても程度が軽くなったりすることがあり、私もよく経験してきました。
アレルギーは生まれた時からそのアレルギーを持っているのでしょうか。離乳食を進めていく過程で、何らかの原因でなってしまうのでしょうか。また、その他の理由からなのか、教えてください。
生まれた時からアレルギーを持っていることは極めて稀です。なぜなら0歳児はまだ免疫が未熟で、色々なものを受け入れる寛容さがまだあるからです。生後数日の時にちょっと母乳の出が足りないから人工乳を足したりしますよね。その時は平気だったのに、生後5か月くらいでバッと反応が出ることがあります。そのため、初めからアレルギーがあることは稀だと言えます。
ただ、乳児消化管アレルギーと言って、本当に乳児期早期から出るものもあります。
次回も引き続き、岡藤先生に寄せられた質問と、その回答の模様をレポートいたします。
第39回日本小児臨床アレルギー学会共催 市民公開講座「知りたいこどものアレルギー」レポート③(全10回)