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「肥満」による「ぜん息の発症・悪化」の危険性を、
しっかり理解しておきましょう(全2回)①
~肥満、特に見た目では気づきにくい内臓脂肪はぜん息と深い関係があります~

ぜん息の方にとって、肥満や急激な体重増加が病状悪化の要因となることが分かっています。特に、見た目はスリムなようでもお腹の中に脂肪が蓄積された【内臓脂肪型肥満】の方は、ぜん息の発症・悪化の危険がより高まります。コロナ禍で運動量が減っている今だからこそ、あらためて肥満とぜん息の関係を理解して、セルフコントロールの一助にしませんか。

ポイント!

ぜん息に悪い影響を及ぼす内臓脂肪。急な体重増加には要注意。

谷口正実 先生 湘南鎌倉総合病院
免疫・アレルギーセンター長兼
臨床研究センター客員研究部長
谷口正実 先生

BMI?内臓脂肪?まずは自分の肥満度を知ろう!

成人の場合、その判定には国際的な標準指標である「BMI(Body Mass Index=体格指数)が用いられています。体重(kg)を身長(m)の二乗で割った数値のことで、18.5以上25未満が普通体重、25以上が肥満とされます(表)。

例えば、体重70kg・身長160cmの人のBMIは、70÷1.62≒27.3となり、肥満(1度)となります。見た目はスリムでBMIは普通体重であっても、お腹の中に脂肪が蓄積している「内蔵脂肪型肥満」の人は、皮下に脂肪がたまる「皮下脂肪型肥満」の人に比べて、生活習慣病を発症する確率が高くなります。この内臓脂肪の量を正確に測定するには、CTやMRIといった画像診断が必要ですが、おへその高さの「腹囲」を測ることで、簡易的にですが内臓脂肪の量を知ることができます。

目安として腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上であるなら、内臓脂肪型肥満が疑われます。気になる方は、測ってみましょう。

日本人は軽度肥満でもぜん息のリスクあり!? さらに急激な体重増加に要注意。

肥満に関連する全身の病気には、2型糖尿病や、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、心筋梗塞、脳梗塞などがありますが、多くの研究から、ぜん息の発症と難治化、重症化についても関連性が示されています。特に欧米ではBMI30以上の肥満の方が多く、そのため肥満とぜん息の関係についての研究も数多くあり、欧米では肥満によるぜん息の発症や増悪は、大変大きな問題です。

一方日本では、BMI30以上の肥満者の割合は約3%と欧米の10分の1程度です。しかし研究によると、日本人の場合はBMI30未満の【軽度肥満】であってもぜん息を発症、悪化しやすいことが明らかとなりました。さらに常に肥満気味の人より、急に体重が増えた人の方が、内臓脂肪が増加しやすくぜん息の悪化をより招きやすいことも分かっています。

内臓脂肪による気道の圧迫や、マスト細胞から放出される物質がぜん息に悪影響!?

では、内臓脂肪がぜん息の発症・悪化とどう関係するのか。内臓脂肪によるぜん息への影響は分かっていないこともありますが、主に、①体重が増えるとお腹も膨らんで横隔膜が押し上げられ、肺が圧迫されること②脂肪組織そのものやその周辺の炎症細胞が炎症性サイトカインなどぜん息を悪化させる物質を産生することが考えられています。特に気管支周囲の内臓脂肪が炎症を悪化させると現在では考えられています。これは心筋梗塞や狭心症が、心臓周囲の脂肪の影響を受けることと似ています。

欧米では、肥満治療(食事制限や胃縮小術など)をして体重を10%程度減らしたところ、肺機能や気道の炎症が改善されることが数多く報告されています。このように、肥満はぜん息の発症・悪化と密接にかかわっています。メタボ疾患や認知症を防ぐ意味でも、肥満にならないことや内臓脂肪を溜めないよう心がけることが大切です。

次回は、肥満とぜん息との関連性についてもう少し詳しくご紹介し、肥満予防・解消の手立てを解説します。

谷口正実(たにぐち・まさみ)先生

1981年、浜松医科大学卒業。88年、藤枝市立総合病院呼吸器内科医長。94年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)呼吸器アレルギー内科講師。97年、米国バンダービルト大学肺研究センター研究員。99年より、国立相模原病院に赴任。アレルギー科医長・気管支喘息研究室長、同内科系統合診療部長、同臨床研究センター長等を経て2020年より現職。