小学2年生で地元の陸上クラブに入り、中学では全国大会で優勝するまでになった鈴木亜由子さん。2021年の東京五輪には女子マラソン日本代表として出場しました。そんな鈴木さんにも、子どものころぜん息に悩み、吸入器が手放せない日々がありました。
その小柄な体からは想像もできない力強い走りで、世界の舞台で活躍している鈴木亜由子さん。現在は、2024年のパリ五輪出場を目指し、厳しい練習を続けています。しかし、陸上競技を始めた小学生のころには、ぜん息でつらい思いをすることがよくあったそうです。
「ぜん息の症状は家族が寝静まった深夜に出ることが多く、みんなを起こしてしまわないかと子ども心にすごく気をつかったのを覚えています。我慢しようとすると余計に咳が出てしまうのです」
お母さんによれば、2歳ごろにぜん息になったという鈴木さん。物心がつくころには頻繁に咳が出てぜん鳴がするようになり、病院に通い薬を飲んでいました。ただその一方では、ぜん息にいいからと水泳教室にも通い、小学2年生のときには両親が忙しかったこともあって「半日預かってもらえたらと、近くの陸上クラブに入りました」と話します。
そのころミニバスケットボールもやっていた鈴木さんは、その相乗効果もあってか「走るたびに速くなるという感覚で、自分でもびっくりするくらいでした。ただ、全国で優勝できる選手になるとは自分でも思っていなかったです。正直なところ練習って苦しいので、あまり好きではなかったです」と振り返ります。
それでも出かけるときにはぜん息に気を配り、「いつも家族が大きな吸入器を風呂敷に包んで持っていてくれました」と言います。
こうして、水泳、バスケットボール、陸上と、スポーツを続けていくなかでだんだん体力がついていったという鈴木さん。「小学校の高学年になるとぜん息の症状も次第に出なくなっていき、特にスポーツをしているときは不思議と症状が出ませんでした」ということです。
中学生になると陸上の記録はさらに伸び、全国大会の800mと1500mで優勝するほどになりました。もともとコツコツやる性格だったという鈴木さんは、スポーツと勉強の両立にも取り組み、「1日の目標、1週間の目標を立て、その先に大きな目標があることを意識して取り組んでいました」と言います。
高校は愛知県でも有数の進学校に進み、そこから名古屋大学に進学。ケガや故障もありましたが、「治せば絶対また走れる」という強い気持ちで乗り越え、実業団でさらに上を目指し、世界陸上や五輪代表の座を勝ち取ってきました。
鈴木さんは言います。「小さいころはぜん息に苦しみましたが、あまりネガティブな感情を持つことなく、それも自分の一部なんだというふうに思ってしっかり対処してきました。そうすることで何かを制限したり恐れたりすることなく、スポーツに打ち込むことができました」と。「だからこそ、今ぜん息に悩んでいる人たちには、決して自分の可能性を狭めることなく、どんどんチャレンジしてほしい」とエールを送ります。
ぜん息はつらいですが、自分のやりたいことに挑戦することで、心も体も強くなっていきます。まわりの方の応援と支えを励みに、自分の可能性を信じて挑戦してほしいと思います。明るい未来に向かって、一緒に頑張りましょう。
鈴木選手の強い気持ちと努力、素晴らしいですね。ぜん息の治療は当時より随分良くなり、深夜に発作で苦しんだり、思うように運動できないことは無くなってきました。運動はぜん息治療の一環としても大切ですから、ぜん息患者の皆さんも諦めずに自分のやりたいことに挑戦して心も身体も強くなっていってほしいですね。
国立病院機構 三重病院 臨床研究部長 長尾 みづほ先生
1991年、愛知県生まれ。中学時代から陸上競技で全国優勝を経験。高校時代は故障に苦しむが大学ではインカレの5000mを連覇するなど実力を発揮し、卒業後は日本郵政グループ女子陸上部に所属。世界陸上やリオデジャネイロ五輪に出場後マラソンに転向し、2018年の北海道マラソンで初マラソン初優勝を飾る。2021年の東京五輪女子マラソンでは19位となり、現在はパリ五輪出場を目指している。
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