「学会最前線 アレルギーの最新研究を紹介します」では、学会で発表された最新研究をわかりやすくみなさんにお届けします(随時掲載)。第2回となる今回は2024年11月2~3日、名古屋市で開催された第61回日本小児アレルギー学会学術大会から「アレルギー」についてレポートします。大会内で開かれたシンポジウム「アレルギー発症予防を極める」にて、崎原徹裕先生(社会医療法人かりゆし会ハートライフ病院)が発表した「牛乳・鶏卵・ピーナッツ いつから食べさせる?食物アレルギー発症予防:『早めに食べる』だけでは不十分」について紹介します。
かつては食物アレルギー発症予防として「抗原の摂取開始を遅らせる」のが主流でしたが、2008年の「二重抗原曝露仮説」の提唱を機に、「摂取開始を遅らせない」という考えが広がりました。
ピーナッツの早期摂取で発症予防、加熱卵の早期摂取で発症予防、生後1カ月からの少量ミルク摂取で発症予防といった研究が相次いで報告され、これらを踏まえて、各国でガイドラインが作成されています。
組織(掲載年) 国/地域 |
牛乳:牛乳由来育児用調製粉乳(普通ミルク)、加水分解乳 |
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BSACI(2018) イギリス |
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AAP(2019) 米国 |
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ASCIA(2019) オーストラリア |
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AAAAI, ACAAI, CSACI(2021) 米国、カナダ |
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EAACI(2021) ヨーロッパ |
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DGAKI, DGKI(2022) ドイツ |
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AEP, SEICAAP, SEGHNP, SENEO(2022) スペイン |
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CPS(2022) カナダ |
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CPS commentary(2023) カナダ |
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CSACI(2023) カナダ |
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ESPGHAN(2024) ヨーロッパ |
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普通ミルク(CMF:Cow's Milk Formula) 一般的な牛乳由来の育児用調製粉乳のこと。特別な加工を施していない通常のミルクで、市販されている多くの粉ミルクがこれにあたる。
加水分解乳 牛乳に含まれるたんぱく質をあらかじめ細かく分解(加水分解)したミルク。消化しやすく、アレルゲン性をある程度低減することが期待される。「部分加水分解乳」と「高度加水分解乳」がある。
アミノ酸乳 牛乳のたんぱく質をさらに分解して、たんぱく質の最小単位であるアミノ酸の形にしたミルク。アレルギーリスクが非常に高い赤ちゃんに使われることが多く、医師の指導のもとで用いられる。
抗原早期摂取は小児期の食物アレルギー発症予防戦略の一翼を担っています。ピーナッツや鶏卵の生後4~6カ月ころからの摂取開始が推奨され、国や地域によっては有効性が示唆されています。一方、実臨床にはいくつかの課題があります。摂取の継続性を高め、耐性の喪失を防ぐため週1、2回以上の定期的な摂取を継続する必要があります。乳児期のアナフィラキシー(アレルゲンが体内に入り、複数の臓器に全身性にアレルギー症状を引き起こす過敏反応で、生命に危険が及ぶ可能性がある)を防ぐため、潜在的な感作陽性乳児でも安全に摂取できる食材の開発や、肌からのアレルゲン侵入を最小限に抑えるための抗炎症外用療法の早期開始が求められます。
感作陽性(かんさようせい) ある食べ物などに対して体が反応する準備ができている状態を「感作」といい、血液検査などでアレルギーに関係する抗体(IgE)が見つかることを「感作陽性」と呼ぶ。ただし、感作陽性でも、実際に食べて症状が出るとは限らないため、「アレルギーがある」とは必ずしも言えない。
それでは、ピーナッツ、鶏卵、牛乳の早期摂取を日本でも推奨すべきでしょうか。
エコチル調査(子どもの健康と環境に関する全国調査)の解析によると、乳児期にピーナッツを摂取した4歳児と摂取しなかった4歳児の有病率に有意差はありませんでした。ただ、乳児湿疹のあった子どもに限ってみれば、乳児期にピーナッツを摂取した子どもの方が摂取していない子どもと比べて有病率は少ないという結果になりました。日本はピーナッツアレルギーの有病率が0.2%と低い国なので、全体ではなく、沖縄県などの有病率が高い地域に限定して、かつ湿疹のある子どもに対して早期摂取の検討の余地があるかもしれません。
エコチル調査 10万組の子どもたちとその両親が参加する大規模な疫学調査で、環境要因が子どもたちの成長・発達にどのような影響を与えるのかを明らかにするのが目的。「エコチル」とは、「エコロジー」と「チルドレン」を組み合わせた言葉。
鶏卵アレルギー発症予防については、全ての子どもで5~6カ月からの鶏卵タンパクの摂取開始、アトピー性皮膚炎の子どもは積極的な湿疹管理と6カ月から微量加熱卵の摂取を開始するというのが基本です。乳児期早期からの湿疹の期間が長い、または中等症から重症の湿疹などのハイリスク児に対しては、湿疹の治療と並行してスクリーニング検査を検討しても良いと考えます。ただし、感作陽性だった場合は速やかに経口負荷試験を実施し、摂取開始が遅れないようにすることが重要です。
牛乳アレルギー発症予防では、これまでの研究から、生後3日間の完全除去と生後1カ月以降の継続摂取が重要であることが分かってきています。生後3日間は完全母乳栄養を目指し、CMFを摂取した場合は、生後1カ月以降も中止せず継続。完全母乳栄養を達成し、早期発症の湿疹がない場合は、牛乳アレルギー予防を目的としたCMF補足は不要と考えられます。
※本研究は現在も進行中であり、今後のガイドライン改訂や地域差により変わる可能性があります。アレルゲンの除去や早期接種に関する実際の対応は、自己判断ではなくかかりつけの小児科医にご相談ください。
崎原 徹裕(さきはら・てつひろ)先生
2007年琉球大学医学部医学科卒業後、沖縄県で初期臨床研修および小児科後期研修を修了し、2012年かりゆし会ハートライフ病院へ赴任。2015年あいち小児保健医療総合センターにてアレルギー専門研修を行い、2016年に再びハートライフ病院へ。2020年より同院小児科部長。小児科専門医・指導医、アレルギー専門医。
学会最前線 アレルギーの最新研究を紹介します② ~牛乳・鶏卵・ピーナッツ「いつから与えてよいの?」~(全3回)