厚生労働省の
アレルギー疾患対策

厚生労働省健康局がん・疾病対策課
伊藤靖典

なぜ国にアレルギー疾患対策が求められているのでしょうか

わが国では、アレルギー疾患を有する者の増加が見られており、現在は乳幼児から高齢者まで国民の約二人に一人が何らかのアレルギー疾患を有していると言われています。アレルギー疾患には気管支ぜん息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎・結膜炎、花粉症等がありますが、症状の悪化や軽快を繰り返し、時には休園や休学、休職等を余儀なくされ、生活の質を著しく損なうことがあります。また、アナフィラキシーショックなど、命に関わる症状が出現することもあります。
医療の進歩に伴い、科学的知見に基づいた医療の提供によって症状のコントロールができるようになってきていますが、全ての患者がその恩恵を受けているわけではないという現状も指摘されていることから、適切な診療・管理のさらなる普及が望まれています。

アレルギー疾患対策基本法はどんな法律?

「アレルギー疾患対策基本法」(以下、「法」という。)は日本におけるアレルギー疾患医療の状況を改善し、アレルギー疾患対策の一層の充実を図るために平成26年に議員立法として成立、平成27年に施行されました。
この法の基本理念として、1.アレルギー疾患の重症化の予防及び症状を軽減に資するために、アレルギー疾患対策を総合的に実施して生活環境の改善を図ること、2.居住する地域にかかわらず等しく科学的知見に基づいた適切なアレルギー疾患医療を受けることができるようにすること、3.アレルギー疾患に関して適切な情報を入手することができるとともに生活の質の維持向上のための支援を受けることができる体制の整備がなされること、4.研究を推進して、アレルギー疾患の重症化の予防や診断、治療等に活用、発展させることが掲げられています。 また、今後は平成29年3月に策定された法第11条第1項に基づく「アレルギー疾患対策基本指針」に則り、アレルギー疾患対策を推進していくこととしております。

アレルギー疾患の啓発及び知識の普及について

インターネット等にはアレルギー疾患の原因やその予防法、症状の軽減に関する膨大な情報があふれています。中には、適切ではない情報も含まれていることがあり、誤った選択によって科学的知見に基づく治療から逸脱し、症状が悪化する方もおられます。このような現状を踏まえて、アレルギー疾患に関する正しい情報を提供するため、国の補助事業として日本アレルギー学会が「アレルギーポータル」を平成30年10月に開設しました。アレルギーポータルでは患者やその家族向けの情報としてアレルギー疾患の症状や治療等に関する情報を掲載しているほか、災害時の対応に関する情報、全国の拠点病院に関する情報、関係省庁・学会等が発行している冊子等のコンテンツを収載しています。アレルギー疾患に関する正しい情報の収集についてご活用していただければ幸いです。

医療を提供する体制の確保について

どの地域でも等しく適切なアレルギー疾患医療の提供を受けることができるように、アレルギー疾患医療全体の質の向上を進めることが必要です。アレルギー疾患医療は、内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼科、小児科等と多岐にわたること、専門的な医師が偏在していることなどから、アレルギー疾患医療の提供体制に地域間格差が見られることが指摘されています。そのため、アレルギー疾患医療の提供体制の在り方に関して検討を行い、各都道府県にアレルギー疾患医療拠点病院を設置することとされました。都道府県拠点病院では、重症及び難治性アレルギー疾患患者に対しての診断や治療・管理、患者や家族、地域住民に対してアレルギー疾患に関する適切な情報の提供、アレルギー疾患医療に携わる医療従事者の知識や技能の向上に資する研修・人材育成、地域の実情を把握するための調査・分析、国の推進する疫学調査、臨床研究への協力等の役割があります。令和2年12月現在、36都府県64病院が設置されており、引き続き全都道府県設置に向けて進めているところです。

調査及び研究について

アレルギー疾患は、風邪のように治ることは少なく、症状を緩和する治療が主体となっています。アレルギー疾患を根本的に治療する根治療法としては、アレルゲン免疫療法等がありますが、開発及び普及が十分ではありません。また、薬剤を長期間使用することも多く、効果並びに副作用等について明らかになっていないことが多くあります。そのため、疫学や基礎的な研究、治療開発・臨床研究の推進が必要です。
そこで、厚生労働省では平成31年1月に「免疫アレルギー疾患研究10か年戦略」を策定しました。大きく3つの戦略を示しており、1.アレルギー疾患の根源的な病態の解明を目指すために、基盤となる基礎研究や疫学研究、臨床研究を推進する。2.国内外の産学官民(産業界・学校・官公庁・民間)の力を結集して国際的な研究開発を進められる仕組み作りを行い、研究成果の社会への効果的な還元を目指すこと。3.アレルギー疾患は年齢によって症状や疾患等が違うという特徴(アレルギーマーチ)があり、そのようなライフステージ等の疾患の特性に応じた医療の最適化や、各疾患の特性に基づく予防法や治療法を、広く社会に普及させることを目指しています。厚生労働科学研究ではアレルギー疾患に関する疫学調査や治療指針・診療ガイドライン等の作成を行い、また国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)においてはアレルギー疾患の新規治療薬や病態解明研究、臨床研究などの推進を図っています。

大規模災害時におけるアレルギー疾患を有する方への対策について

近年、地震や台風・長雨による大規模災害が多く発生し、避難生活などを余儀なくされることも増えてきており、アレルギー疾患を有する方は食事や住居などに配慮が必要な場合もあります。厚生労働省では、都道府県を通じて避難所でアナフィラキシーが発生した場合の迅速な対応について注意喚起を行っています。また、ウェブサイト「アレルギーポータル」においても災害時に役立つパンフレット、アレルギー疾患医療拠点病院の情報、災害時のアレルギー疾患への対応法など多様な情報が発信されています。更に、令和2年より大規模災害発生時におけるアレルギー疾患患者の問題を把握し、その解決を目指すための厚生労働科学研究がスタートしました。アレルギー専門医や災害派遣医療チーム、患者、看護師、薬剤師、栄養士、保健所などが関わって取り組んでおり、災害時に役立つツールや連携システムの構築等を目標に掲げ、災害現場でのアレルギー疾患に関するスムーズな情報収集、発信が可能になる環境の整備を目指しています。

患者やそのご家族、医療関係者へのメッセージ

厚生労働省では、法の基本理念に基づき、今後もアレルギー疾患対策を総合的に推進して参りますので、どうぞご理解とご協力のほどよろしくお願いいたします。