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日本で、海外で学び、実践する「呼吸リハビリテーション」
~進化し続ける呼吸リハビリテーションの世界~
④ 日本と欧米の呼吸リハビリテーション、どう違う?

兵庫医科大学リハビリテーション学部で学部長を務める玉木彰先生は、欧米での豊富な研修・留学経験を持ち、日本における呼吸リハビリテーションの実践、研究、普及に力を尽くしています。連載4回目の今回は、玉木先生が感じた日本と欧米の呼吸リハビリテーションの違いや共通点についてご説明します。

ポイント!

欧米にはない、コンディショニング。本邦独自の手技として発展しました

玉木 彰先生 一般社団法人日本呼吸理学療法学会 理事長
兵庫医科大学 リハビリテーション学部
学部長・教授 玉木 彰先生

科学的な効果を検証しながら進化を遂げてきた呼吸リハビリテーション

私が初めて米国に研修に行った1998年と比べて、日本も欧米も、呼吸リハビリテーションの科学的効果を実証しながら、その実践、普及に取り組み、大きく進化させてきました。

1998年の米国研修では、日本ではまだ実施されていなかった脳死肺移植の術後リハビリテーションを実地で体験するということが目的だったので、まさに学ぶこと、得ることばかりでした。

その後も、リハビリテーションのマニュアル化、システム化、データベース化が必要なこと、患者さんに目的を持ってリハビリテーションに取り組んでもらうことなど、海外研修・留学でたくさんの気づきを与えられました。それらを少しずつでも、日本の呼吸リハビリテーションの進展のために役立てたいと考えています。

運動療法中心の欧米と、コンディショニングも大切にする日本の呼吸リハビリテーション

日本と欧米の一番の違いは、欧米の場合、すでに科学的に証明されている運動療法を中心とした呼吸リハビリテーションとなっている点でしょう。

連載第1回でもご紹介したように、日本では「コンディショニング」のように、エビデンスの集積が十分でないプログラムも活用されています。胸郭を直接動かす手技は、欧米ではほとんど用いられていませんが、コンディショニングをすることで、運動前にモチベーションを高めたり、運動後に身体を楽にするような効果があると私は考えています。

欧米では、昨日は上半身を鍛えたから、今日は下半身というように、強化したい部分をダイレクトかつ重点的に鍛えることが重視されています。しかし日本では、40~50分程度の呼吸リハビリテーションプログラムの中で、「呼吸がかなり苦しい人は運動を少なめにしてコンディショニングに時間をかける」というように、患者さんの症状、状態、気持ちを考えながら、プログラム全体の中でコンディショニングを捉えることを大切にしています。

コンディショニングの科学的効果については、今後各種データを集積、分析して、検証が続くことでしょう。

呼吸リハビリテーションを行える医療機関の充実が今後の課題

日本と欧米の呼吸リハビリテーションには、違いもありますが、共通の課題もあります。

呼吸リハビリテーションは、患者さんと医療者がパートナーシップを組んで行うものですから、呼吸リハビリテーションに関する専門の知識や技術を持つ理学療法士などがいる医療機関が近くにあることは望ましいと言えます。ところが残念なことに、呼吸リハビリテーションを行うことのできる医療機関・施設は、日米欧ともに決して多くはないのです。どの国でも、都市部に偏在していて、地方に少ないという傾向もあります。欧米ではオンラインでのリハビリテーションに関する論文も出ていますが、今後、呼吸リハビリテーションを万人が受けられるような環境に整えることが課題と言えるでしょう。

なお、日本では日本呼吸療法医学会と日本呼吸ケア・リハビリテーション学会の2学会合同によるRST(呼吸ケアサポートチーム)認定・登録制度を設けており、ホームページで国内認定施設を確認できるようになっています。

【参考】RST認定施設一覧(別ウィンドウで開きます)

次回、本コラムの最終回では、玉木先生から最近の呼吸リハビリテーションの動向やこれまでのまとめ、読者の皆様へのメッセージを紹介します。

玉木 彰(たまき・あきら)先生

1988年京都大学理学療法学科(現 京都大学医学部人間健康科学科)卒業。1999年大阪教育大学教育学研究科健康科学専攻修士課程修了。修士(学術)。2005年兵庫医科大学 博士(医学)。星ヶ丘厚生年金病院、大阪府立大学(現 大阪公立大学)理学療法学科助手、京都大学医学部保健学科助教授、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻准教授などを経て、現職。一般社団法人日本呼吸理学療法学会理事長。専門理学療法士(呼吸理学療法・心血管理学療法)・認定理学療法士(呼吸)・臨床工学技士・呼吸療法認定士・呼吸ケア指導士・サルコペニア・フレイル指導士。1998年より複数回欧米にて留学、研修に赴く。