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知っておきましょう、「職業性ぜん息」のこと
⑥あらゆる職場で起こりうる「職業性ぜん息」~職場の人々の理解がぜひとも必要です~

「職業性ぜん息」は、職場で発生するさまざまな原因物質によって発症するぜん息です。あらゆる職場で起こりうる職業性ぜん息について、「職業性アレルギー疾患ガイドライン 2016」の編集に携わった群馬大学名誉教授で、上武呼吸科器科内科病院病院長の土橋邦生先生にいろいろ伺いました。最終回となる今回は、これまでのまとめと、職業性ぜん息の患者さん・ご家族、職場の皆さんへのアドバイスを中心にお話しいただきます。

ポイント!

職業性ぜん息の管理に必要なのは、医師や職場とのコミュニケーションです

土橋 邦生 先生 上武呼吸器科内科病院病院長
群馬大学名誉教授
土橋 邦生 先生

仕事日に症状が悪化し、休日には軽快するのが職業性ぜん息の特徴

読者の皆さんには、第一に「職場で扱うさまざまな物質がアレルゲンとなるぜん息がある」ということ、「職業性ぜん息」という存在を、知っていただきたいと思います。

アレルゲン(原因物質)は、本当にさまざまで、現在診療ガイドラインに網羅されているものだけで約250種、植物性、動物由来、花粉や胞子、菌糸類、薬剤や化学物質など多岐にわたります。最近では化学物質など低分子量物質による職業性ぜん息の頻度が高くなっていて、今後さらに原因物質の種類は増えていくものと考えられます。

職業性ぜん息は、他のアレルギー疾患と同様、早期発見・治療が有効なので、咳や痰、ぜん鳴(呼吸をするときに、ヒューヒュー、ゼーゼーなどの音がすること)が続く場合は、医療機関を受診し、ぜん息であるかどうかを確かめてください。

職業性ぜん息の特徴は、原因物質が職場に存在しているため、仕事日には症状が強く出て、休日になると弱くなることです。その職業について比較的短期間で発症する場合と、数年経って発症する場合もあるので、長年その仕事に従事している方も職業性ぜん息になる可能性があります。とくに小麦粉ぜん息は、職に就いてから10年以上経って発症することも少なくありません。

医師や職場と相談しながら最適の対策を講じましょう

職業性ぜん息と診断されたら、ぜん息の診療ガイドラインに沿った薬物治療をきちんと行う必要があります。

ただし、薬物治療で症状がよくなっても、職場での原因物質の吸入が長く続くと、アレルギー性の炎症は残り続けます。少しずつ肺の機能が落ちる可能性があり、それに伴いぜん息の薬も効きにくくなってしまいます。このため、原因物質の完全回避が最も重要ですが、転職、あるいは失業を余儀なくされることもあり、そう簡単に決断することは難しいでしょう。職を続ける場合は、配置転換や作業環境の改善、防護具の着用など、できる限り原因物質の吸入を避ける工夫が必要です。人によって職場環境は千差万別なので、その人に適した対策を講じることができるよう、どんな場合も主治医・専門医にしっかり相談しましょう。職場の管理者や上司、同僚の皆さんにも、本コラムで職業性ぜん息のことを知ってもらい、患者さんが働き続けることのできる職場環境の整備にご協力をお願いしたいです。

職業性ぜん息の予防と治療の流れ(下図)を、ぜひ参考にしてください。

職場にアレルゲンが存在する限り、職業性ぜん息を撲滅することは困難です。しかし、患者さん・ご家族、職場の方々、そして医師が力を合わせることで、より健やかな社会と暮らしに近づけることはできるでしょう。

■図 職業性ぜん息の予防と治療の流れ

図 職業性ぜん息の予防と治療の流れ

(土橋邦生 先生作成)

土橋 邦生(どばし・くにお)先生

1978年群馬大学医学部卒業。博士(医学)。2005年同大学院保健学研究科教授を経て、2018年より上武呼吸器科内科病院病院長。群馬大学名誉教授。日本職業・環境アレルギー学会理事長を務める。「職業性アレルギー疾患診療ガイドライン」の編集・発行(2013年)および改訂(2016年)に取り組む。日本呼吸器学会指導医、日本アレルギー学会指導医など。第66回日本アレルギー学会学術大会大会長。第41回日本職業・環境アレルギー学会学術大会大会長。