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11月17日は「世界COPDデー」
この機会にCOPDを「自分ごと」化しよう!③
~生まれる前から予防はできる? 胎児・乳幼児期にもCOPDのリスクが存在~

皆さんは「COPDは大人になってから気をつけるもの」と思っていませんか?

実は、胎児期や幼少期の環境が、将来的にCOPDを引き起こす可能性があることがわかっています。最終回となる今回は「胎児や乳幼児期のCOPDリスク」について、亀田京橋クリニック副院長の金子教宏先生に伺いました。

ポイント!

COPD撲滅のためには、たばこの煙を出さない、吸わせない!

金子教宏 先生 亀田京橋クリニック 副院長
亀田総合病院 呼吸器内科顧問 兼務
金子教宏 先生

胎児期や乳幼児期の受動喫煙で、将来COPDになることも!

前回、喫煙経験のある方で咳、痰が気になるようなら、階段の上り下りなどで息苦しさを感じる前に、肺機能検査を受診すべきだとお伝えしました。また、本人はたばこを吸ったことがないのに、受動喫煙からCOPDを発症するリスクがあることもお話ししました。実は、お母さんが喫煙者の場合は、妊娠時の胎児にも悪影響が出ることが分かっています。

肺の構造は、在胎26週頃に完成し、33〜36週頃には肺機能が成熟すると言われています。まだまだ肺が未成熟な胎児の期間に、お母さん自身がたばこを吸っていたり,お母さんに喫煙習慣はないものの、同居家族に喫煙者がいて受動喫煙してしまうと、生まれてくるお子さんの肺機能に問題が生じる場合があるのです。胎児だけでなく、乳幼児も同様で、室内にたばこの煙が漂う環境で育つと、将来的にCOPDのリスクが高まることがわかっています。たばこの煙にさらされた胎児や乳幼児は、成人したときの肺機能が、そうでなかった人に比べて低下している傾向があり、低下した肺機能が、加齢により衰えるとより一層COPDになりやすいのです。

喫煙者のなかには「家の中では吸わないし、外に出て吸っているから大丈夫」という人もおられるでしょう。しかし、たばこの煙は思った以上に長く肺の中にたまっており、それが呼吸のたびに排出されています。同居家族は、そのような目には見えないたばこの煙を受動喫煙することになるのです。妊婦さん本人はもちろん、同居家族全員が禁煙すること。それがお子さんのCOPD予防につながります。中耳炎、小児喘息、乳幼児突然死症候群などが家庭内の喫煙と関連している事が分かっています。

部屋やクルマに染みついたたばこの成分もCOPDのリスク

同居家族の誰一人として喫煙習慣がないのに、たばこの煙を持ち込んでしまう危険もあります。たとえば、長期間喫煙が繰り返されたホテルの部屋やクルマの中、カラオケルームなどで、壁や床、カーテンなどにたばこの成分がしみついていて、これを吸い込んだり、衣類や髪に付着することで、家に持ち帰ってしまうのです。このような残留したたばこの化学物質を吸うことを「三次喫煙」と呼び、近年大変問題視されています。ちなみに喫煙者本人がたばこの煙を吸い込むことは「一次喫煙」、喫煙者が吐き出した煙やたばこの副流煙を喫煙者以外が吸い込むことを「二次喫煙(受動喫煙)」といいます。

三次喫煙のように、たばこの害は長期間にわたって、まったくたばこを吸わない人にも影響を与えてしまいます。やはり、社会全体が禁煙を励行するようになること、それがCOPDやその併発症を含めたさまざまな病気を防ぐことにつながります。

世界COPDデーを機に肺機能検査を一度受けてみましょう!!

これまでお話ししたことを最後にまとめてみましょう。

COPDの原因の90%は喫煙です。喫煙は吸っている本人だけでなく、身近にいる人たちに危険を与えます。さらにはたばこと全く縁のない見知らぬ誰かを、三次喫煙という名のCOPDリスクにさらすことになります。そしてCOPDは、肺機能を悪化させ呼吸困難や生活の質(QOL)低下を招くだけでなく、肺以外の疾患につながることもあるのです。

11月17日の世界COPDデーは、COPDという病気の認知度を高め、早期発見、治療を促す貴重な機会として設定されています。みなさんもこれを機会に、禁煙や肺機能検査の受診をしてみてはいかがでしょうか。喫煙はCOPDだけでなく、さまざまな病気の原因となることを、この連載で繰り返し申し上げました。人生100年時代と言われる今だからこそ、健やかに長生きし、笑顔に満ちた毎日を送っていただきたいと願います。

金子教宏(かねこ・のりひろ)先生

1988年昭和大学医学部卒業。昭和大学藤が丘病院勤務を経て、97年亀田総合病院呼吸器内科部長代理に就任。98年同呼吸器内科部長。2013年7月亀田京橋クリニック副院長、18年からは同クリニック呼吸器内科顧問も兼務する。日本呼吸器学会専門医・指導医、日本禁煙学会専門医・指導医、産業医などの認定資格を持つ。