ぜん息やCOPDにまつわる知っておくとためになるお話を紹介するドクターの小話。今回からはすこやかライフ編集委員で、帝京大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー学 教授の長瀬洋之先生が、3回にわたって担当します。
今回のテーマは「在宅酸素療法」です。在宅酸素療法は1985年に初めて日本で保険適用され、今年でちょうど40年になります。在宅酸素療法とはどのようなものか、使うときの注意点などを交えて解説します。
在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)は、肺や心臓の病気などで血中の酸素が低下する方に酸素を補う治療です。息切れをやわらげ、体を動かしやすくし、生活の質を向上させ、病状を改善します。
在宅酸素療法は、生活場面に応じて次の二つの機器を使い分けます。
一つ目は自宅用の据置型酸素濃縮器です。家庭のコンセントで作動し、空気中から酸素を取り出して24時間安定して供給します。最近では、加温・加湿した酸素を高流量で鼻から送り、呼吸を助けるネーザルハイフロー療法も在宅で導入できるようになりました。2022年4月から保険適用となっています。呼吸のしやすさを改善し、痰の排出や二酸化炭素の蓄積軽減に効果が期待されています。
二つ目は外出用の酸素ボンベまたは携帯型酸素濃縮器(POC)です。外出時はボンベを引っ張るイメージがあるかもしれませんが、酸素流量が低めであれば、バッテリー駆動の携帯型酸素濃縮器はより軽量で、リュックやカバンに入るタイプもあります。例えば、本体が約2 kgと軽く、バッテリーが約1.5〜3時間駆動するタイプがあります。
在宅酸素療法は健康保険の対象です。酸素管理料・レンタル料などを含めた総額は月3〜3.5万円程度で、3割負担の場合は約9,000〜10,000円、1割負担の場合は約3,000円前後が自己負担の目安です。レンタルには、定期点検・消耗品交換・24時間サポートも含まれます。
酸素自体は燃えませんが、燃焼を強く助ける性質があります。もしご自身が喫煙していれば禁煙し、周囲の方も機器の近くでの喫煙はおやめください。ストーブやガスコンロ、ろうそくなどの火気は装置から2 m以上離すようにしましょう。整髪スプレーや殺虫剤を使うときは酸素を止めてください。基本を守れば、安全で安心して使用できます。
酸素濃縮器やボンベは防水ではありません。浴室には持ち込まず、脱衣所など乾いた場所に設置し、チューブだけを浴室に引き込みます。トイレや洗面所でも使用できますが、チューブに足を引っ掛けないよう整理・固定しておきましょう。
在宅酸素療法を行っている方も、旅行は可能です。ボンベを使用中の場合、航空機には持ち込めませんが、出発48時間前までに申請をすることで航空会社に機内酸素ボンベを用意してもらうことができます。
携帯型酸素濃縮器(POC)使用中の場合、認定機種なら航空機に持ち込み・使用が可能です。バッテリーはフライト時間の150%分を準備するのが安心です。POCを使用する場合は事前に航空会社に申請が必要です。特に海外の場合、航空会社によって対応が異なるので、必ず主治医に相談した上で、在宅酸素事業者や旅行会社などに問い合わせるようにしましょう。
旅先では、酸素供給会社に依頼して、宿泊先付近にボンベを手配してもらうこともできます。POCなら電源があればそのまま利用できます。
機器に通信機能を備え、使用状況や酸素飽和度(SpO₂)を医療機関が確認できるようになりました。
長時間バッテリーや太陽光充電対応機が開発され、停電時でも安心です。
酸素をつけてでも動くことが大切とされ、在宅での呼吸リハビリが注目されています。
在宅酸素療法は、「家に縛られる治療」ではなく、「動ける生活を支えるパートナー」です。軽量な携帯機器や新技術の登場により、外出や旅行も可能です。火気と水分に注意しながら、医療スタッフや家族と協力し、安全で快適な毎日を送りましょう。
長瀬 洋之先生
1994年東京大学医学部医学科卒業。96年東京大学物療内科勤務、2002年に医学博士取得。03年帝京大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー学、16年6月から現職。日本アレルギー学会 気管支喘息ガイドライン専門部会作成委員。