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睡眠時無呼吸症候群とは?ぜん息・COPDと深い関わりがあります
①「睡眠時無呼吸症候群」の基礎知識〜ぜん息・COPD患者さんとそのご家族は知っておきましょう!

「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)」は、寝ているときに気道が狭くなることなどが原因で、呼吸が一時的に止まってしまう病気です。全身性疾患のリスクとなり、ぜん息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)との強い関連性も指摘されています。本コラムでは、4回に分けて、睡眠時無呼吸症候群の基礎知識から、ぜん息・COPDとの相関関係、早期発見や予防の手立てについて、この分野に詳しい高槻赤十字病院呼吸器内科部長の北英夫先生にお話しいただきます。第1回目は睡眠時無呼吸症候群の基礎知識です。

ポイント!

SASはさまざまな病気のリスクです

北 英夫 先生 高槻赤十字病院呼吸器内科部長
京都大学医学部臨床教授
北 英夫 先生

睡眠時の大きないびきや日中の激しい眠気があるならSASを疑うべき

「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」とは、その名の通り、眠っているときに何度も無呼吸となる病気です。無呼吸というのは、10秒以上呼吸が停止することで、重症のSAS患者さんの中には、1時間に50~60回も無呼吸を繰り返す場合があります。その多くは、舌の付け根部分が喉を塞いだり、太っていて気道が圧迫されるなどの理由で、空気の通り道が狭くなる閉塞性の無呼吸です。他に呼吸中枢に原因がある中枢性無呼吸などもありますが、本コラムでは最も一般的な閉塞性の睡眠時無呼吸症候群に絞ってご説明します。

SASの顕著な症状が、いびきです。閉塞性の無呼吸を繰り返す人は、就寝中、必ずすごいいびきをかきます。「グーグー」という規則的ないびきではなく、呼吸が止まっている間、いったん静かになったかと思うと、10秒以上経ってから、再び「ガア」と大きないびきをかきはじめるのが特徴です。息が詰まって、夜中に何度も目が覚める方もおられます。眠りがとても浅いので、日中耐えられないくらいの激しい眠気に襲われ、学業や仕事に支障が出ることもあります。SASの人が運転中に眠り込んで、交通障害や事故につながり、社会的な問題として取り上げられることもあります。

無呼吸によって血液中の酸素レベルが低下すると、心臓や血管に強い負荷がかかります。このため高血圧や脳卒中、心筋梗塞といった重大な全身性の病気の引き金になることがあり、呼吸器疾患であるぜん息やCOPDにも悪い影響を与えることが分かっています。

無呼吸の兆候に早めに気づいて医療機関を受診しましょう

患者さん本人は眠っているので、その間の不規則ないびきに気づくことはあまりありません。ご家族やパートナーが「いびきがうるさい」「息が止まっている」「一度お医者さんに診てもらっては」と勧めてみるとよいでしょう。一人暮らしの方は、日中の激しい眠気が続くようなら、要注意です。この時期、「暑さのせいでよく眠れないのだろう」などとたかをくくらず、SASの可能性も考えてみましょう。次回以降で詳しく説明しますが、ぜん息やCOPD患者さんは、SASを合併することで、症状の悪化につながります。睡眠時間やいびきの有無、睡眠状態などをチェックできる携帯電話などの「睡眠アプリ」を利用するのも手立ての一つです。病気の兆候に早めに気づいて、医療機関を受診することが大切です。

では、病院やクリニックではどのように診断、治療が行われるのでしょうか。

医療機関では、多くの場合、まず簡易睡眠モニターと呼ばれる空気の流れを検知するセンサーが患者さんに渡され、自宅で睡眠時の呼吸に異常がないか簡易的に検査します。この検査によって病気の疑いが濃厚であることが分かると、続いて終夜睡眠ポリグラフ検査と呼ばれる精密検査に進みます。原則、一日の入院が必要ですが、これはSASの重症度を検証し、治療方針を決定するための大事な検査です。

中等症から重症患者さんへの代表的な治療としては、経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP=シーパップ)があげられます。睡眠中、鼻につけたマスクから、持続的に空気を送り続けて、気道を広げる治療です。寝ている間、ずっとマスクを付けるのは少々面倒に思われるかもしれませんが、これにより症状の多くが緩和され、私の患者さんの中には「よく眠れるようになった」「CPAPなしでは眠れない」と仰る人もいらっしゃいます。軽症患者さんには、就寝時に舌が下がって喉を塞がないようにする、無呼吸用マウスピースを使っていただくこともあります。

ぜん息・COPD患者さんは、SASであると診断されたら、積極的に治療を受けてください。CPAPやマウスピースで治療することが、ぜん息・COPDの悪化防止につながることを、ぜひご理解いただきたいと思います。

次回は、ぜん息と無呼吸症候群の関連についてご紹介いたします。

北 英夫(きた・ひでお)先生

1987年京都大学医学部卒業。博士(医学)。専門分野は、呼吸器内科全般、睡眠時無呼吸症候群、ぜん息、COPD。日本呼吸器学会専門医・指導医・代議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医など。現在、高槻赤十字病院呼吸器内科部長。京都大学医学部臨床教授も務めている。