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正しい治し方で生活の質を高めましょう
~「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021」~①(全3回)
~ご存じですか?「ガイドライン」は現時点での「最善の治療」を示したもの~

日本のアトピー性皮膚炎の最新知見を反映した「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」が、2021年12月に約3年ぶりに改訂されました。そもそも診療ガイドラインって何?新しく推奨されるようになったお薬とは?患者さん・ご家族が知っておくべき改訂のポイントとは?ガイドライン作成に携わった、国立成育医療研究センターのアレルギーセンター長である大矢幸弘先生に教えていただき、3回に分けてご紹介します。第1回は、アトピー性皮膚炎の有症率や、診療ガイドラインの基礎知識などをお伝えします。

ポイント!

診療ガイドラインは、科学的根拠に基づき、現時点での「最善の治療」を示した文書です。

大矢 幸弘 先生 国立成育医療研究センター
アレルギーセンター長兼
総合アレルギー科診療部長
大矢 幸弘 先生

軽症でもしっかり治療を受けましょう!

アトピー性皮膚炎の日本国内の有症率(ある集団の中でその症状が出た人の割合)は、診断の仕方によって幅がありますが、乳児で2~3割程度と考えられ、そのおよそ6割強が、学童期になると自然に治るとされています。全体的に年齢とともに有症率は減少する傾向にありますが、1970年代頃に生まれた40~50歳代くらいの方は、今もこの病気に悩まされている方が少なくありません。厚生労働省の統計によると、アトピー性皮膚炎患者さんの総数は、約51万人(2017年)となっていますが、これはあくまで治療のために通院している患者さんの人数です。患者さん全体の約8割を占める軽症の方は、その多くが医療機関で治療を受けていないと考えられるので、統計上のこの数字よりもっと多くの人がこの病気を有していることになります。

アトピー性皮膚炎は、正しく治療をすれば、かなりの重症であっても治すことのできる病気です。軽症であれば、根治は比較的容易であると考えられますが、たとえ軽症であったとしても、きちんと治療を行って「かゆみ・湿疹ゼロ」を目指すことが大切です。

進歩し続けるアトピー性皮膚炎治療の最前線を知りましょう!

2021年末に「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021」が発行されました。これは、2018年に出された同ガイドラインを3年ぶりに改訂した最新版です。

「診療ガイドライン」とは、さまざまな研究成果や数多くの診療経験などの科学的根拠に基づいて、現時点での「標準治療」を示した文書です。ここでいう「標準」とは、「一般的な」とか「普通の」といった意味ではありません。「標準治療」とは、その時点における「最善の治療」のことを指しています。ガイドラインは、もともと医療者向けに作成されたものですが、患者さんやご家族の意見も採り入れて作成されています。

アトピー性皮膚炎の治療は、日進月歩で進化し続けており、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏、スキンケア用の保湿薬に加えて、治療効果の高い新しいお薬も続々と登場しています。このガイドラインは、そうした最新の治療を網羅したものです。

それらの情報を、より多くの方々に知っていただくため、ガイドラインの全文をWEB上で無料公開しています。医療者向けに書かれているため専門用語が多くて、難解かもしれませんが、ご興味のある方はご一読ください。

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021【PDF】

改訂版のポイントは、「新しいお薬」と「患者さんと医療者の信頼関係」です

ガイドラインの改訂のポイントは、ずばり、続々と登場してきた「新しいお薬」についてです。2018年には、およそ10年ぶりの新薬として、注射薬の「デュピルマブ」が販売開始され、その後、2020年1月に塗り薬の「デルゴシチニブ」、同年12月に飲み薬の「バリシチニブ」が、アトピー性皮膚炎治療の適応(効能・効果があること)となりました。

「バリシチニブ」は、2017年にもとは関節リウマチの治療薬として承認されたもので、2021年4月には新型コロナウイルス感染症による肺炎治療薬としても認められています。お薬の他に、今回のガイドラインでこれまで以上に強調されたのが、患者さん・ご家族と医療者とが互いに信頼関係を築きながら、治療の目標(ゴール)を共有して生活の質の向上を目指そう、という点です。繰り返しになりますが、アトピー性皮膚炎は、治すことのできる病気です。ただし、自然に治るのを待つのではなく、また、途中で通院をやめるのでもなく、現時点での最善の治療を、根気よく地道に続けることが重要です。そのためには、患者さん・ご家族と医療者が信頼関係を築くことが大切です。

今回ご紹介した「新しいお薬」と「患者さんと医療者の信頼関係」については、それぞれ次回と次々回で詳しくご説明します。

大矢 幸弘先生

1985年名古屋大学医学部卒業。同大学小児科、国立名古屋病院小児科、国立成育医療センター(現在の国立成育医療研究センター)アレルギー科医長などを経て、現在、同アレルギーセンター センター長兼総合アレルギー科診療部長。この間、1994年ハーバード大学心身医学研究所、97年から2002年ロンドン大学聖ジョージ医学校公衆衛生科学部研究員を併任。医学博士。