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コンテンツ 医療最前線
ぜん息、COPDと新型コロナウイルス感染症 その3
ウイズコロナの過ごし方

新型コロナウイルス感染症は、2023年1月になると高齢者の死亡者が急増するなど、いまだ収束の兆しが見えません。しかし、ワクチン接種の進展やウイルスの変異による症状の軽症化、治療薬の登場などにより、これまでより脅威は薄らいできたといえそうです。ぜん息やCOPDの患者さんと家族にとっては、新型コロナウイルスと共存する、これからのウイズコロナの時代をどう過ごすかが課題になるでしょう。新型コロナウイルス感染症の最新情報や、気になる後遺症の実態などとともに、2回にわたりお伝えしてきたぜん息とCOPDとの関係を総まとめします。日本呼吸器学会前理事長で高知大学医学部呼吸器・アレルギー内科学教授の横山彰仁先生と、すこやかライフ編集委員で帝京大学医学部内科学講座呼吸器・アレルギー学教授の長瀬洋之先生にお話を伺いました。

(本内容は2023年1月現在)

治療薬が相次ぎ登場 ワクチン接種も進む

感染力強いが軽症のオミクロン株が主流に

新型コロナウイルスは2020年1月、中国・湖北省武漢市で原因不明の肺炎患者から発見されました。コロナウイルスは典型的なかぜ症状を起こすウイルスですが、この新型ウイルスは人類が初めて接したもので誰も免疫を持っていないため、またたく間に全世界に広まりました。23年1月15日までに、全世界の感染者は約6億6700万人、死者は約672万人、日本でも約3130万人が感染し、6万2272人が亡くなっています(グラフ1)。

ウイルスは変異を繰り返し、日本では第4波(21年4~6月)は感染力の強いアルファ(α)株が中心でしたが、第5波(21年7~10月)で重症化リスクの高いデルタ(δ)株になり、第6波(22年1~4月)以降は、感染力は強いが比較的軽症ですむオミクロン(ο)株になりました。流行当初は特効薬がありませんでしたが、21年になると新開発の治療薬が相次いで登場。日本では軽症者向けの飲み薬も含めて10種の治療薬が使われています。

グラフ1 日本国内の新規感染者数と死亡者数の推移
厚生労働省ホームページをもとに作成

ワクチン2回接種は1億人超

発症を予防したり重症化を防ぐワクチンは、日本では21年2月から接種が始まり、現在ではファイザー社製、武田/モデルナ社製、アストラゼネカ社製、武田/ノババックス社製の4種が使われています。ワクチンは時間の経過とともに効果が薄れるため追加接種も実施され、希望者には5回目の接種が進んでいます。また、オミクロン株に対応したワクチンも22年9月から接種が始まりました。

23年1月13日までに、日本のワクチン総接種回数は3億7400万回を超え、このうち2回接種を終えた人は約1億317万人、人口の80.4%、3回接種を終えた人は約8538万人、67.8%に達しています(表1)。

ワクチン接種の進展や治療薬の開発、新型コロナウイルス自体の変異により、最近の新型コロナウイルス感染症は流行当初より軽症ですむ傾向になっています。第6波以降は、感染による肺炎が悪化して重症化するケースは少なくなり、基礎疾患や全身状態が悪化して死亡する高齢患者が多くなっています。現在は、オミクロン株の中でも、より感染力の強いタイプが流行しています。感染者が大幅に増え、それに伴い重症化したり、亡くなる方も増えているので、依然として警戒は必要でしょう。

表1 ワクチン接種回数と内訳
出典:首相官邸HPより

感染後に長引く症状も

ウイズコロナをどう過ごすかで、気になるのがいわゆる新型コロナウイルス後遺症です。どのような症状で、何か対策があるのでしょうか。

後遺症というと治らないイメージがありますが、新型コロナのいわゆる後遺症は医学的には罹患後症状と呼ばれます。WHO(世界保健機関)は新型コロナウイルスに感染し、少なくとも3か月以降に、2か月以上続いていて、他の疾患による症状として説明できないものと定義しています。日本でも厚生労働科学特別研究で調査が実施されました。「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント」によると、代表的な症状としては、疲労感・倦怠感、関節痛、筋肉痛、咳、喀痰、息切れ、胸痛、脱毛、記憶障害、集中力低下、頭痛、抑うつ、嗅覚障害、味覚障害、動悸、下痢、腹痛、睡眠障害、筋力低下が示されています(グラフ2)。

入院するなど中等症以上の新型コロナウイルス感染症の患者約1000人(2020年9月~21年5月に入院)を対象にした調査(厚生労働科学特別研究事業横山班報告)では、発症初期の症状は発熱86.9%、咳67.3%、倦怠感64.1%の順で、退院3か月後には筋力の低下の自覚50.1%、呼吸困難30.2%、倦怠感25.6%になっていました。いずれの症状も時間とともに頻度が低下していましたが、1年後でも約5~10%で残り、何らかの症状がある人は13.6%という結果でした。入院時に重症だった人や呼吸器系の基礎疾患がある人に、症状が出やすい傾向があったそうです。

海外の後遺症調査でも、出現する症状の割合や程度、改善する傾向もほぼ同様です。ただ、後遺症が起こる仕組みは不明な点が多いですが、ぜん息やCOPDが基礎にあると、呼吸器症状が残りやすいことが示されています。ぜん息やCOPDでない方で、新型コロナウイルス感染後も咳が続くので、後遺症ではないかと疑って受診したところ、実はぜん息だったと判明したケースもあるようです。

グラフ2 代表的な罹患後症状の経時的変化
出典:「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント」をもとに作成

後遺症対策にはワクチンとリハビリ

新型コロナウイルス後遺症にならないような対策はあるのでしょうか。ひとつは新型コロナワクチンの接種といえます。有効なワクチンを打っておくと、感染してもウイルス量が低減されるため、症状も後遺症も軽くなると考えられます。実際に海外の研究で、新型コロナウイルス感染症にかかる前のワクチン接種が、その後の後遺症のリスクを減少させると報告されています。この点、抗ウイルス薬も後遺症を減らす可能性があり、今後明確になってゆくものと思われます。

感染後のリハビリテーションの実施も後遺症を減らす可能性がありそうです(図1)。WHOは22年9月、新型コロナウイルス感染症の最新版ガイドラインで、呼吸障害や疲労感・倦怠感などの後遺症の症状に合わせたリハビリテーションを紹介しています。ただ、現状では直接のエビデンスが乏しく、多くが条件付きの推奨にとどまっています。リハビリテーションはこれまでも感染初期などで実施されています。初期治療が終わり退院した後に、呼吸法の指導と、有酸素運動、下肢筋力増強の運動指導をした場合、運動能力や筋力の改善に効果的だったと報告されています。

図1 リハビリテーションの内容例
出典:「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント」をもとに作成

オミクロン株で後遺症は減少か

後遺症の多くは時間の経過で改善しますが、3か月以上続くようなら、かかりつけ医を受診することも考えてください。症状によっては専門医を紹介され、精密検査などを受けることになります。ただ、後遺症の具体的な治療は確立していないのが現状です。

一方、日本の後遺症調査はアルファ株などの流行時の調査で、現在のオミクロン株の流行とは傾向が違う可能性があります。イギリスの研究ではデルタ株流行時には感染者の10.8%に後遺症の症状が出たのに対し、オミクロン株では4.5%に低下したと報告されています。また、海外のいくつかの論文を解析したところ、新型コロナウイルス感染症の重症度が後遺症のリスクであることが示唆されました。後遺症の症状には新型コロナウイルスの感染とは関係なく、一般的に見られる不定愁訴(何となく体調が悪い状態)も含まれるため、症状を訴える方が多めに見積もられている可能性もあるといえます。後遺症は時間の経過とともに改善する傾向にあるので、あまり深刻にとらえなくてもよいのかもしれません。

ぜん息・COPD患者が注意すべきこと

ぜん息患者はかかりにくいが定着

新型コロナウイルスは、気道の細胞表面にあるACE2(アンジオテンシン変換酵素2)受容体を入り口として、人体に侵入します。吸入ステロイド薬(ICS)を服用すると、ACE2受容体が少なくなることがわかっています。2021年までの調査で、「ぜん息患者は新型コロナウイルス感染症にかかりにくい」という結果が得られ、世界的に定着してきました。ただし、非アレルギー性ぜん息は重症化しやすいという報告もあり、ぜん息のタイプによっては注意が必要です。

ぜん息のコントロール不良が増加の傾向

ぜん息で心配されることは最近、コントロール不良な方や、入院する方が増える傾向にあることです。新型コロナウイルス感染症が流行し始めた2020年から21年にかけては、世界的に小児、成人ともぜん息の悪化による入院患者が大きく減りました。これは、ぜん息患者が新型コロナウイルスの感染を防ぐため、マスクの装着や人混みを避けるなどの基本的な感染予防策を徹底したため、これがぜん息を悪化させないことに効果があったと分析されています。また、ぜん息の悪化と新型コロナウイルス感染症への不安から、ICSの吸入など薬をきちんと服用しようという意識が向上したというデータも示されており、ぜん息のコントロールによい影響を与えたとみられています。

一方、22年になると、重症化リスクの高いデルタ株などに代わり、比較的軽症ですむオミクロン株による流行が主になり、飲食や行動の制限が徐々に緩和されていきました。コントロール不良なぜん息の方が増える傾向の背景には、制限の緩和に伴うぜん息患者の活動性の向上がありそうです。比較的軽症ですむオミクロン株といっても、しばらく「ウイズコロナ」の時代が続きそうです。油断することなく、基本的な感染予防策を心がけ、治療をしっかり続けることが大切でしょう。

COPD患者は重症化しやすいが定着

COPDと新型コロナウイルス感染症についても、「COPD患者は新型コロナウイルス感染症にかかると重症化しやすい」という考えが定着してきたようです。高齢で他の疾患を持つ人が多い、肺に炎症があるためウイルスが増殖しやすい、喫煙も悪影響を与えていることなどが、重症化しやすい理由として指摘されています。

しかし、重症化しやすいデルタ株などが流行していた時期に比べると、オミクロン株に切り替わった以降は、COPD患者で重症化する方は減る傾向にあります。新型コロナワクチン接種の進展、治療法や治療薬の開発など対策が進んだことも影響しているでしょう。

受診控えでがん発見に遅れもがん検診を受けましょう!

心配なのは新型コロナウイルス感染症の流行により、受診控えや検診離れが広がったことによる、がんの発見の遅れです。具体的なデータは示されていませんが、がん検診を受けなかったり、X線検査の間隔があいたことで、新型コロナウイルス感染症の流行以前に比べ、がんの発見が遅れるケースが散見されるようです。

新型コロナウイルスの感染を恐れて、がん検診から遠ざかってしまうことはやむをえないかもしれません。しかし、がんの発見の遅れは命にかかわることもあります。がん検診を受ける際には、新型コロナワクチンを接種し、マスクなどの感染予防策を徹底しましょう。新型コロナウイルスの感染リスクを低くして、なるべくがん検診を受けましょう。

COPD患者ご本人が、がん検診に消極的な場合、ご家族が検診を受けるよう促すことも大切です。高齢のご両親と離れて暮らす場合などは、社会的な孤立を避ける点からも、頻繁に電話などで連絡をとりましょう。その際、「がん検診を受けてほしい」とつけ加えてください。

ウイズコロナ

感染予防策と治療継続でコロナ以前の生活を

新型コロナウイルスの感染経路は飛沫感染、接触感染、エアロゾル感染とされています。マスクは飛沫を周囲に飛散させることを防ぎ、他人の飛沫を吸い込まないようにします。手指消毒は手や指に付着したウイルスを消毒します。換気は閉ざされた空間にエアロゾルとしてウイルスが浮遊していても、外に追い出すことに役立ちます。これらの基本的な感染予防策はウイズコロナでも重要で、かぜやインフルエンザなどの感染予防にも有効です。ぜん息やCOPDの方にとって、感染症にかからないよう注意することはとても大切です。そして、何よりも必要な治療を継続しましょう。基本的な感染予防策をしっかり行い、治療を継続することで、少しずつコロナ以前の生活に戻していきましょう。

ウイズコロナをどう過ごす
ぜん息やCOPDの治療はどうすればよいでしょうか

国際的なぜん息治療のガイドラインでは、新型コロナウイルス感染症の流行以前と同じ必要な治療を継続するようにと記されています。経口ステロイドが必要となる重症化を招かないよう基本治療をしっかり続けましょう。生物学的製剤が新型コロナウイルス感染症を重症化させるリスクになるというエビデンスはありません。必要ならば使ってください。COPDの方も必要な治療を続けてください。ぜん息とオーバーラップする方や好酸球性炎症など吸入ステロイドが必要な方は継続してください。

日常生活におけるぜん息、COPD患者の注意点は

かぜやインフルエンザなどの感染症にかからないよう気をつけてください。これまで通りの感染予防策をとり、従来の治療を続けることに尽きます。COPDの方は新型コロナウイルス感染症を恐れて、家に閉じこもらないようにしてほしいですね。

マスクはいつまでつけるの?

マスクの装着は、新型コロナウイルス感染症に限らず、ほかの感染症の予防になります。皆が外していても、ぜん息やCOPDの方は少し慎重になった方がよいでしょう。ただ、屋外では外すことも考えてください。また、暑い季節になると熱中症にも注意が必要です。屋外で散歩したり運動するときには、周囲の状況をみて外してください。

新型コロナワクチンは何回接種すればよいのですか

糖尿病や高齢など重症化リスクの高い人は、なるべく接種した方がよいでしょう。お住まいの自治体の方針を参考にしてください。不安があれば、主治医に相談しましょう。

オンライン診療はどうしていけばよいでしょうか

病状の把握が十分できない恐れがあります。聴診やレントゲン撮影もできません。ぜん息やCOPDの方においては、流行期に症状が落ち着いていればオンライン診療でも構いません。ただし、感染が一段落した状況では、積極的にお勧めするものではありません。

他の感染症のワクチン接種はどうすればいいの?

COPD患者は、インフルエンザ、肺炎球菌ワクチンとも接種した方がよいでしょう。ぜん息患者でのエビデンスはCOPDほど十分ではありませんが、やはりインフルエンザや肺炎球菌ワクチンの接種が望ましいです。

旅行や会食、学校行事にどう対応すればよいでしょうか

残念ですが、しばらくは新型コロナウイルス感染症が収束する気配はありません。マスクをせず無防備な状態で、会食の場で大声を出して盛り上がることなどは控えてほしいです。学校行事は一生に1度のものも多いでしょう。友人や知人との旅行や会食、学校行事の参加は大きな楽しみです。感染するリスクはありますが、高齢者でなければオミクロン株の重症化リスクは低くなりました。新型コロナワクチンを接種し、感染予防策を徹底して対応しましょう。社会的な活動は大切ですし、高齢の方は社会的孤立を避けて、認知機能を維持することも重要です。

COPD患者の日々の運動はどうすればよいでしょうか

呼吸筋に特化したものでなくてもよいので、なるべく身体活動性を上げてください。新型コロナウイルス感染症の流行以前に戻るという考えでよいでしょう。座ってばかりいないで、散歩をしましょう。周囲に人がいない状況であれば、マスクを外して結構です。久しぶりに屋外を歩く場合には、転ばないように十分気をつけてください。

高知大学医学部呼吸器・アレルギー内科学教授
横山 彰仁先生

1983年富山医科薬科大学医学部卒業。愛媛大学医学部第2内科講師、広島大学医学部分子内科准教授などを経て、2007年から現職。14年から4年間、医学部附属病院長を兼ねる。日本呼吸器学会前理事長。

読者へのメッセージ

症状が軽くても感染力の強い変異株が流行すれば、新型コロナウイルス感染症の患者さんが増え、それに伴い後遺症を訴える患者さんも増えると予想されます。後遺症の症状には一般的な不定愁訴と区別のつかないものもあり、新型コロナウイルス感染症と後遺症の増加は医療機関の逼迫を招くかもしれません。ワクチン接種と新型コロナウイルス感染症にかかった後のリハビリテーションは、それぞれ後遺症の発現リスクを減らす可能性が指摘されています。後遺症の対策としても、ぜひワクチン接種をお願いしたいと思います。

帝京大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー学教授
長瀬 洋之先生

1994年東京大学医学部医学科卒業。96年東京大学物療内科を経て、2003年帝京大学医学部内科学講座呼吸器・アレルギー学、16年から現職。日本アレルギー学会気管支喘息ガイドライン専門部会作成委員。

読者へのメッセージ

新型コロナウイルス感染症は、感染力は強くなるが症状は軽症化するなどと変化しています。ウイズコロナでは、この変化をとらえながら対応していくことが重要です。これまで制限してきたことを工夫しながら元に戻していきましょう。医療側はこれまで最新の医療情報を提供することで、患者さんの判断を助けることができました。ただ、コロナが収束に向かう過程では、医学的な最新情報が少なくなるかもしれません。ウイズコロナでは患者さんの自己判断も大切になるのではないでしょうか。