ぜん息やCOPDの患者さんにとっても、生活に「適度な」運動を取り入れることは、免疫力の向上、筋力・心肺機能の強化、ストレス軽減といった効果が期待できます。運動療法によって、ゴルフや旅行を再開できた事例もあります。ただ、「運動は息苦しくなるかも」と恐れを抱いている方、毎日運動を続けることをおっくうに感じる方も少なくないでしょう。どうすれば運動を継続できるのでしょうか。適度な運動とはどのようなものでしょうか。長年ぜん息やCOPD患者さんのリハビリテーションに携わってきた福島県立医科大学の髙橋仁美教授にポイントをうかがうとともに、自宅において、道具なしでも気軽にできる運動メニューを紹介します。
ぜん息やCOPDの方が運動をすることで、心肺機能の強化、免疫力向上、ストレス軽減などの効果が見込まれ、ひいては、症状の軽減や呼吸器感染症の予防につながります。とはいえ、息苦しいから運動が遠のく、あるいは、何とか動き始めても息切れが強くなるという方もいるでしょう。こうなると、運動をしなくなり、基礎体力が低下し、症状が重くなるという悪循環に陥ってしまいます。
この悪循環を断ち切り、運動を始めて、継続することが重要です。個人の生活に沿った具体的目標を立てるのがよいでしょう。私の担当したCOPDの患者さんには、「ゴルフのコースが回れなくなった」「在宅酸素療法をしているので、もはや温泉旅行はあきらめています」「家業の養蜂の仕事をできなくなった。もう今後は無理」と嘆いた方もいました。そうした患者さんに「いや、やりたいことがあって頑張ればできるようになるよ」と運動のメニューを提案しました。
運動を継続するためには、適度なメニューにすることもポイントです。息切れがするので座っていることが多い方に対して、いきなり「明日から、1日に1万歩ずつ歩きましょう」と言っても無理です。そういう方は、座りながらできる運動から始めてもよいでしょう。
1日1000歩を日課としている方ならば、10%ずつ負荷を増やして、翌日は1100歩、翌週は1200歩、としていくのも一手です。日常生活にちょっと負荷をかける「ちょいプラス」や、10%プラスを積み重ねていけば十分です。飽きっぽい方は、日ごと、季節ごとに運動のメニューを変えてもいいでしょうし、三日坊主ならば、3日ごとに運動のメニューを変えてもいいぐらいです。継続し、個々の目標を達成する成功体験を得ることが、運動継続へのモチベーションとなるでしょう。
先ほど紹介した養蜂業の方は、当初は1日1000歩もやっとでしたが、運動を続けた結果、1日3000歩まで歩けるようになりました。養蜂場での作業もできるようになり、ハチミツを収穫できるまでに回復しました。もうお二方の事例についても、1人はゴルフコースを回るどころかコンペで優勝しましたし、1人は旅行に行けるまでになり「久しぶりに温泉に入れた」と報告してくれました。
患者さんの中には、ランニングや水泳などの負荷の高い運動を取り入れる方もいます。高強度の運動を否定はしませんし、そうした運動をできる方はどんどんやったほうがいいです。ただ、現実問題として、息切れを恐れて運動をためらう方が、いかに運動を継続するかという課題があります。「絶対にこれでないと改善しません」という運動メニューはなく、歩くだけでもよいのです。ただ、近年の酷暑、あるいは真冬には外を歩くのも難しいでしょう。その場合は、家の中での運動に変えるとよいでしょう。
病院やリハビリテーション施設では「運動の前後にストレッチをしましょう」と推奨されます。ストレッチをやるに越したことはないのですが、自宅ではそこまで徹底する必要はありません。大切なのは日常生活にいかに運動を取り入れて継続するかです。
ぜん息やCOPDは、簡単に言うと「息をうまくはけない」病気です。はくことが難しくなると、肺に空気が残ってしまいます。患者さんは運動中に息苦しくなると、つい無意識に息を止めて(息こらえをして)動作を急いでしまいがちです。「吸って、はいて」の呼吸のペースは乱さないようにしましょう。運動においても、いかにはくことを意識して呼吸をするかが重要です。呼吸と心臓は連動しており、きょうだいのようなものですが、大きな違いがあります。心臓の動きは自分の意志で制御できませんが、呼吸は制御できるのです。
呼吸に合わせて動作をすることもポイントです。体操の号令は通常、「胸をそらしながら吸う」などと、動作に合わせて呼吸をするものです。しかし、ぜん息やCOPDの運動では「はきながら、肩を伸ばす」といった具合に、呼吸を主体とし、呼吸に合わせて動作をするとよいでしょう。
今回は、家の中で、しかも道具なしでできる運動を4種類紹介します。ストレッチや、上肢、下肢の強化などを通して、身体の活動性を上げて、運動不足と症状悪化の悪循環を断ち切ります。テレビを見ながら、ラジオを聞きながらの「ながら運動」も可能です。
片方の肘を反対の肘で抱え、息をはくときに口をすぼめ、首と上部体幹を一方にねじる
呼気を意識しましょう。
脚部の筋肉強化です
椅子に腰かけた姿勢から、息をはくときに口をすぼめ、おしりを少しだけ椅子から浮かして、そのまま6秒間維持することを繰り返す
(5回程度)
そこからスクワットのように立ち上がることを繰り返してもよい
椅子に腰かけた姿勢の時、膝がつま先の真上にくるよう意識してください。息は止めないでください。
太ももやお尻などを鍛えます
バランス感覚の向上にもつながります
両足を揃えて立ち、つま先は外向きに少し広げて膝を軽く曲げる。息をはくときに口をすぼめ、ペンギンのように小刻みに前に進む。足元をしっかりと意識してゆっくりと安定したペースで歩く
後ろ歩きも同様に行う
それぞれ10歩ずつ
呼気を意識してゆっくり行い、バランスが気になる場合は支えがある場所で行いましょう。
腕や手の筋力強化です
両手を側面に伸ばし、伸ばした先に壁があると思って、息をはくときに口をすぼめ、息をしっかりはきながら空中の壁を6秒間押し続ける
今度は正面に壁があると思って、同様に行う
それぞれ5回程度
息は止めないでください。
運動は難しく考えず、自分のペースで始めてみましょう。ハードルを上げ過ぎず、日常生活に少しずつ取り入れることがポイントです。そして何よりも、自分の目標を持って、続けることが大切です。運動の継続によって、体力と自信が育まれます。小さな努力の積み重ねが、大きな変化をもたらすでしょう。
髙橋先生が福島民報で紹介している運動を動画で解説しています。こちらもぜひ参考にしてみてください
市立秋田総合病院で理学療法士として勤務する一方、2011年3月、秋田大学大学院医学系研究科医学専攻博士課程修了。