本文へ移動

睡眠時無呼吸症候群とは?ぜん息・COPDと深い関わりがあります
③COPDと睡眠時無呼吸症候群〜肥満型のCOPD患者さんは要注意!

「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)」は、寝ているときに、呼吸が一時的に何度も止まってしまう病気です。呼吸器や全身性の疾患に悪影響を与え、ぜん息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)との強い関連性も指摘されています。SASの概要やぜん息・COPDとの合併がもたらすリスクなどについて4回に分けてご紹介する本コラム。連載3回目の今回は、COPDとSASとの関係について、呼吸器内科専門医の北英夫先生にご説明いただきます。

ポイント!

オーバーラップ症候群は危険な状態です!

北 英夫 先生 高槻赤十字病院呼吸器内科部長
京都大学医学部臨床教授
北 英夫 先生

COPDにSASが合併すると入院のリスクも高くなります

COPDの患者さんは、健康な人と比べて肺の機能が衰えていて、常に酸素不足や息切れが続いています。COPDにSASが合併する「オーバーラップ症候群」と呼ばれる状態になると、ただでさえ足りない酸素がさらに少なくなり、弱っている肺や心臓に大きな負担をかけてしまいます。肺を流れる血管に圧がかかることで、肺高血圧症と呼ばれる状態に陥る可能性も高くなります。

肺高血圧症は、心臓から肺に血液を送る肺動脈の血圧が高くなることです。COPDに合併すると心臓機能が低下し、さらに病状が悪化、やがて肺性心といわれる心不全、呼吸不全状態へと進行していきます。とくに肥満を伴うCOPDはSASを合併しやすく、心不全の一因となる低酸素血症や意識レベルの低下を招く高二酸化炭素血症を発症するリスクも大きくなってしまいます。

オーバーラップ症候群になると、入院をするケースが多くなり、COPDのみを発症している場合と比べて、死亡率が高くなることも知られています。このためCOPD患者さんは、とくにSASを早期発見・早期診断・早期治療をすることが大切です。

肥満を伴うCOPDはSASを合併する危険増!やせている人も合併することがあります

COPD患者さんの中でも肥満の方はSASを合併する危険が高いと言えるでしょう。欧米では肥満のCOPD患者さんが多く、オーバーラップ症候群が問題になっています。日本人の場合、COPD患者さんの多くはやせ型ですが、もちろん肥満のCOPD患者さんもおられます。肥満はSASの危険度が高いだけでなく、高血圧や脂質異常症、さまざまな生活習慣病の温床です。生活習慣の改善により、肥満の解消を心がけてください。

また、やせ型のCOPD患者さんもSASを合併することがあります。COPDもSASも共に心血管系の合併症を呈する頻度が高い疾患です。やせているからと油断しないで、いびきや日中の過度な眠気がある場合、SASを疑って医療機関を受診してはいかがでしょうか。

オーバーラップ症候群の患者さんにはCPAP治療が効果的

COPD患者さんの多くは昼間、階段の上り下りなど体を動かすことで息苦しさを覚えます。加えて、気をつけなければならないのは、夜間、とくに午前3時から5時くらいまでの明け方です。これは身体が眠りにつくレム睡眠になることの多い時間帯です。COPD患者さんにおいては横隔膜の働きが弱くなっている分、呼吸補助筋といわれる骨格筋(頸部や肋間筋)で補っています。頸部の筋肉が発達している方が多いのはそのためです。ところがレム睡眠時は骨格筋全体が弛緩するため、その呼吸補助筋としての役割が不十分となってしまい、呼吸が弱くなる時間帯となります。そこにSASが重なると、酸素不足が顕著になり、日中のさらなる症状悪化、呼吸不全につながります。

最善の対応策は、いち早くSASの兆候を察知して、診断、治療を受けることです。とくにCPAPによる治療を行うことで、症状の悪化が是正され、死亡率も軽減されることが知られています。患者さん本人はSASに気づかず、「COPDが進行して息苦しさが強くなっているのでは」などと考えがちですので、ご家族や身近な人が注意して見守ることが大切です。

在宅酸素療法を行っているCOPD患者さんも、SASを合併しているオーバーラップ症候群に対しては、夜間睡眠時にCPAPによる治療を適応することが多く、効果を上げています。

次回は、これまでの連載のまとめと、食事や運動、睡眠環境など生活習慣に関するアドバイスをご紹介いたします。

北 英夫(きた・ひでお)先生

1987年京都大学医学部卒業。博士(医学)。専門分野は、呼吸器内科全般、睡眠時無呼吸症候群、ぜん息、COPD。日本呼吸器学会専門医・指導医・代議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医など。現在、高槻赤十字病院呼吸器内科部長。京都大学医学部臨床教授も務めている。