本文へ移動

日本で、海外で学び、実践する「呼吸リハビリテーション」
~進化し続ける呼吸リハビリテーションの世界~
③ 欧米で見た呼吸リハビリテーションの最前線(その2)

兵庫医科大学リハビリテーション学部で学部長を務める玉木彰先生は、欧米での豊富な研修・留学経験を持ち、日本における呼吸リハビリテーションの実践、研究、普及に力を尽くしています。連載3回目の今回は、米国留学とオランダ研修の内容や思い出深いエピソードなどをご紹介します。

ポイント!

日本も欧米も、どちらの呼吸リハビリテーションも進化し続けています

玉木 彰先生 一般社団法人日本呼吸理学療法学会 理事長
兵庫医科大学 リハビリテーション学部
学部長・教授 玉木 彰先生

これまで学んだ経験が、患者を救うことに

2000年の米国研修から戻った後、2001年に京都大学で准教授となり、教育・研究・臨床に力を注ぎました。その頃の京都大学では肺移植の準備が進められており、2002年には一例目が実施され、私の米国での学びが、移植後のリハビリテーションにきちんと応用できたと感じています。

教室や研究室、隣接する京都大学医学部附属病院を行き来しながら、当時の京大病院でもまだあまりやられていなかった呼吸リハビリテーションをいろんな診療科の患者さんに対して取り組みました。そのなかで、記憶に残るエピソードがあります。

増悪により痰がたまり、無気肺の状態になった重度のぜん息患者さんがおられました。人工呼吸器を装着するかどうかの段階であり、もし挿管したら抜管は難しいだろうという状態でしたが、担当の医師から「呼吸リハビリテーションで何かできることはないか」と相談をされました。

そこで私が時間をかけて痰を排出するための手技を行ったところ、排痰が成功し、潰れていた肺が元に戻り挿管を免れました。患者さん本人はもちろんのこと、周りの先生方も驚かれていましたし、何より私自身、これまで勉強してきた呼吸リハビリテーションで患者さんの命を救うことに貢献できたことが嬉しく思いました。

以降、より一層呼吸リハビリテーションの実践を通して、その目的や意義、有効性を伝える活動にも引き続き積極的に取り組みました。

ふたたび米国へ

しばらくして、私は再び米国へ短期留学に訪れます。

呼吸ケアを専門とする医療者の専門性向上を図ることを目的にさまざま教育プログラムを提供している米国呼吸療法学会(AARC)という組織が、インタナショナル・フェロー(国際研究員)を公募していることを知り、チャレンジすることにしたのです。米国には、呼吸療法士という資格が存在します。彼らは、人工呼吸器の管理や挿管、抜管、血液ガスの採取など、日本では医師でしか許されない医療行為を行うことができます。私は、その米国呼吸療法士がどのような働きをしているのか知るため応募し、ありがたいことに採択されました。

AARCの国際研究員として、ロマリンダ大学医療センターとネブラスカ大学医療センターで、世界各国から来た医師や看護師、他の医療職とともに、約2カ月間にわたって人工呼吸に関する講義に出たり、医療現場での呼吸療法士の仕事を垣間見ることができました。

ロマリンダ大学医療センター留学中の玉木先生

ネブラスカ大学医療センターの呼吸リハビリテーション施設

この留学で気づいたことは、病院内にとどまらず、病院同士や病院と診療所、在宅との連携体制が日本以上に確立されていることです。

日本でも近年連携システムが進展していますが、米国では患者さん情報のやりとりが施設間で非常にスムースに、デジタル技術を活用して行われており、患者さんの負担がより少ないように感じました。

私たちも今、急性期病院と回復期病院、在宅・訪問医療におけるリハビリテーションについて、情報提供書を作成して、患者さんの情報を共有する取り組みを続けているところです。信頼性の高い呼吸リハビリテーションを地域の方に提供できるよう、少しずつでもシステムを改善していきたいと思っています。

2度のオランダ訪問。呼吸リハビリテーション専門施設の訪問をきっかけにリハビリテーションの進化を感じることができました

オランダには、COPDやぜん息など慢性疾患を持つ人々の治療を専門とするCIROという施設があります。呼吸リハビリテーション専門の大規模な入院・リハビリテーション施設であり、常時200人くらいの患者さんが入院されているのですが、たとえば13時から14時まではプールでのトレーニング、15時から16時まではマシンのトレーニングというように、一人ひとりに合った運動療法や栄養療法のプログラムが組まれていて、一定期間、集中的に呼吸リハビリテーションを受けることができます。

CIROでは毎年12月、その年の呼吸リハビリテーションに関する新しい情報や研究成果、科学的な効果など多彩なテーマについて、約2日間、講演や発表、セミナーが行われます。私は2017年と2019年の2回参加し、呼吸リハビリテーションの進化を目の当たりにしました。また、CIROにある大きなプールや各種マシンなど充実した設備、ノルディックウォーキング(2本のポールを使って歩行運動を補助するウォーキング)を楽しめる広大な敷地、多種多様なプログラムなどを見学しました。もちろん、これだけの方が入院されているのですから膨大なデータやエビデンスも集まっています。日本では各病院にリハビリテーションルームがあることが多いのですが、CIROの壮大なスケールに驚愕しました。

次回は玉木先生が感じた日本と欧米の呼吸リハビリテーションの違いや共通点をご紹介します。

玉木 彰(たまき・あきら)先生

1988年京都大学理学療法学科(現 京都大学医学部人間健康科学科)卒業。1999年大阪教育大学教育学研究科健康科学専攻修士課程修了。修士(学術)。2005年兵庫医科大学 博士(医学)。星ヶ丘厚生年金病院、大阪府立大学(現 大阪公立大学)理学療法学科助手、京都大学医学部保健学科助教授、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻准教授などを経て、現職。一般社団法人日本呼吸理学療法学会理事長。専門理学療法士(呼吸理学療法・心血管理学療法)・認定理学療法士(呼吸)・臨床工学技士・呼吸療法認定士・呼吸ケア指導士・サルコペニア・フレイル指導士。1998年より複数回欧米にて留学、研修に赴く。