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日本で、海外で学び、実践する「呼吸リハビリテーション」
~進化し続ける呼吸リハビリテーションの世界~
① 科学的に有効性が認められている呼吸リハビリテーション

呼吸リハビリテーション(呼吸リハビリ)は呼吸器に関連した病気で生じる息切れや咳、痰などのつらい症状を緩和し、毎日をすこやかに過ごすための治療法です。特にCOPDに対する呼吸リハビリの有効性は科学的に証明されていて、日本だけでなく、世界中で推奨されています。

兵庫医科大学リハビリテーション学部で学部長を務める玉木彰先生は、欧米での豊富な研修・留学経験を持ち、日本における呼吸リハビリの実践、研究、普及に力を尽くされています。

そこで今回は、呼吸リハビリの歴史的経緯や玉木先生の海外体験、呼吸リハビリに関する最新の情報などを、5回にわけてご紹介いたします。

ポイント!

米国でガイドラインが発表された1997年、日本の呼吸リハビリプログラムにパラダイムシフトが起こりました

玉木 彰先生 一般社団法人日本呼吸理学療法学会 理事長
兵庫医科大学 リハビリテーション学部
学部長・教授 玉木 彰先生

プログラムの中心は、トレーニングよりコンディショニングが主流の日本

呼吸リハビリの主な内容は、患者さんそれぞれに適した「運動療法」や自分の病気を理解して治療に取り組むための「セルフマネジメント教育」、食事の見直しなどの「栄養療法」、患者さん・ご家族への「心理的・社会的な支援」などです。専門的な知識と技術を持つ理学療法士などの医療者とパートナーシップを組みながら、生涯にわたって長く継続的に行います。これにより、可能な限り病気の進行を予防し、または健康状態を回復・維持するのが目的で、特にCOPDに対する高い効果はさまざまな研究で実証済みです。

日本で呼吸リハビリが始まったのは、1950年代末と言われています。日本では、当時有効な治療法が確立されていなかった肺結核の患者さんに対して主に行われるようになりました。

1990年代半ば頃の日本の呼吸リハビリのプログラムは、米国のそれとは大きく異なる内容でした。

日本では息苦しい人、呼吸不全の人に対して運動を中心としたトレーニングを実施するという発想があまりなく、コンディショニングが主流でした。コンディショニングとは、運動療法を始める前に、心身の準備を整えるためのプログラムのことで、呼吸に合わせて関節をほぐしたり胸郭を動かすなどのリラクセーション、口すぼめ呼吸や腹式呼吸などの呼吸法指導、喉に絡んだ痰を排出するための排痰指導などが含まれます。

運動療法の効果が科学的に証明され、呼吸リハビリが一気に進歩、普及しました

ところが、1997年に、米国胸部医師学会と米国心血管・呼吸リハビリテーション協会によって、呼吸リハビリの科学的な効果を明確に示したガイドラインが発表され、日本はもちろん世界中の呼吸リハビリプログラムのパラダイムシフトが起こりました。ガイドラインでは、筋力・持久力トレーニングをはじめとする運動療法のエビデンス(科学的根拠)が明示されており、以降日本でも、運動療法が呼吸リハビリの中核ととらえられるようになりました。ただ、長く実践されてきたコンディショニングも今日の日本においてはとても重視されています。胸郭を直接動かすプログラムは、欧米ではほとんど実施されておらず、日本独自の治療法と言えるでしょう。コンディショニングに関するエビデンスは明確とは言えませんが、今後さらに研究が進み、その有効性が科学的に示されることが期待されます。

翌年の1998年、玉木先生は米国研修に赴いて、日本とは異なる現地のリハビリを目の当たりにする機会に恵まれました。次回からは、玉木先生の海外留学・研修の体験をご紹介します。

玉木 彰(たまき・あきら)先生

1988年京都大学理学療法学科(現 京都大学医学部人間健康科学科)卒業。1999年大阪教育大学教育学研究科健康科学専攻修士課程修了。修士(学術)。2005年兵庫医科大学 博士(医学)。星ヶ丘厚生年金病院、大阪府立大学(現 大阪公立大学)理学療法学科助手、京都大学医学部保健学科助教授、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻准教授などを経て、現職。一般社団法人日本呼吸理学療法学会理事長。専門理学療法士(呼吸理学療法・心血管理学療法)・認定理学療法士(呼吸)・臨床工学技士・呼吸療法認定士・呼吸ケア指導士・サルコペニア・フレイル指導士。1998年より複数回欧米にて留学、研修に赴く。