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第39回日本小児臨床アレルギー学会共催 市民公開講座
「知りたいこどものアレルギー」レポート(全10回)
⑤小児皮膚科医が考えるアトピー性皮膚炎の外用コントロール

2023年7月15日(土)~16日(日)、福岡国際会議場にて第39回日本小児臨床アレルギー学会学術大会が行われ、その中で、16日に環境再生保全機構(ERCA)主催による市民公開講座「知りたいこどものアレルギー」(座長:昭和大学小児科学講座 今井孝成教授)が開催されました。

この連載コラムでは、各プログラムの講演の概要と、事前に寄せられた質問に対する専門医の回答を、全10回にわたり紹介しています。

プログラムの2番目はアトピー性皮膚炎について、福岡市立こども病院皮膚科科長、こどもアレルギーセンター副センター長の工藤恭子先生が登壇されました。「知りたいこどものアレルギー」レポート第5回の今回からは3回にわけて、工藤先生にお話いただいた講演内容をご紹介します。

工藤恭子先生

福岡市立こども病院皮膚科科長
こどもアレルギーセンター副センター長 工藤恭子先生

経皮感作を防ぎ、成人期に持ち越さないために

アトピー性皮膚炎は約80パーセントの患者さんは5歳くらいまでに症状が現れるといわれています。乳児期に発症して1歳を過ぎると良くなるパターンや、ゆっくり良くなるパターン、いったん良くなった後、思春期以降に再燃するパターンなどさまざまです。

乳児期にアトピーを発症された方の7割は1歳半までには改善するといわれていますが、それでも乳児期に炎症をしっかり抑えておくことが重要です。

健康な肌はバリアが整っていて、卵や小麦といった食物のアレルゲンを跳ね返す力がありますが、アトピーによってダメージを受けている皮膚では、アレルゲンが透過して感作が成立してしまいます。これを「経皮感作」といいます。口から食品を食べると経口免疫寛容といってアレルゲンを起こしにくい方向に反応してくれますが、皮膚から入ってくると「感作」といってアレルギー反応を起こす方向に動いてしまうのです。実際、皮膚の炎症の積極的治療開始までの期間が長ければ長いほど、食物アレルギーの発症率が上がることがわかっています。大切なことは、経皮感作を防ぎ、成人期に重症アトピー性皮膚炎を持ち越さないようにすることです。

スキンケアについて

①スキンケアに使用する洗浄剤について

具体的なスキンケアの方法についてお話します。市販で売られている固形石鹸は規格上、弱アルカリで作られていて洗いあがりがキュッとして気持ち良いのですが、皮脂を取り過ぎてしまう傾向があり、少しゴワッとしたような肌になります。そのぶん、保湿をする必要が出てきます。

多くの赤ちゃん用ボディーソープは弱酸性のことが多く、洗いあがりがヌルッとした感じがしますが、生後2か月を過ぎると皮脂の分泌量は減ってきますし、アトピー性皮膚炎のお子さんの皮膚は少しアルカリに傾きます。皮膚がアルカリに傾いてくると皮膚の表面の細菌叢が増えてくることがわかっていますので、個人的には、小さなお子さんやアトピー性皮膚炎のお子さんでは弱酸性の洗浄料、ボディーソープが望ましいと思います。ただ、このあたりのことは日本ではまだエビデンスがはっきりしていない部分があるため、日本のガイドラインでは低刺激性・低アレルギー性で添加物の少ないものを使い、よく泡立てて洗って、十分にそそぐことが大切と書かれています。ヨーロッパ、アメリカ、アジアでは弱酸性のボディーソープが推奨されています。

②保湿剤によるアトピー性皮膚炎発症の予防効果について

湿度が高い時期でもスキンケアは大切です。乳幼児のお子さんは成人女性の4分の1くらいしか角層の水分量がないということがわかっています。たとえ夏であっても大人に比べると皮膚が乾燥しているといえます。

乳幼児健診を受診される保護者の方にアンケートを取ってみると、7割くらいの方がすでにスキンケアをしていると回答するほど、皆さん気を遣われているようです。これは、2014年に国立成育医療研究センターの研究で、赤ちゃんが生まれてから毎日保湿剤を全身に塗ることで、アトピー性皮膚炎の発症が32%低下したというデータがきっかけと考えられます。この研究を受けて保湿とアトピー性皮膚炎の因果関係を調べた研究は世界各国で行われましたが、結果にばらつきがあり、全ての新生児、赤ちゃんに当てはまるわけではないというのが最近主流の考え方です。

もう少し詳しく話すと、アレルギーハイリスク児(家族にアトピーやアレルギー疾患があるお子さん)の方、あるいは使う保湿剤の種類がエモリエントといってワセリンやオイルのような油で膜を張るタイプのものよりも、モイスチャライザーといって角層に水分を持ってくるような保湿成分が含まれるタイプ(ヒルドイドやセラミド)が入った市販品を使っている方、あとは、毎日お風呂に入りケアした方を対象とすると、先ほどの国立成育医療研究センターの研究のようにアトピー性皮膚炎の発症低下が認められるかもしれないといった、いろいろな考え方があります。

③スキンケアで一番大事なこと

一番大事なことは、保湿だけでは完全に予防することができないということです。湿疹が少しでもあれば、そこはステロイドを塗って炎症を抑える必要があります。例えば、生後1か月頃の赤ちゃんは皮脂の分泌が多い時期なので、新生児ざ瘡というにきびがよく見られます。炎症の強いお子さんだと、脂漏性皮膚炎という状態になりますが、炎症が強すぎると洗浄と保湿だけでは治りません。

◆対処のポイント◆

  • ・泡の洗浄料を使って手で優しく洗い、しっかり洗い流す
  • ・かさぶたになってしまったところはオイルで15分ほど浸してから泡で二度洗い、三度洗いする
  • ・炎症がひどいときはステロイドの軟膏基剤を使う

アトピー性皮膚炎の診断基準について

口の周りや首、体に紅斑が広がってくると、私たち医師はアトピー性皮膚炎かもしれないと考えます。アトピー性皮膚炎の診断基準となるのは、「痒みがあること」、「特徴的な湿疹病変が左右対称性にあること」、「赤ちゃん・乳児期では2か月以上続く、1歳以降では6か月以上続いていること」です。

ステロイドの適量・塗り方・外用期間は?

①大人の両手のひら分の面積に塗る量の目安

FTU(フィンガーチップユニット)という単位を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。これは、大人の人差し指の第一関節分の長さの軟膏の量(ローションの場合は一円玉大)を、大人の手の平2枚分の範囲に塗っていくことを指します。これはあくまで、これくらいの量を塗るのですよという目安です。

②全身に湿疹がある場合の1回に塗る量の目安

全身に湿疹がある場合、FTUの計算でいくと1歳前後のお子さんでも5グラムチューブ1本、大人だと20グラムの量が必要になってきます。なぜこんなにたくさん塗らないといけないのかなと思われるかもしれませんが、炎症を起こしている皮膚というのは、デコボコがあり、盛り上がっているのです。あまり塗りたくないという気持ちが働いて薄く塗って擦り込んでしまうと、皮膚が盛り上がったところに薬が残りません。たっぷりと厚みをつけて覆うように塗ってあげると、それだけで薬の効果は十分発揮されてきます。ツルッとした皮膚になってくると、今度は薬の量は減らしていけば良いのです。

ステロイド外用量の目安(FTU)
軟膏使用量 FTU(1FTU=0.5g)
小児 顔&頸部 上肢片側 下肢片側 体幹(前面) 体幹(背面)
3~6か月 1(0.5g) 1(0.5g) 1.5(0.75g) 1(0.5g) 1.5(0.75g)
1~2歳 1.5(0.75g) 1.5(0.75g) 2(1g) 2(1g) 3(1.5g)
3~5歳 1.5(0.75g) 2(1g) 3(1.5g) 3(1.5g) 3.5(1.75g)
6~10歳 2(1g) 2.5(1.25g) 4.5(2.25g) 3.5(1.75g) 5(2.5g)
成人 顔&頸部 上肢片側(腕&手) 下肢片側(大腿~足) 体幹(前面) 体幹(背面)
- 2.5(1.25g) 3+1(2g) 6+2(4g) 7(3.5g) 7(3.5g)

(出典)『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021』(日皮会誌:131(13), 2691-2777, 2021)2720頁より

実際、急性期の場合は「テカテカ光るくらい塗りましょう」と伝えています。広範囲に湿疹があるお子さんの場合は、見た目では湿疹がないように見えても、全身に塗ることが大切です。湿疹の有無にかかわらず、全身の皮膚でアトピー性皮膚炎のバリア機能に関わる遺伝子の発現レベルが大体同じであるとのデータもあります。今は湿疹がないように見えても、潜在的に隠れた炎症があるかもしれないので、全身に塗りましょうということをお伝えしています。

全身に軟膏を塗ったときは「チュビファースト」のようなチューブ型の包帯で覆うとよいでしょう。シルクでできていて付け心地がよく、好きな長さに切ることもでき、洗濯機で洗うことで繰り返し使用することが可能です。

③適切な外用期間について

見た目が良くなったとしても、お子さんの肌を触ってみてちょっとゴワゴワしているとか、つまんでみたときに少し硬い感じがするなという場合は、まだ炎症が残っています。「寛解導入」という言い方をするのですが、触ってツルツルになってからもプラスアルファの期間、中等症以上であれば1週間、軽症なら3日間、など、長めに塗っていただいた方がよりしっかり炎症を取ることができます。

ステロイドについては、副作用が気になる方もいらっしゃると思います。次回は、工藤先生の講演の後半、ステロイドの副作用や、ステロイド以外の外用薬についてご紹介します。