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睡眠時無呼吸症候群とは?ぜん息・COPDと深い関わりがあります
②ぜん息と睡眠時無呼吸症候群〜夜間の低酸素状態がぜん息の炎症悪化を招きます

「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)」は、寝ているときに気道が狭くなることなどが原因で、無呼吸を繰り返す病気です。呼吸器や全身性の疾患に悪い影響を与え、ぜん息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)との強い関連性も指摘されています。連載2回目の今回は、ぜん息とSASとの密接な関わりについて、SASとぜん息・COPDに詳しい高槻赤十字病院呼吸器内科部長の北英夫先生に、引き続きご説明いただきます。

ポイント!

ぜん息とSASは相互に悪影響を及ぼし合っています!

北 英夫 先生 高槻赤十字病院呼吸器内科部長
京都大学医学部臨床教授
北 英夫 先生

SASによる低酸素状態はぜん息の炎症を悪化させます

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、ぜん息の症状を悪化させる危険因子の一つです。なぜ悪化させるのか、その理由も明らかになってきました。

ぜん息では、気管支がけいれんして細くなり(れん縮)、発作的な呼吸困難を起こします。一方、SASでは、睡眠中に舌の付け根などによって喉が閉塞しているのに、体は無意識に一所懸命肺を膨らませて呼吸しようとします。体は呼吸をしたいのに、喉が詰まっていてできない。そんな状態が繰り返されると、気道全体に強い圧力がかかって、気管支のれん縮を誘発するのです。

SASがもたらす低酸素状態も、ぜん息症状悪化の要因です。現在ではさまざまな研究によって、低酸素状態が、気道あるいは全身の炎症を引き起こすことが判明しています。つまり、夜間に呼吸がうまくできずに低酸素状態を繰り返すと、ぜん息による炎症も増幅される。自ずと症状が悪化してしまう、というわけです。

最近、SASがぜん息症状の悪化に関与するだけでなく、逆にぜん息がSASの発症に関わっていることも知られてきました。事実、ぜん息患者さんがSASを発症するリスクは、そうでない人に比べて2-3倍高いという報告があります。その理由として、ぜん息に伴う炎症が、喉の筋肉の働きを弱めてしまう、あるいは呼吸や呼吸のリズムを司る呼吸調節機構を乱して、無呼吸症候群を招いてしまう、あるいは薬の影響などがあるのではないかと考えられます。

肥満、鼻炎、逆流性食道炎は、いずれもぜん息を悪化させる危険因子ですが、これらは同時にSASの発症リスクでもあります。このように、ぜん息とSASはとても密接な関係にあり、互いに悪い影響を及ぼし合っているのです。とくに重症のぜん息患者さんは、SASによって状態がより悪化しやすいので、注意が必要です。

小児ぜん息患者さんのご家族はとくに睡眠時の様子に注意しましょう

小児ぜん息の患者さんがSASを発症すると、それによってもたらされる低酸素状態が発育・成長に影響を与えます。小児のSASでは、鼻の奥にあるリンバ組織のアデノイドや扁桃腺の肥大が呼吸を阻害することが多いので、その場合、外科手術で切除することもあります。ただ近年では肥満を主因とする、成人と同じ傾向の小児SASも増えています。お子さんの健全な発育・成長のためにも、保護者、家族が就寝中の様子をよくチェックして、早期に診断を受けていただきたいと思います。

SASとぜん息は関連し合っています

肥満のぜん息患者さんがSASを発症すると、ぜん息症状の悪化に加え、生活習慣病、とくに脳卒中や心筋梗塞といった重い病気の合併が問題となります。成人ぜん息では、前回お話ししたように、CPAPやマウスピースによる対症的な治療が一般的です。肥満の解消に取り組みながら、ぜん息の治療とSASの治療を並行して行うことが大切です。

ぜん息患者さんやそのご家族の中には、SASを、ぜん息とはあまり関係のない別の病気と捉えることがあります。これまで説明したように、SASはぜん息の症状を悪化させ、ぜん息は睡眠時無呼吸症候群の発症を促す要因でもあります。二つは関連し合っているのです。無呼吸によるれん縮の誘発や低酸素による炎症悪化に加え、たとえば夜間激しいいびきがあれば、それだけぜん息発作が生じる危険も高まります。決して別の病気と考えずに、積極的にSASの治療を受けましょう。

次回は、SASとCOPDとの関わりについてご紹介いたします。

北 英夫(きた・ひでお)先生

1987年京都大学医学部卒業。博士(医学)。専門分野は、呼吸器内科全般、睡眠時無呼吸症候群、ぜん息、COPD。日本呼吸器学会専門医・指導医・代議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医など。現在、高槻赤十字病院呼吸器内科部長。京都大学医学部臨床教授も務めている。