本誌に寄せられているぜん息&COPD に関するさまざまな悩みや疑問に、編集委員の先生方がわかりやすくお答えします。
薬を事前に準備することや、発作を想定した対処法を身につけておきましょう。
修学旅行はとても楽しいイベントですが、旅行という非日常はぜん息の子どもにとっては、発作の誘因を多く含んだイベントでもあります。旅行を楽しいイベントのままで終わらせるためには、旅行前のぜん息のコントロール状態を最良に保っておくことと、事前に旅行中に遭遇するであろう誘因についてできるだけ調査し、かかりつけ医とよく相談して予防的治療と発作時の対処法を確認しておくことがとても重要です。
ぜん息の発作の予防の基本は、ぜん息のコントロール状態を良好にしておくことなので、旅行前の状態が不安定な場合は旅行への参加自体を控えなければならないこともあります。また、旅行では環境の変化はもちろん、身体的疲労や精神的ストレスなど発作をもたらす誘因が増加するので、これまでの発作の誘因の確認だけでなく旅行中に想定される天候や移動手段、宿泊施設、行事などの様々な誘因を考慮して、それらの誘因の回避策とともに発作時に使用する薬の確認が必要となります。特に誘因の回避には限界がありますので、発作をあらかじめ想定して迅速な対処法を身につけておくことが大切です。海外旅行などの場合は、飛行機内への薬の持ち込みの可否についても事前に調べて、携帯すべき長期管理薬と発作時の薬の確認をして不足しないように準備して、常に身近に携えておく必要があります。また移動中や旅行先での医療機関を含めた医療体制についても主治医や学校等と相談してできるだけ確認しておくと安心です。
東海大学医学部付属八王子病院小児科 特任教授 山口 公一先生
声が悪くなる原因はいくつかあります。それらを検証し、適切に対処しましょう。
大変楽しい趣味をお持ちですね。是非続けていただきたいので、吸入薬と声の関係について説明します。吸入薬を使っていると声がかれる、嗄声と呼ばれる副作用が出ることがあります。これは吸入ステロイド薬が原因とされ、5%前後の方に嗄声が出現します。吸入ステロイドはフルタイド、パルミコート、アズマネックス、アニュイティ、オルベスコ、キュバールなどの単剤や、気管支拡張薬との配合剤であるアドエア、シムビコート、レルベア、フルティフォームなどに含まれています。
嗄声の原因としては、①吸入ステロイド薬が声帯の筋力を低下させる、②薬剤の乳糖成分などが刺激になる、③免疫が抑えられてカンジダなどのカビが喉に付着するなどの可能性が報告されています。
対処法としてはまず、吸入後にしっかりうがいをすることが重要です。それでも嗄声が出る場合は、吸入の速度を再確認します。粉末を吸入するドライパウダー製剤の場合、吸入速度が遅いと声帯や喉に薬が付着し、嗄声が出やすくなります。
逆にスプレータイプのpMDI製剤の場合は、3秒以上かけゆっくり深く吸う必要があります。スピードが速すぎると、喉に衝突し付着して嗄声につながる可能性があります。
それでも嗄声が続く場合、薬剤の変更を考慮します。オルベスコは肺の中に薬剤が到達しないとステロイドの作用を発揮しないため、のどに付着しても副作用が出ない可能性があります。なお不十分な場合は、スプレータイプのpMDI製剤をスペーサーに噴霧して、そこからゆっくり吸入することで嗄声が防げる場合があります。
以上のように、1)うがいを行っているか、2)現在の吸入速度が適切かをまず確認しましょう。
それでも嗄声がある場合は、かかりつけ医と相談して3)薬剤の変更や4)スペーサーの導入を考えると良いと思います。適切に対処して、ぜん息治療と趣味を両立させてください。
帝京大学 医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー学 教授 長瀬 洋之先生
近年増加している自然災害。ぜん息やCOPDの方にとっても大きな問題です。
今回は、災害への備えや避難所での注意点などを紹介しましょう。
災害時には、健康な方でも心身に影響が及びますから、ぜん息やCOPDの方は特に事前の備えと自己管理が大切です。まずは、普段から呼吸の状態を高いレベルに保つようにしておきましょう。停電に備えて、在宅酸素機器メーカーのサポートを確認しておくことも大切です。また、避難所生活を余儀なくされた場合、避難所によってはホコリっぽかったり、寒暖差によって発作が起きることもありますから、不調が出た場合は我慢せず早めに周囲に伝えることが、悪化を抑えることにつながります。また避難所では、風邪やインフルエンザにも注意が必要です。うがい、手洗いをこまめに行うなど、基本的な健康管理にも気を配りましょう。
災害が発生した際には、かかりつけの病院に行けない場合があります。万一に備え、普段から一週間分くらい多めに処方してもらうようにしておくと安心です。会社員の方は、デスクに常備しておくのもよいでしょう。また、薬が切れてしまった場合に備え、お薬手帳に貼るシールを財布に入れたり、携帯電話で写真に撮っておけば、同じ薬を処方してもらえます。
災害時や避難所生活では、環境が変わり、心身の負担が大きくなります。できるだけ発作が起きないよう、普段から呼吸の状態を高いレベルに保つことも大切です。長期管理薬を使用し、呼吸の調子を整えておきましょう。
地域の病院の情報もチェックしておきましょう。災害時には、かかりつけの病院が被災して受診できない場合や、慣れない避難所生活で不調になることがあります。そうした場合に備え、地域の基幹病院の情報を収集しておくなど、あらかじめ準備しておくことが大事です。
日本呼吸器学会専門医・指導医、日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医(内科)、日本内科学会認定内科医、日本禁煙学会専門医・指導医、産業医、ICD(インフェクションコントロールドクター)