最近、百日咳が大流行しています。百日咳をはじめ、RSウイルス、マイコプラズマといった感染症は細菌やウイルスの感染により罹患しますが、ぜん息やCOPDなどの呼吸器疾患を持つ人は、感染すると重症化しやすいと考えられています。この連載では、これらの感染症はどのように感染するのか、感染を予防するにはどうしたらよいのか、感染したらどのような治療法があるのか、ぜん息・COPDとの関係性などを、すこやかライフ編集委員の佐藤さくら先生に伺います。第1回は百日咳について紹介します。
百日咳は百日咳菌という細菌に感染することで起きる呼吸器感染症です。名称の通り、咳が長く続くことが特徴で、古くから知られている病気です。感染経路は鼻咽頭や気道からの分泌物による「飛沫感染」と、感染者と直接、または間接的に接触することによる「接触感染」です。2018年以降は、すべての医師が届出をする「5類全数把握対象疾患」になりました。ワクチンがあり、乳児期に接種すると感染予防できます。近年は大流行がなかったのですが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで体の中の免疫が変わった可能性もあり、今年は大流行しています。日本だけではなく、欧米や中国などでも感染者数が増えています。インフルエンザやRSウイルスもコロナのパンデミックがあった前後で、感染状況がずいぶん変わりました。季節性が強かったのに、今は一年中感染症が出ていますし、重症化するケースも出ています。菌を持っている方が広く行動するようになって、菌に対する免疫のない人が発症しているためだと考えられます。
百日咳は2025年に大流行しています。国立健康危機管理研究機構(JIHS)によると、日本国内で今年1月から7月6日までに報告された百日咳感染者数は4万3000人を超え、最多だった2019年の1万6845人の約2.5倍になっています。東京都のデータによると、春から報告者数の増加が始まり、6月以降はさらに増加しています。
※2018年1月より定点把握疾患から全数把握疾患に変更されました。
受理週別報告数推移(2025年)
年別報告数推移(過去10年)
(引用元:東京都感染症情報センターのホームページより)
百日咳は鼻水や軽い咳という風邪のような症状で始まります。最初の時点では風邪か百日咳かを区別するのは難しいです。ただし、百日咳は咳き込みが長く続き、息が吸いにくくなります。息が止まったような特徴的な咳が出て、息を吸うときに「ヒュー」というような音が鳴ります。
ぜん息 | 百日咳 | |
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主な症状 | ゼーゼー、ヒューという音(喘鳴、息を吐くときに多い)を伴う咳が出る | 鼻水や長引く咳、息を吸うときに「ヒュー」という音が出る |
主な対象 | 子どもから大人まで幅広い | 乳幼児 ※そのほかの年齢層も感染する可能性があります |
主な治療法 | 吸入ステロイド薬や気管支拡張薬 | マクロライド系抗菌薬(抗生物質) |
赤ちゃんで感染するとけいれんを起こしたり、脳症になったりすることもあります。重症化する場合があるので注意が必要です。肺炎になり、呼吸困難になったり、低酸素で酸素投与が必要になったりすることもあります。大人では少ないですが、乳児だと特徴的な咳がなく息を止めているような「無呼吸発作」を引き起こすことがあります。
百日咳の治療法はマクロライドという系列の抗生剤の投与が推奨されています。マクロライド系抗生剤とは、細菌のタンパク質合成を阻害することで抗菌作用を示す薬です。発症してから早めに、少なくとも3週間以内の投与が望ましいとされています。咳の症状については劇的に効くという感じではなく長引きますが、大人の場合は対症療法薬を出して経過を見ることが多いです。適切に排痰することが重要なため、咳止めの薬は使わないほうがよいと言われています。気道に痰がたまっていると、呼吸が苦しくなったり、感染症のリスクが高まったりします。
ワクチンは5種混合ワクチンです。以前は3種混合ワクチンでしたが、2024年4月から5種混合ワクチンが定期接種として導入されました。
5種混合ワクチンは生後2カ月から接種できます。以前は3種混合を1歳までに3回摂取して、その後、1歳半ぐらいまでに1回追加接種というやり方でしたが、今は5種混合を乳児期に3回接種して、1歳半ぐらいまでに1回追加接種します。さらに、小学校に入学する前に任意で3種混合を接種することができます。小学校5年生ぐらいのときに、2種混合というワクチンを接種していますが、百日咳が増えたことを背景に、百日咳を含む3種混合ワクチンを打ってもいいということになっています。
乳児期の重症例が多かったので、低年齢からワクチンを接種し、抗体を作って予防するのがねらいです。ワクチン投与から時間がたつと抗体が下がってしまうことがわかってきたので、途中の年齢で追加接種をするようになりました。
定期接種以外の任意接種については、妊婦さんや赤ちゃんに接する機会のある大人はワクチンを接種したほうがよいという報告が海外ではあります。
3種混合ワクチンと5種混合ワクチン 5種混合ワクチンはジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、ヒブ感染症の5種の感染症を予防するワクチンで、2024年4月から定期接種となりました。それ以前はジフテリア、百日咳、破傷風の3種の感染症を予防する3種混合ワクチンに、ポリオワクチンを加えた4種混合ワクチンが定期接種として推奨されていました。
百日咳の感染経路は飛沫感染、接触感染なので、ワクチン以外の予防策として、標準予防策(手洗い、うがい、マスク着用)が有効です。感染者と隔離するのも重要です。咳が長引いている、または息が止まるような特徴的な咳が出るような場合は、早めに受診しましょう。血液検査、百日咳菌の遺伝子検査(LAMP法やPCR法)などで、百日咳かどうかを診断できます。
感染すると呼吸器症状が出てくることから、ぜん息やCOPDに持病のある方は増悪を引き起こす可能性が高いため、感染しないよう予防することが大事です。流行している時期には、手洗いなどの予防策をきちんとして、感染者には近づかないことが必要です。
百日咳はワクチンが有効なので、乳児期のワクチンの定期接種をきちんとしてください。全年齢を通じて、流行期には感染しないよう標準予防策をしてほしいです。疑わしい場合は早めに受診し、治療してください。家族に感染者がいたら、感染しないよう適切な隔離が必要です。
佐藤(さとう)さくら先生
1999年宮崎医科大学医学部卒業。同年宮崎医科大学小児科勤務。2005年国立病院機構相模原病院臨床研究センター アレルギー疾患研究部 流動研究員。13年同病院 臨床研究センター 病態総合研究部 病因病態研究室長。21年食物アレルギー研究室室長。23年アレルギー性疾患研究部長。